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菅原医師の忠告


 迂闊だった!

 お勝は心の中で激しく後悔した。


 いくら家の中で暴動や政治の話しを避けていても、

 一歩外に出ればこうして嫌でも耳に入ってしまう。

 ・・・・・一人で行かせるのではなかった。


 志乃は帰るとそのまま体調を崩して、床に伏してしまった。

 お勝はすぐに菅原医師に往診を頼み、志乃を診てもらった。


 志乃は気疲れなのか、診察が終わると

すぐに眠りについてしまった。


 まもなくして部屋から出てきた菅原医師は、

お勝を廊下の隅へ呼び、小声で、だが冷静に話し出した。


「お勝さん。もしかすると、臨月までもたんかもしれん」

「そっそれはどういう意味ですか?」


「早産するかもしれん。という意味じゃ。

 早めに出産の準備をしておいた方がいい。

 酷いようじゃが、その時は『覚悟』も、しておいた方がいい・・・・・」


「先生そんな!なんとか、なんとかならないんですか?」


「なんとかしてやりたいのは、わしも同じじゃ!

 とにかく外出は禁止して、絶対安静にしてもらわないと駄目だ。

 万が一、出先で出血でもしたら、取り返しのつかん事になるぞ!」


「わ、分かりました・・・・・・」


 お勝は心臓をわし掴みにされたように苦しくなり、

気丈なお勝が、その場に崩れるように座り込んでしまった。

 それを見た菅原医師は、いぶかしげな顔をして尋ねてきた。


「お勝さん、何かあったのかね?

志乃ちゃんは元々丈夫な娘じゃったろう?

それに旦那はどうした?何度も往診に来ておるが、

まだ一度も会っとらんぞ、ここの跡取りだろう?」


 ・・・・・お勝は言いにくそうに、菅原医師に事情を説明した。



「何だって?農民の鎮圧?馬鹿な!軍人でもないのに

一体どういうことだ・・・・・!まさか芳乃ちゃんの・・・・・、

諏訪か?奴が関係しとるのか?」


 菅原は医師だが政府関係者も診る。

 今の政局がどうなっているのか、初老の勘ですぐに察しが付いたようだ。

 お勝は何も返す言葉が無いまま、二人の間にしばらく嫌な沈黙が続いた。


「お勝さん・・・・・、あんたも母親として辛い立場ですな。

・・・・・・何にせよ、わしに出来る事は産まれてくる命の手助けだけじゃ。

後は志乃ちゃんの体にかかっておる」


「お願いします先生!どうか志乃を、惣さんの・・・・・!

惣一朗さんの子供を!」


「最善は尽くさせてもらいますよ。ではまた近いうちに来るとしよう」


 それだれ言い残し、菅原医師は重い足取りで、

高倉家の玄関を後にしていった。


 お勝は玄関の框に座り込み、しばらく放心したように扉を見つめた。


そしてあの日、

惣一朗を行かせてしまった事を、心の底から後悔した・・・・・。




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