ダンジョン攻略5
スチュパリデスは、凄まじいスピードでダンジョンを移動していた。その速さは、風太の乗ってきた今までの魔物の中で最速だった。無論、フィードと進化したガルーダを除けばだが。
(・・・土属性と聞いていたから、スピードは低いと思っていたが、全然そんなことはないな。これなら、思っていたより早くランドの所に着けるかもしれない。)
「・・・うう・・・。」
「!女王陛下!?大丈夫ですか!?」
「だ・・・大丈夫・・・です・・・!・・・私には構わず・・・!」
「・・・緑川風太。もう少しスピードを落とせないかい?女王の身体に負担がかかりすぎている。」
「!スチュパリデス。もう少しゆっくり飛べないか?」
『ゆっくりだと?それは駄目だ。一刻を争う事態だぞ。』
「・・・なら。」
風太は、女王の周囲に風を展開する。
「これで、少しは負担が減るはずです。それで辛抱してください。」
「・・・すみません。迷惑をかけてしまい・・・。」
申し訳なさそうな顔をする女王。だが、結局スチュパリデスは、止まらなければならなかった。彼らの目の前に、巨大な魔物が現れたのだ。
その魔物は、頑丈に見えながらも綺麗な装飾を施した鎧を身に付けた、巨大な人型の魔物だった。
「!?何だ!?」
「巨人だ!・・・巨人種の魔物だ!」
「・・・巨人の王・・・ティターン・・・!Sランクの魔物で、四大巨人王の一角です!」
「四大巨人王?」
聞き慣れない単語に、風太が反応する。
「魔物の本に書いてあっただろう。光と闇以外の四属性の巨人種の頂点に立つ四体の巨人、炎の巨人スルト、氷の巨人ヨトゥン、嵐の巨人ゲリュオン、地の巨人ティターン。それが、四大巨人王だ。」
「・・・ああ。モーゼの本にそんな内容があったな。」
「まさか、こんな所に王の一角が・・・!」
『・・・偉大なる巨人の王・・・ティターン様・・・!』
幾分か落ち着いている風太と震とは対照的に、女王は完全に委縮していた。もちろん、スチュパリデスもである。
「何をビビっているんだ、スチュパリデス。俺達がここを通ると決めた時点で、出てくることは分かっていただろう?」
『と・・・当然だ!・・・だが・・・俺も会う機会は・・・中々なくてな・・・!・・・まさか・・・もう現れるとは・・・!』
「・・・とりあえず、倒すかさっさと離脱するかを選ぼう。」
『・・・そう身構えるな。お前達が何故ここを通るかは、既に知っている。』
撃退か避けて通るか決めようとしていた風太達に、ティターンは話しかけてきた。
「・・・知っているなら話は早い。俺達を通してくれ。魔王が来るまで時間がないんだ。」
『分かっている。・・・だが、主に会うに相応しくない者を通すことはできん。スチュパリデスの契約者。お前は無条件で通そう。お前は既に竜と契約している。会うに相応しい。・・・だが、そこの人間を通すわけにはいかん。』
ティターンは、震を通すことはできないと告げる。
(・・・参ったな。俺だけが着いても意味がない。震とランドを契約させないといけないのに・・・。)
「・・・緑川風太。どうやら、向こうさんは僕をご指名のようだ。先に行っててくれないか?」
「・・・でも、どうやって追いつく?」
「スチュパリデスを置いていって、君は別の魔物に乗っていけばいい。確か、まだフェニックスがいたはずだ。」
「・・・分かった。じゃあ、俺は先に行く。女王陛下はどうします?」
「・・・私も後から行きます。・・・少し、疲れました・・・。」
「・・・じゃあ、震。それと、女王陛下。俺は行きます。【サモン・フェニックス】!」
風太はフェニックスを召喚すると、フェニックスに乗り、先へと進んでいく。残された震は、ティターンを相対する。
「・・・で、僕がランドの所に行くに相応しいかどうやって調べる気だい?」
『簡単なことだ。お前に問答をする。それに全て答えることができれば、通ることを許そう。』
「謎かけかい?・・・分かった。始めてくれ。」
『まず一問目だ。私の名を言え。』
「・・・ティターンだ。」
『正解だ。では、二問目だ。土に優位な属性を述べよ。ただし、上位属性は除くものとする。』
「・・・風属性だ。」
『正解だ。では・・・。』
ティターンは、震に次々と問答する。震は、淀みなくそれに答える。全て、震の知っていることだったからだ。
『・・・ここまで答えられるとは思わなかったぞ。では、九問目だ。五大竜はどの順で創造神が生み出したか答えよ。』
「・・・ブレイ、エリアス、フィード、ランド、セイクの順だ。そして、最後にヤミーが生まれた。」
『・・・驚いたな。よくそんなことを知っていたな。この事実は、住む者達もあまり知らないはずだ。私も主から聞かされて知ったというのに・・・。』
「・・・知識に関しては、少し自信があるからね。・・・で、次は?」
『次が最後の問答だ。これが一番難しいぞ。・・・何故、私はこの地を守護している?』
「?」
一瞬、ランドを守るためと言いかけた震は、口を噤む。
(・・・普通に考えれば、五大竜を守るためにこの地にいると考えるのが自然だ。・・・でも、それじゃあ簡単すぎる。・・・。)
震は、自身の得てきた知識をフルに活用する。そして、一つの答えを導き出す。
「・・・君は、この地を守護しているんじゃない。自分が暴れることのないよう、ランドに監視されている。守護しているのは結果的にそうなっているにすぎない。」
『!・・・正解だ。』
震の答えに、ティターンは驚愕しつつも正解だと告げる。
「・・・確かに、一番難しい問題だったね。歴史書には載っていない内容だ。」
『・・・何故分かった?九問目もそうだが、これも住む者達が知ることではないはずだが?』
「推理だよ。僕は、この世界の歴史の本を読んでいた。そこには、二千年ほど前に巨人種の魔物が起こした巨人戦争の記述があったんだ。」
巨人戦争。四大巨人王が、どの王が一番上かを決めるべく、配下の巨人種を率いて戦いを始めた。その戦いは凄まじく、ヤミーの時ほどではなかったが、甚大な被害が出たという。
「それを仲裁したのがランドであるとまでは載っていた。そこから逆算して、君は単にランドに仕えているんじゃなくて、その時のせいで監視されているんじゃないかと考えたんだ。五大竜の使命は、世界を守ることだからね。問題を起こした魔物を監視するために手元に置いている。そう思ったんだ。」
『・・・ははは!見事だ!よくぞそこまで導き出した!合格だ!お前を認めよう!』
ティターンは、大笑いすると、震に合格を告げる。
「・・・なら、僕達はもう行くよ。」
『待て。お前の知恵を見込んで頼みがある。』
「?何だい?」
『私と契約を結んではくれないか?』
「!契約を?」
ティターンの突然の言葉に、震は困惑する。
「・・・どうして君と契約する必要があるんだい?」
『・・・お前に決めてもらいたのだ。四王のいずれが一番かを。』
「四王の一番を決める?」
『そうだ。あの時、私達の力は拮抗し、勝負が付かなかった。それ故に住む者達や他の魔物達を巻き込み、主は激怒したのだ。』
「・・・なるほど。つまりは戦い以外の方法で決着を付けたいというわけだね。」
『理解が早くて助かる。だが、私はその方法を思い付かなかった。だが、優れた知恵を持つお前ならできるのではないかと私は睨んでいる。』
「・・・そうなると、僕は君だけでなく、他の巨人王とも契約する必要があるね。いや、寧ろそうさせたいんだろう?」
『そうだ。無論、世界の危機を救うのが最優先だ。それは何よりも重視する。そのために、私の力を存分に使って構わない。』
「・・・それは、ランドが承知しているのかい?」
震は、ランドがこのことを知っているのか尋ねる。
『案ずるな。既に主には話して許可も取ってある。世界に害をもたらさないのなら、頂点を決めても構わないとのことだ。』
「でも、世界を滅茶苦茶にしてもまだやるなんて・・・君達は懲りてないね。」
『・・・住む者には分からんだろうが、私達巨人種は、白黒はっきり付けなければ気が済まない気性なのだ。・・・もっとも、かつてはそれが行き過ぎたことは事実だ。だからこそ、そうならない方法で決着を付けたいのだ。』
「・・・僕より焔の方が、契約者に相応しそうだね。」
『?』
「何でもないよ。・・・分かった。なら、僕がその王の王を決める知恵を貸そう。」
『ありがとう。では、契約だ。』
震は、風太がやったように魔力をティターンに放つ。ティターンは、サモンカードとなり、震はそれを回収する。
「・・・なるほど。これがサモンカード。手に入れるのは始めてだ。」
『・・・お前・・・巨人王の一角と契約するとは・・・。とても人間とは思えん。』
「・・・失礼だな。僕は、人間だよ。それに、僕なんかで驚いてたら、緑川風太が本気を出した姿なんて見たら、どう表現する気だい?」
『・・・あいつの本気?』
不穏なワードに、スチュパリデスはビクッとなったものの、震は気にせず彼の背に乗る。
「さあ、急ごう。緑川風太に追いつかないと。」
『・・・あ・・・ああ。』
スチュパリデスは、震の言ったことが気になったものの、急がなければならない状況であることに変わらず、その場を飛び去るのだった。