想定外のトラップ
大変遅くなりました。言い訳ですが新年度のリズムが中々とれません。申し訳ありません
あの後、冒険者達は誰一人帰ることなく、全員が壁に持たれた状態で休んでいた。喋る者も誰もいない。
すでに時刻は夜の7時を過ぎており、普段なら帰っていてもおかしくない時間なのにである。更には彼らの中で晩飯の用意をしようとする者すら現れない。
冒険者のルールみたいなものを知っている訳ではないけれど、これは少し……いやかなりおかしいのではないだろうか。
「流石にどうしようか」
「彼らは皆休んでおりますので、マイマスターもご休憩なされても大丈夫かと判断できますが……」
いつもと比べ些か弱い声音でフローラが意見を述べてくる。彼女も目の前の光景に戸惑っているのかな。
しかし、彼女の言うことは間違ってはいない。まだ開通したわけでもないのだし、休んだって構わないはずである。
ただ、今彼らが一体何を考えているのかには疑念が生じる。本当に休んでいるだけなのか。それとも彼ら自身が囮で他の侵入ルートを構築しているのか。
「むぅ」
考えれば考えるほど分からない。
「たっだいまー」
と、丁度その時に、義妹の明るい声が聞こえてきた。そういえば、ずいぶんと長い事鍛錬していたんだな。冒険者のほうばかり考えていて彼女たちの事が頭からすっぽりと抜けてしまっていた。とにかくお出迎え。
「お帰り。ずいぶんと長い事やっていたんだね」
「ええ、サシャが思った以上にできるようになっていたからつい、ね」
義姉さんが答える。義姉さんがそう言うのだからあの勇者は本当にそれなりに戦えるのだろう。……僕が戦ったら負けそうだな。
後ろにいたサシャは少し誇らしげで、更にその後ろにいたリアはぶすっとしていた。
「リアはどうしたの?」
「ん? ああ、あれ? あれは単に勝てなかったから不満なだけよ」
僕が訊ねると、ころころ笑いながら義姉さんが答えた。その答えに更にリアが頬を膨らまして不満を露にする。
と、そこで義妹が義姉さんの手を引く。
「お姉ちゃん、お腹空いたよー」
「あらあら、灯は色気より食い気ね。すぐ準備するわ。洸ちゃんはもうご飯食べちゃった?」
「いや、実はまだなんだ」
「あらそうなの? まだなら一緒に食べましょうよ」
義姉さんの誘いは嬉しい。フローラの料理も美味しいのだけれど、やっぱりたまには食べ馴れたものが欲しくなる。だけど……。
「うーん、ごめん。まだその余裕はないかな」
義姉さんが首をかしげる。義妹も僕の返答に疑問符を浮かべている。
「余裕がないってどういうこと、お兄ちゃん?」
その問いかけに画面を指差す。2人とも何も言わずに画面を見つめ、更に困惑した表情を浮かべた。
その後ろで義姉さんと義妹だけでなく、何故かサシャも釣られて画面に目を向けていた。そうして、冒険者達が休んでいる姿を目にして、義姉さん達と違い険しい顔をしだした。
「彼らは休んでいるだけでしょう? 何も気にする必要はないと思うのだけれど……」
「い──」
「ううん、これはおかしい。おかしすぎる」
僕が否定しようとしたところでサシャが強く否定した。義姉さんと義妹、更にはフローラとリアまで驚いた顔を向ける。そして、代表して義姉さんが尋ねた。
「サシャ、何がおかしいのかしら? ダンジョンに泊まるくらいはしそうじゃないの?」
「ダンジョンに泊まるのはしますよ。僕はまだやった事はなかったけど、そういう訓練だってありました。座学もありました。
でもこれはおかしいですよ。だって、冒険者が野営の準備も何もしないでこんな風に座ってるだけなんて……」
サシャに言われて僕を含めみんな難しい顔を見せる。
彼女の疑問はもっともだし、初めは僕もフローラも疑ったのだから。
「じゃあ、彼らは何故あんな風に座り込んでいるの?」
「そ、それは……」
「……」
再度義姉さんに問われると、今度は黙り込んだ。流石に理由までは分からないみたいだ。ま、ここから見ているだけでは判断の材料に乏しいし、仕方ない。
「あ、はいはい。リアは解りますよー」
皆が黙ったところで、リアが手を挙げながら突拍子もないことを言ってきた。
「は、え、あ? わ、解るの?」
慌てて訊ねるとにっこりした笑顔を返してきた。
「はい。もちのろんですよー。原因だって単純ですー」
フローラと顔を見合わせる。しかし、彼女も困惑顔だ。
リアはこちらの困惑を余所にあっけらかんと言い放った。
「原因は一酸化炭素中毒で皆死んでるんですー」
「い、一酸化炭素中毒?」
「はいですー」
満面の笑みで答えるリア。それに対して僕を筆頭にフローラ、義姉さん、義妹は額を集める(ちなみに勇者は一酸化炭素中毒が分かってない顔だったので除外)。
「どう思う?」
「あれだけ自信満々に言ってくるのだから間違いないとは思うわ。ただ……」
「なんでそんなのになってるかってことだよね、お姉ちゃん」
「そう、灯の言う通り一酸化炭素中毒は火事とかで炎と同じくらい注意しないといけない事なのだけど……あれは燃える物、つまり炭素がないと発生しないわ。洸ちゃん、そういう物質をあの土に混ぜてるのかしら?」
義姉さんに問われて、首を横に振る。
「僕が入れたのはただの土だよ、姉さん。粘土くらいなら混ざってるかもしれないけれど、それで一酸化炭素中毒が発生するとは思えないし……」
ちらりとリアのほうを見ると、にこにこして「もういいですかー?」と暢気に聞いてきた。僕らは一旦顔を見合わせ、頷き合う。
「ごめん、ごめん。一酸化炭素中毒なのはいいとして、どうしてそんな毒ガスが発生するの? 確かに火は魔法で発生してたけど、炭素がないよ?」
代表して聞くと、リアはあっさりとその理由を答えた。
「あ、それならリアが石炭とか木炭をこっそり混ぜたからですー。マスターの仰ることは間違ってなかったのですが、折角だし、燃やしたら面白い物入れようと思ったのですー。あわよくば資源になればなーと。えへへ」
「なっ!?」
その声に後ろを見るとフローラが真っ青な顔をしていた。口に手を当てて、なんてことをしてくれたんだと言わんばかりだ。
「リア、貴女はまさかマイマスターの大切なDPに手をつけたのですか?」
有り得ない、とその表情は物語っている。ここでリアが肯定したら卒倒しそうだな。
もっとも、その答えは肯定以外存在しない。それはフローラも解っているのだろうが、つい聞いてしまったのだろう。 果たして、リアの答えは……。
「ふぇ? 当たり前じゃないですかー。そうじゃなかったら、流石のリアでも土に混ぜるのは無理ですよー」
予想に違わず、肯定でした。フローラは本気で倒れそうなほど顔色が悪い。
「貴女は! 貴女は配下の自覚が無いようですね。この一件についてはあの方に御報告します」
ピシリ。
リアの顔がそんな音を立てて凍りついた。更にはサァーっと血の気が引く音が聞こえ、がくがく震え出した。
「フ、フローラ? こ、今回はマスターの、あの、その、た、為になってるから……ゆ、赦してくれない……かなー?」
フローラは顔を強張らせたまま何も言わない。
あんな顔初めて見たよ。よっぽど腹に据えかねているのかね。
リアは「あうあうあう~~」と義姉さんや義妹に目を向け助けを求める。しかし、誰も応じない。逆にフローラと同様に白い目を向け返していた。
困るに困った彼女はとうとう僕へと目を向けてきた。
「ま、マスター、赦してください。このようなことはしませんからー」
ふむ。甘いのかもしれないけど……。ま、冒険者を返り討ちにしたことだしいいかな。
「フローラ、その辺で終わりにしてあげて」
「マイマスター……ですがリアの行いましたことは重罪でございます。ただ赦すことは出来ません」
取り成すとフローラも勢いを弱めた。ただ、罰が必要か。
「うーん」
「洸ちゃん、そういうことなら暫くの間私達と鍛練するというのでどう? それでもフローラが納得しないならまた後で決めればいいわ」
考えに詰まっていると義姉さんが助け船を出してくれた。うん、今は特にすることはないし、そうするか。
「そうだね。今しないといけないことは少ないし、そうしよう。リアもフローラもいいね?」
2人とも頷きを返してくれた。フローラの方はまだ不満げだったけど。
話を区切る意味で手をパンパンと叩く。
「兎に角、冒険者達は無力化できてるっぽいしご飯にしよう」
その一言でこの場はお開きとなった。




