2-1:「白い黒猫」
朝起きて目覚めがいいって気分爽快だぜ!
特に起きてからスムーズに事が進む一日なんて最高だ!
昨日は夢みたいな…… いや、夢だなきっと。
だから尚更今日はそんな良い一日な気がするんだ!
なぜならって?
それはな。
全裸のネコ耳美少女が俺に覆いかぶさってるんだから。
あれ、おかしいな。
嬉しいはずなのになんなんだこの滲み出る怖さは。
いや、落ち着け。
昨日が目まぐるしかっただけだ。
今日ぐらい朝から気持ち良くてもいいじゃないか。
まずいまずい、今の感触の感想が出てしまった。
これはどう動こうか。
待てよ、下手に動いてみろ。
今時のヤツなんて顔見ただけで110番する時代だぞ……
俺まだ人生転落したくないよ!?
もっと謳歌したいって思うように昨日からなったっていうのにあんまりだよ!!
いや、動くという考えを捨てるんだ。
下手な事するよりこの感触を味わえるだけ味わうんだ。そして起きたらなんとなく話を合わせて何ともなかったように振舞うんだ。
そうだ、昨日俺はベッドで寝れなかったからソファで眠ったんだ。
そして疲れてたからそんな余裕はない。
そうだ、間違いなんて起きちゃいない!!
そんな勇気俺には無い!
――ダメだ、むしろ自信がなくなってきた。
あれ、なんだろ。
胸がかゆい、けど気持ちいい。
ん、あああああああ!?
ネコ耳の胸が俺の胸を擦っている!?
そして、ネコ耳の右手が自らの顔の視界を担当する部位を擦っている。
起きちゃったじゃん…… 起きちゃったよおおおおおおおおおおお!?
おい、これどうしよう。おい、これどうしよう。
と、とりあえず挨拶だ。
「お、おはよう、ございま-す……」
「……うにゅ、おはようございますぅ……」
ファーストコンタクトは成功だ。
だが、その直後に俺の視界から俺の部屋へと続く通路のドアが開いた。
「おっはようソウちゃん!! ……ダレソレ?」
「なんで全裸被りなんだよ!?」
起きてきた彼女を見て昨日が夢じゃなかったと悟った直後に、俺は今起きた疑問を吐かされた。
「で、なんで裸だったんだよ?」
「ベッドが濡れ濡れだったから気持ち悪くて脱いだんだよ。着るものもなかったから……」
「それはごめんなさい」
それ昨日の朝の俺の寝汗だな。ごめんな。
とりあえずキミドリには乾くまで俺の縞模様のシャツを貸した。紺と白の交互に入ったやつだ。
「それはいいとしてさ、このおっぱい大きいネコ耳さんは誰なの?」
「覚えてないんですか!? ううぅ……」
そりゃ覚えが無いに決まってんだろ。以前に会ったことすら無いんだ。
それにしたってスタイルがいい…… ボンッキュッボンとはまさにこのことだったのか。
「これ見ても思い出さないんですか?」
唐突に彼女は自分の尻をこちら側に向ける。
『えええええ!?』
二人して絶叫してしまった。俺には嬉しさも3割混じっているけど。
だって色んなモノが丸見えなんだもの……
「何ジッと見てるの!?」
キミドリはそう言って思いっきり俺の目を潰した。
まあ、同性の裸体を隠そうとするのは当然か。
「……ソウちゃん、あ、あれ見てよ」
「潰した直後に無茶言うなよ。え、尻尾?」
キミドリの指が指し示す方向には、彼女の尾てい骨らしき所から尻尾が生えていた。
それはうねうねとミミズの様に動き、ネコ耳も腰を振って誘っている
『――発情期じゃねええかあああ!!』
『――化け猫じゃないかああああ!!』
二人して同時にほとんど同じような反応。そりゃそうだ。
「化けてませんよ! 今は人間体ですけど…… それに、こんなにまじまじと見られたらムズムズします……」
「見られるだけでなんてとんだ痴女、いや痴猫だな!」
「あううぅ、痴猫は認めます。猫は年中裸みたいなものですから……」
認めるのかよ!?
「そ、それより、まだ思い出さないんです?」
「いや、思い出すも何も今のじゃ誘ってるようにしか見えないからなあ」
「酷い!! わたしは軽い女じゃないんですよ!?」
「さっき変態だって認めたじゃないか!」
「痴猫を認めただけです!」
「変わらねえよ!!」
「そんなに言うのはひどいと思うよソウちゃん!!」
キミドリちゃんだって化け猫とか言ってたからね!
どうして昨日からこんな感じになってんだよ俺の周りは。
そして痴猫はとうとう涙目である。
「昨日、アイス……くれたじゃないですかぁ……」
『あ』
ああ、なるほど。
確かに昨日付いてきた黒猫いないや。
「家に付いていった後も、作ってくれた……ご飯美味しかったですぅ」
「それはありがたき幸せです」
「今度は人間と同じ食べ物でお願いしますね」
「さっきの感謝を撤回する!」
「牛乳とご飯はありきたりです」
「いいからさっさと服を着ろ!!」
「おいしいですね! キミドリさん」
「まあ、わたしが作った方が断然おいしいけどね!」
昨日作ったやつなんて見るに堪えない上に食えもしなかったぞ。
2人分しか量が無かったから、俺が今頃食ってたんだぞ。
仕方ない、ゼリーで耐えるか。
でも、ゼリーの郵送も止めなきゃいけないか。
料理作るなら無駄にな金を省かなきゃならないし。
っておいおい。
「なんで君にキミドリが見えるんだ?」
「猫は霊が見えるんですよ?」
「だから死んでないってば!!」
なるほど、聞いたことがある。
猫が一点を見つめている方向には霊がいるとか何とか。
ただ、コイツは今は人の姿をしている。
一体何なんだろうか、コイツの正体は。
「わたしは猫に人間の遺伝子を用いて作られたハイブリッド動物なのです!」
へえー、すげえや。
俺が外に出ない間にそんなことまで可能になってたのか……
ないないない。そんなことがあるわけない。
「すっごいねえ!! 猫になって見せてよ!」
「いいですよ! ていっ!」
そう言ってネコ耳はクルっと空中で前回りをすると、コメディにありそうなコミカルな音を立てて可愛らしい黒猫の姿になった。
「わあ!! すごいすごいよソウちゃん!」
「お、おお…… リアルに見るとすげえな」
「じゃあ戻りますね!」
また前回りをして猫は人間に戻った。全裸に。
「服着てただろ! 脱ぎたがりか!」
「ち、違います! それに猫のサイズに戻っても服も一緒にサイズ変わるわけじゃないのでどうしようもないんです……」
確かにそんな伸縮自在の服なんてあるわけないし、あったら巷で大流行だろう。
……待てよ、この痴猫を作った人間ならそれぐらい朝飯前だろ。
「なあ、ネコ耳」
「なんですか?」
彼女はさきほど俺から渡されたバスタオルが猫になった時に落ちてしまったので、それを再び身体に巻きつつ返事を返す。
「君を作った人はどこにいるんだ?」
「…………」
少しの沈黙を置いて彼女は重苦しく口を開こうとする。聞かれたくなかったことだったのだろうか。
「わかりませんっ」
テヘペロリンみたいな効果音が付いたぐらいの表情になんかムカついたので尻尾を引っ張ってやった。
「はうっ!?」
ネコ耳は地面にへばり付き、顔がふにゃってもがいていた。
「ど、どうした!?」
「そ、そこは、弱いんですぅ……ひゃうっ!?」
「ご、ごめん!!」
そう言われてとっさに手を離す。
だが、顔が密かに喜んでいるように思えた。
やっぱコイツ痴女だよ。
「じゃあネコさんは帰る場所ないの?」
と聞きつつキミドリはネコ耳の胸に抱きつく。
バスタオルはまた肌蹴て、丁度局部などが抱きついたことにより見えなくなった。
「ないといえば、ないです。捨てられたわけではないんですがいきなり外に出されて、野良になって色んな事がありました。食べ物もろくに食べれず、寝る時も他の猫の縄張りに入って追いかけられたり……」
なんかこんなやつだが可哀想に思えてきたな。
「追いかけられて捕まったら、たくさんのオス猫に食べられました。性的に」
いきなり濃くなったな話が。
「そして手違いで公衆の面前で人間になっちゃった時は、もう快感を覚えてしまいました。全裸で人前に出ることに……!」
いや、ダメでしょこれ。こういう物語じゃないよこの小説。
「そしてお二人に会った昨日も全裸になろうとしt」
「いい加減にしろよこの痴b」
「ソウちゃん、話は最後まで聞くものだよ」
キミドリに制止されるとは。
コイツ意味わかってないから真剣に聞けるんだろうな。
「全裸になろうとしたんです、でもお腹が減り過ぎて丁度いいダンボールがあったので寝てたんです。そうしてたらお二人がわたしに食べ物を恵んでくださって…… 命の危機を救ってくださって感謝してもしきれないんです。もしあのまま全裸になっていたら警察のお世話になっていました」
なんだろ、これ。
「よかった、ソウちゃんがあげてなかったら一大事だったね!」
「こっちが大惨事なんだけどなあ」
そしてネコ耳は抱きついていたキミドリを手前に降ろし、俺たち二人に土下座する。
「お願いします、ここに住まわせてください! 家事は一通り覚えればできます。というかなんだってできます! 命を救って頂いた恩返しがしたいんです!!」
「いいよ! もちろんさぁ!」
ドナルドばりの返事でキミドリは返答する。
「おい、ここは俺の家だ。決定権は俺にある」
「だ、だめなんですかぁ……」
目をウルウルさせてこちらを見つめてくるネコ耳。
そんな目で見たって俺の気持ちは変わらない。
「誰がそんなこと言ったよ。俺は黒猫が付いてきた時飼う前提で連れて来たんだ。それがただの猫からハイブリッドになっただけだろ?」
「そ、それじゃあ」
「これから一緒に暮らそう、痴猫さん」
そういってカッコつけて手を差し伸ばしてみた。
案の定、この痴猫に抱きつかれた。
柔らかい…… 色々と柔らかい……
いや、これが目当てじゃない。
連れてきた時から決めていたんだ。
「そうだ、名前は?」
キミドリはこれから新しい住民となる彼女にふとした疑問を投げかける。
「『被験体HA-002』です!!」
被験体らしい名称だ。
「それじゃ呼びづらい、今日から君はシロだ」
『クロなのに!?』
俺の名付けが気になったのか彼女たちは思わず声をあげたようだった。
まあ、黒猫だから逆に白の方が覚えやすいだろうと思っただけだ。
今みたいにそれっぽい反応も出てくるから尚覚えやすくなっただろう。
それに、シロも嬉しそうにぎゅっと抱きしめてくるしな。
やっぱり気持ちいいな。