表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/15

ストーカー・ボンバー

爽快感のある甲高い音が聞こえた気がした。

 そして気が付くと――――尻からほのかな温かみを感じた。

 なんだか、長いこと眠ってしまった時のような、独特な頭痛がする。

 目を開けると、景色が猛スピードで右から左へと流れていた

 もしかしなくても、また戻って来てしまったようだ。

「あの……大丈夫?」

 隣の女子高生が、俺にそう尋ねて来た。

「ハハ」

 俺は笑いながら、自らの拳で自らの頬を打ち抜いた。

 勢いが余って、俺は床に崩れ落ちる。

 世界が揺れて、血の気が引いて、脳震盪のようになったけれど、そんなことはどうでも良い。

 俺は無我夢中で、自分自身を殴り続けた。

 周囲の人が悲鳴を上げている。

 床に俺の血が飛び散り始めた。

 大人の男が俺を止めに入る。

 それでも俺は暴れて、騒いで、大人たちを振りほどいて、殴り続けた。

 やがて、世界は真っ暗闇に包まれた。

 もう、いつ気を失ったのかも分からない程、俺はただひたすらに俺を殴り続けたのだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 その後、どうなったのかはもう覚えていない。

 病院に居た気もするし、警察署に居た気もする。

 ただ俺は、いつのまにか無気力に家のベッドに横たわって、壁をただ見つめていた。

「ああ……」

 何もやる気が起きない。

 どうせ俺が何かしたら、全てが悪い方向へ進む。

 もう一歩たりとも動きたくない。踏み出したくない。

 いつもそうだ……俺はいつも、大事な時に動けなくて、それなのに、完全な自己満足のためならいくらでも道を踏み外せてしまう。

 成長しようとするたびに、間違いを犯してしまう。

 俺なんかが誰かを救うなんて、おこがましいにも程がある。

 こうしてジッとしている方が、皆のためになる。きっとそうだ。

「――――あんた、とうとう壊れたんだって?」

 扉が開く音がして、それに続いてそう声が飛んで来た。

 駒井が来たようだ。

 だが、振り返る気すら起きない。

 俺は変わらず、何も言葉を発さないで壁を見続けた。

「何があったの? 聞いてあげるから、話してみ」

 ベッドが僅かに沈み込んだ。駒井が座ったようだ。

 長話を聞く覚悟もあるようだが、何も話す気にはならない。

「――――まあ、いいや。何となく察しは付くし」

 顔は見えない。だが、駒井にはどこか柔らかい雰囲気があった。

「どうせまた、好きな人を追っかけて、好きな人のために何かをしようとして、盛大に失敗して自暴自棄になっている。そんなところでしょ」

 思わず、体がビグッと震えた。

 そしてそれを、駒井は見逃さなかった。

「やっぱりね。ただ今度は、相当大きなやらかしをしたって感じかな」

 見透かすように、駒井は言う。

「ホントにあんたは、どこまでも臆病で、いつまで経っても女の子を追っかけて、これっぽっちも成長をしないよね」

 駒井はそう言って、俺を嘲笑った。

 別にそのこと自体に腹は立たなかった。けれど――――。

「あんたさ、もっと自分に自信持ちなよ」

 駒井のその言葉を聞いて、何だか無性に腹が立った。

「――――それが出来たら、苦労しねえんだよ」

 気が付いたら、俺は歯を噛みしめながらそう言葉を紡いでいた。

 簡単なことのようにそう言う駒井が許せなかった。

「俺みたいなクズでどうしようもない人間が、どうやって自信を持てってんだよ」

 俺には一ミリたりとて自信を持てる要素が無い。

 そんなの、分かり切っている事のはずだ。

「何言ってんの。あんたは最低な人間だけど、クズじゃないでしょ」

「は?」

 駒井の言葉は、完全に予想外なものだった。

「私はあんたのこと、こう見えて結構好きだけど? 少なくとも、傷ついてるんなら、立ち直らせてあげようと思うくらいには」

 俺はそう言われて、思わず駒井の方へ振り返る。

「ただもちろん、異性としての好きではないから」

 ただ、速やかにそう否定されてしまった。

「私は今も昔も、あんたに命令されたのなら、本当に何だってやるつもりだった。犯されても仕方ないとも思ってた。そして、それはあんたも十分理解していた。でしょ?」

「ああ」

 俺が命じれば、駒井は本当に何でもやってくれる。

 倫理など完全に無視した命令でも、おとなしく従う。

 そのことは十分理解していた。

「でもあんたは、私に手を出さなかったじゃん」

 駒井が、俺に微笑んだ。

「あんたはいつも、最低限の越えちゃいけないラインは守ってた。中々いないと思うよ。あんたと同じ状況下で、一線を越えずにいられる人っていうのは」

 そんなことない……。そう否定しようとしたけど、駒井の微笑みが、それを許さない。

「そりゃあ、弱ってる時はまあまあ最低なことも何回か言ってきたけどさ、でも普通の時のあんたは、良い人じゃないけど、優しい人だったよ。少なくとも、私が操り人形として六年間見て来たあんたは、そんな人だよ」

 今日の駒井は、いつになく温かかった。

「あんたは最低な人間だけど、十分魅力もある人間。自信をもって良い人間だよ」

 その言葉が、俺の中で少しだけ何かを溶かした。そんな感じがした。

「俺の魅力……か。気付いてくれる人がこの世に居るのかな……」

 誰にも気づかれない魅力なんて、無いに等しい。

 十年以上付き合いのある駒井ならまだしも、他に俺の微細な魅力に気付いてくれる人が居るのだろうか……。

「じゃあ、逆に聞くよ」

 駒井は俺の言葉に対して、眉を寄せて俺を見た。

「あんたの好きな人は、あんたの魅力に気付いてくれない、薄情な人なの?」

 その言葉を聞いて、俺は目を見開く。

「少なくとも、私ほどの人間になれば、アンタの微小な魅力でも、ハッキリと見えてる。それなのに、あんたの思い人は、人を上辺だけでしか判断できないような、しょうもない人間なの?」

 駒井の言葉が、俺に思い出させてくれた。

「ねえ、どうなの」

 俺は一度目を閉じ、再度開く。

「違う――――」

 蝶野さんなら、きっと俺を見てくれる。俺を知ってくれる。

「なら、しっかりと自信を持ってアピールしてみなよ。最初は物凄く小さなことでも良いからさ。前に出て、立ち向かってみなよ」

 駒井が俺に向かって励ますような、温かい微笑みを向けてくれる。

「ああ」

 それにつられて、俺も駒井に対して、勇ましい笑顔を浮かべた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ