プロローグ 勇者の誕生
「魔族だ! 魔族が出たぞ!」
村中が騒然となった。
「あっちだ! 森の方から来る!」
「子供を家の中へ!」
「母さん、早く!」
「待って! あの子がまだ畑に……」
「俺が連れてくる!」
「おい、武器を……」
「武器って言ったって、何を使うんだ!」
「弓だ! 猟師を呼べ!」
「おい、見ろよ……」
「何なんだ、あれは……」
そのとき、森の木々の向こうから、巨大な影が現れた。
人間の二、三倍はあろうかという巨体。
全身を覆う灰色の毛。
やや前屈みになった身体。
長い腕と、鋭い爪。
「魔族だ! 本物の魔族だ!」
「逃げろ!」
「きゃああああっ!」
大きな爆発と共に、家屋が炎上する。
「水を! 誰か水を持ってこい!」
「駄目だ! 火が広がってる!」
「お母さん!」
「こっちへ来なさい!」
「いや! お父さんがまだ!」
「戻るな!」
「いやああああっ!」
「走れええええ!」
その日、その小さな村は消えた。
同じ日。
とある遠くの村で、ひとりの男児が産声を上げた。
母親に抱かれた赤子を、一人の老人が見つめていた。
かつて大魔導師と呼ばれた男だった。
老人は赤子をじっと見つめると、静かに口を開いた。
「……この子は、神に愛されておる」
母親が顔を上げる。
老人は続けた。
「この子はいずれ、勇者となるだろう」
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