グレタ火山へ
渚の口調を変更します。
翌日、修行を終えた焔と震を加え、風太と渚は城壁の上にいた。
「・・・ようやく修行も終わった。これから大暴れしてやるぜ。」
「暴れるのは構わないけど、目的を忘れちゃ困るよ。」
「この先にある火山。そこに、火竜ブレイの神殿がある。俺達は、そこまで一気に突っ切る。」
風太は、今回の作戦の大まかな内容を伝える。それは、ブレイの神殿まで自分達はとにかく一直線に突き進み、ヤミーの配下が来る前にブレイと接触して協力を得るという、作戦かどうかも怪しいものだった。
「・・・それにしても、酷い作戦だよ。完全に僕達の力頼みじゃないか。とても作戦と言えるものじゃない。」
「でも、俺達の力がそれだけあるってことだろ?だったら寧ろ、期待されてると思えばいいだろ。」
「じゃあ、エリアスを出すから。風太、フィードを呼んで。」
「・・・もう来ている。」
風太の言葉が終わるや否や、フィードが彼らの目の前に現れる。
『お待たせ。時間ぴったりだよね。』
「ああ、ぴったりだ。それじゃあフィード、ブレイの神殿まで俺達を案内してくれ。途中に敵がいたら、排除して構わない。」
『任せて。僕の力を存分に見せてあげるよ。』
「頼んだぞ。俺はフィードに乗っていくけど、二人はどっちに乗る?」
「俺はフィードでいいぜ。」
焔は、前も乗ったことがあるフィードに乗ることにした。
「僕は、エリアスにしようかな。水竜がどんなものか興味が・・・。」
「ああ、ごめんなさい。エリアスは私と風太専用なの。乗らないでくれる?」
「ええ?別にいいじゃ・・・。」
「乗 ら な い で く れ る ?」
渚は、凄みを利かせた笑みを浮かべる。思わず震は、後退り、フィードの方に行く。
「【サモン・エリアス】。」
震を追い払った渚は、エリアスを召喚すると、背中に乗る。
「こうやって背中に乗るのも久しぶりね。今回はお願い。」
『任せてください、渚。元気になってよかった。』
「フィード、方向はこのまま真っ直ぐでいいのか?」
『うん。このまま真っ直ぐだよ。』
『ブレイと会うのも久しぶりですね。ヤミーとの戦い以来でしょうか?元気にしているといいのですが・・・。』
「・・・竜って、本当に会わないんだな。なあ、どうして神殿に籠ってばかりいるんだ?」
「だよな。神様って言われているのは分かるけどよ、たまに顔を見せ合う程度くらいいいんじゃねーか?」
『私達五大竜の力は、魔物の王をも凌ぎます。その気になれば、この世界のバランス自体壊しかねません。そんな存在が、必要以上に人々の前に現れれば、悲劇や混乱を招くからです。』
「いわば、天災みたいなものだからか。確かに、自由に嵐やら津波やら地震を起こせるような奴が外を出歩いていたらと思うと、怖いものがあるな。」
『天災とは、言い得て妙だね。確かに、僕達の存在は、天災と言っても過言じゃない。かつてヤミーと戦った時なんて、世界が文字通り滅びかけたからね。あれで、古代文明は滅びてしまった・・・。あの時、僕達は、自分達の力がどれだけ規格外か理解したんだ。』
「じゃあ、その時のことを教訓として、人前に出ず、神殿に籠るようになったのか。」
『ええ。ですが、今の私達は、あなた達との契約でそれがある程度抑えられています。今の私なら、そこまでの被害はもたらさないでしょう。』
「・・・なるほどね。強すぎる魔物との契約は、その魔物の力を抑える意味もあるようだね。契約者の力に依存して強さが変わると聞いて、デメリットだけかと思ったけど、そう考えると竜にはありがたいことなのかもしれないね。」
震の発言に、二体の竜は少し驚いた様子を見せる。
『・・・なるほど。そう考えれば、今の私達は、天災ではなく、普通の魔物として存在していられるとも取れるわけですね。』
『そう考えると、僕は誰かと契約していた方がよかったのかも・・・。そうすれば、他の魔物達から怖がられなかったかも・・・。』
「・・・いや、悪人と契約して悪ささせられたら、逆効果だと思うけどな・・・。」
『大丈夫だよ。そこまで僕の目は曇ってないよ。』
風太の苦言に、フィードは大丈夫だと返す。
「・・・無駄話はそれくらいにして、早く火の竜の所へ行こうぜ。」
「確かに、ヤミーがこちらの動きを察知する前に行動すべきだね。」
「・・・じゃあ、行くか。」
フィードとエリアスは、グレタ火山に向けて飛び立つ。竜に乗って空を飛ぶのは、風太を除けば二回ほどしかなく、他の三人は喜んでいた。だが、風太は別のことを考えていた。
「勇者殿。グレタ火山に行く際、注意すべき魔物がいる。その魔物と決して戦おうと思ってはならない。」
それは、グレタ火山周辺を真っ先に制圧することが決まった直後だった。風太は国王から、ある魔物と戦ってはならないと忠告を受けた。
「戦ってはならない?」
「あの火山周辺にいる魔物は、火属性の魔物が多い。勇者殿の属性を考えれば、苦戦は免れないだろう。だが、勝てない相手ではない。・・・その魔物を除けばだが。」
「そんなに強い魔物なんですか?どんな魔物なんです?」
「魔物の名は、フェニックス。Aランク相当の魔物で、炎の身体を持つ鳥型の魔物だ。」
フェニックス。ファイアバードの最上位種で、国すら滅ぼしかねない危険な魔物だという。全身が炎でできていて、炎による攻撃では傷付かないばかりか、逆に力を得てしまうとされている。通常、火山に棲息し、ファイアバード達下位種を率いてひっそりと暮らしている温厚な魔物だが、縄張りを荒らされれば、敵を滅ぼすまで攻撃をやめることはないという。しかも、脅威的な生命力を持ち、不死鳥の異名を持っているという。
「ファイアバード系列の魔物は、おとなしい気質の魔物だ。この魔物もその例に漏れず、下手に刺激しなければ危害を加えることはない。だが、もし、怒らせるような真似をすれば・・・その強さは、ソウルイーターの比ではない。魔将軍すら凌ぐかもしれん。勇者殿でも危ういだろう。」
「・・・だから、注意して、戦わないようにしろ、と言うわけですね。」
「その通りだ。無理にAランクの魔物を刺激して、無用な消耗をする必要はない。火竜に協力を仰げればそれでよいのだ。」
「・・・。」
国王から、フェニックスと遭遇しても、何せず放置しろと言われた風太だが、その心中は、別のことを考えていた。
(・・・ファイアバードの最上位種ってことは、フレアバードにとってもボスってことになるな。そんな魔物を仲間にできれば、俺の弱点の補強もできるかもしれないな。俺は、鳥型の魔物と相性がいいらしい。うまくいけば、炎の敵とも戦えるようになるかもしれない。)
手を出すなと言われているフェニックスと契約しようと考えていた。
少々加筆しました。
ここで第2章を終了します。