1.お祭りへ行こう!
日常編スタートです!
「あら、ジャムがなくなったわ」
それは、みさとの一言からはじまった。
「「「「「「ええ~?!」」」」」」
食堂に、神と精霊王達のブーイングが響きわたる。お母さまのホットケーキにはジャムが欠かせないのだ。蜂蜜もいいのだが、やはりジャムが一番だと皆の意見は一致していた。
「他にも欲しいものがあるから、今日買ってくるわ」
「俺も行こう。祭りの期間だから、神殿に顔を出すよう、神官に頼まれている」
「たしか、今年は、20年に一度の大祭のはずですよ?」
クロウドが聡にそう言うと、みさとの顔がぱっと輝いた。
「大祭なの?じゃあ、にぎやかよね!!」
みさとは、まるで子どものように嬉しそうにはしゃいだ。とてもひ孫がいるようには見えない。まあ、外見は23歳で止まっているので、見えないのは当たり前だが。
「はいは~い。僕も行く!」
これまた子ども2号のこの世界の神たるシン(見た目20歳前後、孫あり)が手を挙げた。隣で、妻のリン(見た目17、8歳、同じく孫あり)がくすくす笑いながら、私もと告げる。
僕も私もと言うことで、結局、聡とみさと、シンとリンに精霊王達でのお出かけとなった。
神の住む不可侵の森に隣接して、この世界の神殿の大本、大神殿がある。初めは、小さな神殿だったが、世界の繁栄にしたがって、徐々に大きく立派になっていった。今では、どこの城より大きいと言う。
今日は、20年に一度の大祭の真っ最中。神殿前の広場には、世界各地の出店が集まっていた。
「きゃああ、お店がいっぱい~!」
「おっと」
駆け出しそうになったみさとの腰に聡が腕をまわす。抗議するみさとに首を振る聡。
「先に神殿だ。神官長に会いに行くぞ」
「え~」
「買い物途中で切り上げるよりいいだろ?」
「う~、仕方ない浮き世の義理だわ」
「そういう訳だ。ここで解散な。あんまり羽目はずすなよ」
聡とみさとはそのまま神殿に入っていった。
「相変わらずラブラブだよね~、あの二人」
リンの肩を抱いたシンがあきれたように言う。
あなた達も人のこと言えないと思ったが、思慮深いクロウドは、口にはしなかった。
「じゃあ、僕たちも行くね」
仲睦まじく去っていく神とその妻を見送るクロウドとキンシャの横を、凄まじい勢いで少年が駆け抜けて行った。
「オレも!」
「待ちなさい!お二人の邪魔するんじゃありません!」
そのあとをミドゥーリが追いかけ、なんとか捕獲した。息を切らしながら、アカギに説教をしている。
「あらあら」
ぴったりくっついたアオイを連れて、チャイが二人のもとへと近づいて行く。ミドゥーリのフォローをしてアカギにも反省を促して、丸く納めるのだろう。ちなみに、精霊王とばれないように、髪と目の色は、この街に多い色に変えている。
「まるで家族だな」
「本当に。…ねぇ、私たちはどう見えるのかしら?」
「私たち?…ふむ、同僚、友達、か?」
「それとも、恋人、とか?」
キンシャが上目遣いでクロウドを見上げる。
「こ…」
目を見開きかたまるクロウドにキンシャが破顔した。
「やったわ!クロウドをビックリさせたわ!」
手を打って喜ぶキンシャに、クロウドは呆然としている。
こんなキンシャは、何年ぶりだろう。成人以後クロウドとキンシャは、賢者とされてきた。神秘的とさえ言われている。そのキンシャが、子供の頃のようにはしゃいでいた。
するりと腕を組んできたキンシャが、笑う。
「さあ、私たちも行きましょう?お祭りだもの」
その言葉に、クロウドの顔もゆっくりとほころんだ。
「そうだな。せっかくの祭りだ。楽しもう」
今日は、晴れの日、祭りの日。祀られる神も精霊王達も楽しんだって、いいじゃないか。
光と闇の精霊王、双賢者と崇められる二人は、腕を組んで楽しそうに祭りの中へと消えていった。
光の精霊王キンシャは 小悪魔モードを 手に入れた!




