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かにえRの犬も喰わない話  作者: かにえR


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かにえRの犬も喰わない秘密


かにえRの朝は早い。


土日はジムが混む。

だから、早朝に行く。


ただ、それだけの話だ。


土曜の朝。

時刻は四時半。


ジムに入ると、誰もいない。

ジッと周りを見渡して確認する。


貸切だ。

貸切だ!!!


私は、常々やってみたいことがあった。


筋トレで声を出すこと。


時々見かける。

声を出して筋トレしている方々。


声を出すって気持ちがいいのか?

気持ちがいいなら、ぜひやってみたい。


そう思っていた。


貸切のジム。

こんなチャンスはない。


寝転がり、バーベルを握る。


声を出したのが先か、バーベルを上げたのが先か、定かではない。

そもそも、どんな声を出したらいいのかわからない。

わからなかった。


「デェア!!」


ウルトラマンと、おじさんのくしゃみの間のような、そんな声が出た気がする。


なんか少し恥ずかしくて、バーベルを下ろす。


達成感と恥ずかしさで、かにえRはふふと笑った。


その時、視界の端に人間が映った。


人間が。


ストレッチのゾーン。

マットが何枚か敷いてある。


そいつは、その人間は、ストレッチゾーンにいた。


ストレッチゾーンで眠っていたのか?


私の「デェア」で目を覚まし立ち上がったのか。

突然「デェア」と叫ぶ人間に怯え、立ち上がったのか。


かにえRには、わからなかった。


ゆっくり起き上がると、鏡の中の自分と目が合った。


器具を片付け、ベンチを拭き、ロッカーに向かった。

カバンを掴んで駆け出す。


ほんの一瞬止まり、顔認証で退出手続きをして、開いた自動ドアから飛び出した。


しばらく走ったあと、立ち止まる。


「デェア……」


小さな、小さな声で、そう囁いた。


かにえRの、小さな「デェア」が、朝方の不安定な空に消えていく。


この話を読んでいる人には、正直に言いたい。


犬も喰わないこの話を読んでくれた、あなたにだけは、正直に言いたい。


かにえRは、あの時。


「デェア」と叫んだ瞬間、放屁した。


いや、放屁してしまった、が正しいのか。

いや、違う。

放たれることは、わかっていた。


貸切だったから。

気が緩んでいたのだ。


その日以来、土日はジムに行っていない。


これは、あなたと、かにえRの、小さな、犬も喰わない、秘密。

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