新盆になっちゃって
八月。
子どもの頃は、夏休みに朝から晩まで心霊番組がやっていた記憶がある。
かにえRは夏休みのほとんどを祖父の家で過ごしていた。
あれは、夏。
お盆の手前だったと思う。
中学生のかにえRは、部活の後、祖父の家の縁側に座っていた。
あの頃の夏は、今よりずっと涼しかった。
祖父の家にクーラーはない。
四方八方に窓があり、それらすべてを開けると、心地よい風が吹き込む。
蚊取り線香の匂い。
祖父が咳き込む音。
ここに風鈴があったら、最高だな。
そんなことを考えていた時、ふと人影が目に入った。
縁側から、山が見える。
その山の手前には、祖父の畑があった。
祖父は、野菜を育てるのが趣味だった。
老後の趣味にはもってこいだ。
あり得ない量のきゅうりとナスに、叔母さんはいつも頭を抱えていた。
その畑に、人影がある。
なんだ?
泥棒か?
目を細めて、それを見つめる。
隣の隣に住む爺さんだ。
最近見てなかったけど、生きてたのか。
しかし、どこか違和感を覚える。
動きが、随分と滑らかだ。
腰が曲がっていたような。
まぁ、いい。
爺さんは、スーッと畑を横切って行った。
扇風機のスイッチをカチッと押し込み、またボーッと山を眺めていた。
しばらくして、祖父に呼ばれる。
「ちょっと、肩を揉んでくれ。しんどくてしんどくて」
「いいけど」
祖父の肩を揉む。
「そういえば、爺ちゃんの畑にさ、隣の隣の爺さん? いたけど。何でだろ。歩いてたよ」
祖父が、振り返る。
「何だって?」
耳が遠いのを忘れていた。
「爺ちゃんの! 畑に! 隣の隣の爺さんがいた! 歩いてた!」
祖父が首を傾げる。
「今日、そいつのお通夜だぞ」
そう言って、また前を向く。
「もう少し強く」
祖父の肩を揉みながら、考える。
確かに、あの爺さんの向かっていた方向は、あの人の家の方だった。
葬式の会場から、一旦家に戻ってきたのか?
今度は祖母に呼ばれる。
「スイカ、スイカ食べるか?」
「食べたい。私が切るよ。爺ちゃんは、スイカ食べる?」
「俺はいらね」
爺ちゃんの肩を叩き、立ち上がる。
「婆ちゃん、さっきさ、隣の隣の爺さんが爺ちゃんの畑にいた。歩いてた」
「隣の隣? 死んだぞ。一昨日。今日お通夜だ。お盆の前に、大変だな。新盆になっちゃって」
「そうだね」




