ソウの後悔
「教えていただけませんか?何故緑川風太に入れ込むのか。」
次元トンネルを移動するフィードの上で、モーゼはソウに、風太にこだわる理由を尋ねる。
「・・・僕が、幼い彼らと接触したことは、さっき話したね。」
「はい。・・・ですが、それが入れ込む理由としては、少々弱いと思いまして。・・・それに、罪滅ぼしというのも、気になります。・・・何があったのです?」
「・・・。」
風太達も、静かにソウの言葉を待つ。しばらくの沈黙ののち、ソウは口を開く。
「・・・ヤミーは、自分の身体になる人間を探し出すため、この世界に眷属を送り込んだのは知っているよね。」
「ああ、ミリィから聞いた。」
「・・・どうして、君達の世界にヤミーは眷属を送り込んだんだろうね?」
「?それは、偶然じゃないのか?いろんな世界に部下を送り込んで、たまたまこの世界の人間が使えると知って、風子ちゃん達を攫った・・・。」
「いや、違う。ヤミーが眷属を送り込んだ世界は、適当に選ばれたわけじゃなかったんだ。どれも、共通点があったんだ。」
「共通点?」
「僕は、アナザーワールドに戻るまでに百八の世界を移動してきた。そして、ヤミーが眷属を送り込んだ世界も、百八なんだ。」
「・・・なるほど。ヤミーが部下を送り込んだ世界は、君がかつて滞在していた世界、というわけだね。」
察した震が、その理由を口にする。その言葉に、ソウは頷く。
「その通り。ヤミーが眷属を送り込んだ世界は、全部僕が滞在していた世界だったんだ。」
「そんなこと、分かるのか?」
「仮にも神だからね。力はなくしても、感知能力は衰えていないよ。それで、眷属達の行った世界を逆探知したんだ。」
(何でそんなどうでもいい能力だけ残って、戦闘力残らなかったんだ?)
「・・・でもまあ、凄い偶然だな。」
内心呆れながらも、風太はただの偶然だとしか思わなかった。
だが、モーゼはことを深刻に捉えていた。
「・・・なるほど。ヤミーの狙いは、元々はソウ様だった可能性があると。」
「ええ!?ヤミーの奴、ソウの力を狙っていたのか!?」
「あくまで可能性だ。如何にヤミーとはいえ、ソウ様の力を奪うなど大それたことは考えないだろう。そもそもヤミーは、ソウ様が力を失ったことを気付いていなかっただろう。勝てない戦いはしないはずだ。」
「・・・でも、可能性としてはあり得たかもしれないね。もっとも、仮に手に入れたとしても、今の彼は使い物にならないようだけど。」
震の辛辣な言葉に、ソウはガクリと項垂れる。
「・・・ま、まあ、そういうわけで、僕を見つけることができなかったヤミーは、その代案として、強い魔力を持つ人間を求めたみたいだ。そして、それぞれの世界に送り込んだ眷属達の報告で、一番いいのが風太達の世界だと分かり、君達の世界で子供狩りを始めたんだ。」
「・・・じゃあお前、自分が俺達の世界に立ち寄ったせいで、こうなったって思ってるのか?」
「・・・まあね。」
「別にソウは悪くないだろう。それに、ヤミーだって、本当にソウが狙いと決まったわけじゃ・・・。」
「・・・仮に狙いが僕でなかったとしても、僕の力の残滓を辿って他の世界に来たのは間違いないみたいだ。これでも神様だからね。僕の力の残滓がこんな事態を招いたなんて、あってはならないことだよ。・・・それに・・・。」
ソウは、一瞬言い淀むも、再び話し出す。
「・・・それに、僕は基本的に、力が回復するまでは、他人との交流を避けていた。人気のない場所で力の回復を待っていたんだ。・・・けど、君の世界に来た時、楽しそうにしている子供達を見て、つい我慢できなくて・・・。」
「・・・俺と風子と遊んでくれたのか?」
「・・・もしかしたら、そのせいで風子ちゃんが目を付けられたんじゃないかと思ったんだ。・・・君達兄妹には、僕の力の残滓が多く残っていただろうしね。」
「・・・俺達の魔力が飛び抜けていたのは、それが原因か?」
「それはない。そなたの魔力は特に外的要因で増加したものではない。他の要因なら、自分と他人の魔力が混ざり合い、濁って見えるのだ。だが、そなたの魔力にそれはない。これは、魔法使いとしては既知の事実だ。」
「そうか。よかったな。お前のせいじゃないぞ。」
「・・・でも・・・僕が必要以上に接触してしまったのは事実だし・・・。」
「意外と責任感はあるんだな。」
「酷いな・・・。神様なんだから、世界への影響だって考えるさ。自分の世界ならともかく、他の世界に影響を与えるなんて、あってはならないことなんだよ。・・・もっとも、こんなんじゃ全然説得力ないけど・・・。」
ソウは、自嘲気味に答える。
「・・・とにかく、風子の件はお前のせいじゃない。寧ろ、俺達を色々助けてくれたんだ。感謝しても、非難する気なんてない。」
「・・・。」
「まあ、責任取るってんなら、俺達にも風太みてーな強そうな魔物をくれよ。そうすりゃチャラにしてやるぜ。」
「・・・それ、君が乗りたいだけだろう?それに緑川風太の利益になっていないじゃないか。」
「ははは・・・それくらいならいい魔物を紹介するよ。・・・でも、大切に扱って欲しいな。あの世界に生きてるものは、僕の子供同然だからね。」
「おう!任せろ!」
「・・・まあ、僕も魔物に興味があるし、調べたいから紹介してもらおうかな。」
「お手柔らかに頼むよ。」
「・・・なあ、モーゼ。一応聞いておきたいことがある。焔達の魔力の強さはどれくらいあるんだ?」
焔と震がソウと話している間に、風太はモーゼに二人の魔力について尋ねる。
「ふむ。まずは焔だが、魔力に関しては、渚より上だ。だが、震よりは劣るな。」
「じゃあ、二人とも強いんだな。」
「うむ。だが、やはり一番はそなただな。震ですら遠く及ばん。」
「・・・でも、いくら強くても、渚と違って俺は、大して使いこなせていない。もっと上達しないとな・・・。」
「・・・しかし、そなたいつの間に魔力をそこまで安定化させたのだ?この前まで見た時は、波が激しかったというのに・・・。」
「?いや・・・別に何もしてないぞ?」
「ふむ・・・では、そなたの精神が影響を及ぼしているのだろうか?うむむ・・・。」
『・・・そろそろトンネルを抜けるよ。』
出口を視界に入れたフィードは、速度を上げてそこに向かっていくのだった。