第094話 3人で冒険
冒険者の仕事を決め、ヘイゼルの家を片付けた翌朝、俺はヘイゼルの家に行き、ヘイゼルと泊まっていったフィリアと合流した。
そして、西の門を抜け、大森林を目指し、草原を歩いている。
「フィリアは大森林にはよく行くのか?」
初めて一緒に冒険に行くフィリアに聞いてみる。
「まあねー。ミケがモンスターを探して、アンナが仕留める感じの討伐依頼とかかなー」
ミケが斥候でアンナが剣士だもんな。
フィリアは援護って感じかな。
「あいつらって強いん? 一緒にこの町に来たけど、戦闘なんかなかったからわからん」
「アンナもミケも強いよー。伊達に女3人で冒険者の仕事をやってないし」
あいつら、やっぱり強いんか……
「うーん、アンナには絶対に勝てない気がしたけど、ミケもかー」
あいつ、身長が150センチくらいしかないように見えるし、小さいんだがなー。
「獣人は身体能力がすごいからね。一瞬で木を登っていったのを見た時には本当にびっくりしたもん」
猫じゃなくて、チーターとかトラかもしれん。
そう思うと、あんまりからかわない方がいいかも……
「すごいんだな」
「私はリヒトさんの奥の手が気になるよ。銃と言霊だっけ?」
ヘイゼルちゃんは人の奥の手をべらべらしゃべるなー……
まあ、隠すようなことじゃないし、話すべき内容なんだけど……
「銃はこれ」
銃を取り出し、フィリアに渡す。
当たり前だが、セーフティーロックはかけてある。
「結構、重いね。この穴から鉄の塊が出るのかー……怖いね」
そりゃね。
こんなんを向けられたらちびるわ。
外国はよくこんなもんを一般市民に持たすよなー……
あと、多分、鉄じゃなくて、鉛。
「あんま威力も精度もないから期待はするな」
何より、俺の腕がない。
「まあ、私達にくれたスタンガンと同じ護身用なんだね」
フィリアはそう言って、銃を返してきた。
「まあなー。言霊は……試せばいいか」
「ちょっと気になるからやって」
よし、やってみるか!
『右手を挙げろ』
言霊を込めて、言葉を発した。
すると、フィリアもヘイゼルも右手を挙げる。
「すごい!」
「ホントよねー」
「わはは! すごかろう? これをやると、皆、俺が本物の霊能力者だと信じてくれるんだ」
それで騙して金品を……
いや、正当な報酬をもらう。
「この力ってすごくない?」
「めっちゃ悪用できそう……」
あ、すげー、疑われてるし。
「まあ、正直に言うと、これはそこまで強くないんだ。2人共、次は絶対に右手を挙げないぞって思ってろ」
「わかった」
「挙げない、挙げない……」
挙げないを連呼しているヘイゼルは本当に素直だわ。
こういう奴は色んな意味で騙しやすい。
『右手を挙げろ』
俺が再び、言霊を込めて、言葉を発すると、フィリアもヘイゼルも右手を挙げなかった。
「あれ? 防げた」
「挙げようかなーとは思ってしまったけど、防げたわね」
フィリアとヘイゼルは不思議そうに自分の右手を見る。
「この程度なんだよ。本人が強く拒否すれば、防げる。金を寄こせとか、『そのスカートをたくし上げろ』って言っても絶対に嫌だろ? そういうのは無理。でも、動くなとか手を挙げろ程度ならまあいっかーってなるんだよ。でも、すぐにいや、なんで挙げなきゃならんのだって気付くからその時に効力が切れる」
人は命令されると本能的に従う。
これに不思議パワーを込め、強くしたのが言霊だ。
多分、別の名前があると思うんだけど、言霊だ!
「なるほどー」
「でも、この前の依頼みたいにとっさの時には使えるわけね」
「そうそう。1秒でも2秒でも動きを止められれば、勝機は生まれるからな」
ヘイゼルを拘束してた兵士なんかは普段の俺では絶対に勝てない相手だが、動きを止められれば、俺の銃で潰せる。
「ふーん、ところで、さっきスカートのくだりところで言霊を使った?」
「あんた、絶対に使ったでしょ。私、結構なところまで上げかけたけど?」
フィリアは断固拒否し、騙されやすいヘイゼルは膝上まで上げてた。
「さあ、行こう!」
2人を無視して、てくてくと大森林目掛けて歩いていく。
「いや、待ちなさい」
「あんた、昨日の夕方も使ったでしょ!」
「ん? 何それ?」
「昨日、片付けの休憩中に……あ、いや、何でもないです……」
2人の会話を聞こえない振りをして歩くスピードを速めた。
「さーて、何を採取するかねー?」
大森林に着くと、気を取り直して、仕事を開始しようとする。
「……まあ、いいわ。あとで聞くから。黄金草はもうダメなんだっけ?」
フィリアは何か言いたいことがあるのだろうが、仕事中なので言うのをやめた。
「浅いところはもうダメかなー」
「毒草でいいじゃん!」
ヘイゼルちゃんが嬉しそうに頷く。
活躍したいんだろう。
「まあ、それでいいか」
「毒草? 大丈夫なの? 危なくない? 一応、回復魔法で毒も治せるけど」
回復魔法で毒も治せるらしい。
フィリアの回復魔法ってすげーな。
今度、フグでも食ってみるか?
「こいつ、収納魔法を使えば、一瞬で採取できるんだよ。俺に88株も手作業で掘らせておいて……」
「ごめんって……根に持たないでよ」
ヘイゼルがさっきまでの嬉しい顔を引っ込める。
「全然、持ってないから安心しろ。今後の採取が楽な方が良いわ」
「じゃあ、毒草でいく?」
フィリアが確認してくる。
「儲けもいいし、ガラ悪マッチョもやってほしそうだったしなー」
「任せといて!」
ヘイゼルちゃんがまた笑顔になった。
忙しい子だ。
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