怪鳥制圧
侵略者の読み方は、みゃーくみゃーくです。
「 私はCode.810、Red。『鳥獣取締り局構成員』だ。
知っていると思うが今この地球は危機に面している。
一年前、宇宙からの侵略者、『Mya-Cu-Mark26』によって開かれた電磁ゲート、『Die-輪』でこじ開けられた別次元から大小様々な超獣(鳥獣)がこの地球へと侵略を開始した。
まぁ簡単に言うとエイリアンが巨大な人喰いモンスターを連れてきたと思ってくれて構わない——。」
足元に転がる牛型の超獣、それと、たった今持ち主を失ったスマートフォンに標準装備されたニュースアプリの音声だけが静かなこの世界にこだまする。
Cord.Redはブーツについた汚れを払って意味も無い解説を続けるスマートフォンを放り投げる。
この世界ではことの始まりの情報より、今日を生きる為の食べ物にしか価値がなかったからだ。
目を閉じてRedは回想をする。
あれからの世界の発展と衰退は目まぐるしい限りであった。
新しいプロジェクトに乗り出した国家は繁栄し、時代の流れに乗り遅れた国家は過去の物となった。
まるで歴史の縮図であった。
もしかしたらこの事件の一番の被害者は富裕層かもしれない。
それも、政府が運営を始めた私たち、通称『鳥獣取締り局』にある。
富裕層は政府にそれぞれ決められた領地を与えられる。しかしそれは鎌倉時代の様な素敵なものではない。
少しばかりの税もかかるし、尚且つその土地に含まれる家屋を全て責任を持って超獣から保護しなくてはならないのだ。
そこで多くの富裕層は私達『The.GLIM-Cord』と呼ばれる超獣ハンターを雇ったのだ。
ちなみに政府が私たちを呼ぶときは、決まって『鳥獣取締り局構成員』と長ったるしい名前で呼ぶ。
それは、超獣達言えども、無理やりエイリアンに連れてこられて新しい世界で暮らすのも大変だろうから、差別的な『超獣』ではなく『鳥獣』で呼ぼうという法案が可決したからである。
◇
深い回想を切り裂いて、頭巾に組み込まれたインカムが鳴る。
「はいマザー。こちらRed、始末対象をどうぞ」
お決まりの文句。この一年でもうどれだけこの台詞を言っただろうか?もはや数えても無駄だと3日で悟った。
そして私たちは礼儀を込めて、依頼主のことをマザーと呼ぶ。意味はそのまま『母さん』だ。こんな貧困の時代に高い金で雇ってくれる。これはもう母さんの愛だろう。
「こんにちは、Redちゃん。2丁目の降谷さんのお家?飛行型鳥獣が出たらしくてね。もう降谷さんは住んでないんだk...」
要件を確認してすぐに現場へ直行する。
無駄話まで聴いていると精神も持たないし何より時間が勿体無い。
この仕事に移ってからしばらく同僚とも会話していない。毎日毎日貴族の命で超獣を殺して命を繋いでいる。Redも含め、全てのハンターは生きることに精一杯で会話の喪失も諦め始めていた。
◇
高性能スーツを変形させ、ローラースケートの様な靴にする。
目にも止まらぬ速さで道具を使い分け、颯爽と荒廃した街を駆ける。
八つ目の壊れたブロック塀に矢を刺してカーブしたとき、私の視界に、超獣ではない小さい影が写った。
この世界では普通のことだが、衣服もボロボロで身体中怪我だらけ、そんな少年が倒れ込んだ。
急旋回してそれをかわす。
少年は倒れたまま虚な目で私の目を見つめる。
なぜだか私の胸の奥がもぞもぞと長い間感じていなかった何かを思い出した。
隠しポケットに収納されている、棒状高カロリー剤(カ◯リーメ◯トみたいなものだ)を投げ渡す。
少年は地に這いつくばったまま必死に手を伸ばしてそれを受け取る。
しかしそれを口にするのを見ていられるほど余裕はない。
それを食べてこの世界に留まり続けるか、あるいは空の上の楽園へと移住するかは彼の行動次第だから——。
◇
現場に着くと2メートルほどの怪鳥がイカリの様に巨大で捩れた爪で家屋を荒らしている。
きっと中にはすでに楽園へと移住した者の残留体が放置されているのだろう。
銀色のラインが引かれた黒のホルスターから光弾銃、通称『CP』を引く抜き、素早く腹部に打ち込む。
蛍光グリーンの光が暗く澱んだこの空で一際強く輝く。
怪鳥系超獣の弱点の腹部に強力なダメージを与えた。
怪鳥は怒りに満ちた巨大な目で私を睨み、爪でバラバラにしようと飛びかかってきた。
別に焦らない。
私はRed、この道のプロ。
この手のピンチなんてもはやピンチとも言えない。
ローラースケートを加速させ、スライディングしながら覆い被さる両爪の間を滑り抜ける。
同時に『CP』を2丁構えて太った腹に百億の風穴を開ける。
黄色い体液が飛び散る。
私はそれを賞賛のクラッカーだと思う様にしている。
「対象制圧。謝礼を振込ください。マザー」
両手の『CP』をホルスターに収め、漆黒の頭巾を外す——。
カロリー棒を請求しなきゃな。そう思った。




