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18

「これで諦めてくれるかな」


 馬車が広場から離れていくのが見える。あのまま王都の方に帰ってくれたらありがたいけど、果たしてこれからどうなるだろうか。


「ねぇ、ハルト。王女様にあんな態度とっちゃダメだよ」


「そうですね。ソフィア様が寛容だったから良かったですけど、不敬罪とかであの場で切り捨てられても、文句言えませんよね」


「もしかして、わざと挑発するような態度を取ってたの?」


「はい。失礼な態度を取ったら向こうが、どんな反応をするのか見てみたくて」


 僕のことを力でねじ伏せようとしてくるのか、それとも僕のご機嫌を取りに来るのか。僕はさっきの会話で、どっちに転がるのか知りたかったのだ。


「キャロリーナさんが僕に斬りかかろうとしてきたのも作戦だったと思う?」


 結果的に相手は暴力的な解決方法を選んできた。あれはソフィア様の意思だったと考えてもいいだろうか。


「いや、あの時のお姫様は本気で止めようとしていたぞ。あれは女騎士の勝手な暴走だと俺は考える」


「だとすると、向こうは僕と戦う意思はないってことだよね。だったら、初めからキャロリーナさんみたいな好戦的な人を使者にしないで欲しかったな……」


 始めから尊大な態度でこちらに突っかかってきたから、こっちも警戒せざるを得なかったのだ。日本人の感覚から言わせてもらうと、あんな態度の人と仲良くしようとは絶対に思えない。


「女騎士も俺たちと一緒だったということだ」


「どういうこと?」


「主人のことが好きすぎて仕方ないんだ。その想いが行き過ぎて勝手な行動をとってしまったのだろう」


 キャロリーナさんはソフィア様のことをそれほどまでに尊敬しているということか。人を惹きつける何かが彼女にはあるのだろう。また会う機会があれば、今度は腹の探り合いではなく、純粋に話をしてみたいな。


 だけど、もう二度と会うこともないだろう。あっちから僕の心象は最悪だろうし、護衛任務の話もなくなったはず。最悪、僕は王都に出禁になってるかも。





 冒険者ギルド経由で僕たちにソフィア皇女殿下の護衛依頼が届いたのは、翌朝のことだった。




 朝一でアマリスさんに呼び出しを受けて、リサさんと一緒に彼の執務室を訪れる。相変わらず机の上には、書類が乱雑に置かれていた。


「急に呼び出してすまんな。ソフィア皇女殿下の王都までの護衛の件で呼び出させてもらった」


「本当に向こうから声をかけてきたんですか?」


 僕はソフィア様が僕に護衛任務を頼んできたことを信じられずにいた。昨日、あれだけ失礼な態度を取ったのだ。昨日の今日で依頼が舞い込んできたことに驚きを隠せなかった。


 僕みたいな怪しい人間を王都に引き連れて行く意味がわからない。もしかして、何かの罠だろうか。


「お前を直接指名の依頼だ。王族からの依頼というわけでな、こっちも断ることができなかった。お前の情報が漏れていることも含めて、本当にすまん」


 彼は座りながら背筋を伸ばし、両ひざに手をついて頭を下げた。


「顔を上げてくださいよ。アマリスさんが謝ることじゃありませんから」


「いや、本当に仰る通りです……私の村の人間が全て悪いです……」


 リサさんも暗い顔をして、頭を下げてくる。重たい空気が部屋の中に漂う。


 人の口に戸は立てられぬ。そもそも村の人たちは善意で僕の活躍を広めてくれているのだから、文句が言えるはずもない。


「リサさんのせいでもありませんって。それよりも、ソフィア様の護衛の話を聞かせてくれませんか?」


 二人の頭を上げさせ、本題に入ることにした。アマリスさんは一枚の紙を取り出し、テーブルの上に置く。今回の護衛任務の依頼書だ。


「内容は王都まで護衛。期間は二日を予定している。アーノルド騎士団の比翼部隊が同じく護衛についているが、彼女たちと協力して任務にあたって欲しいということだ」


「比翼部隊って周りにいた女性騎士たちのことですか?」

                                   

「ソフィア皇女殿下お抱えの部隊だ。女性だけの部隊で、隊長のキャロリーナ・キャメロットは、冒険者Sランクに相当する実力の持ち主だ」


「Sランク……」


 隣に座っていたリサさんが目を見開いて驚いている。キャロリーナさんってかなり強い人だったんだ。


「そんなに強い人がいるのに、僕の護衛なんて必要なんですか?」


「ここから王都までの道は整備されているし、盗賊や魔物なんかも滅多にでない。お前が呼ばれたのは、間違いなく王都に連れて行く為の口実だろう」


 王都に僕を連れていくことが目的ならば、僕はのこのこと着いて行ってしまっても大丈夫なのだろうか。


 でも、「僕に手を出したら反撃はしますよ」と昨日の時点で伝えているはずだし、むやみに危険な目に合わせられることもないのかな。


 正直に言うと、ソフィア様が何を考えているのかわからない。僕だったら、僕みたいな危険な人物と関わりたいとは思わない。それでも、僕にこうして護衛の任務を依頼してきたということは、どうしても王都に連れていきたい要件があるのだろうか。


 ここで悩んでいても仕方ない。直接合って聞き出せばいいだけの話だ。


「今回の話を引き受けることにします」


「本当に受けるのハルト? 王都で何かあるかも知れないんだよ?」


 リサさんは心配した表情で僕のことを見つめてくる。相手の本拠地に向かうわけだから、彼女が心配する気持ちもわかる。でも、こっちには頼れる仲間たちがいるのだ。


「僕には仲間(カード)たちがいますから、それにリサさんも、着いてきてくれますよね?」


「もちろん! ハルト一人だと何をしでかすか分からないからね! 最初に言っておくけど、王都の街の中でドラゴンを召喚したらダメだよ?」


 それはフリというやつだろうか。確約は出来ないので、軽く会釈してごまかしておいた。


「ということなので、アマリスさんお願いします」


「ああ。ソフィア皇女殿下にはこちらから伝えておく」


 こうして僕たちは再びソフィア様と会うことになったのだった。


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