第092話 気にしないで!
俺達はヘイゼルの家に帰ると、マットレスをヘイゼルのベッドがある寝室まで運び、家を出る。
そして、フィリアに案内されて、同じ商業区にある肉屋に到着した。
「おじさーん、いるー!?」
フィリアが店の奥に向かって声をかける。
すると、奥からおじさんが出てきた。
もちろん、マッチョだ。
この世界、マッチョばっかりだ。
「おー! フィリアちゃん、相変わらず、可愛いねー」
そりゃそうだ。
ふふん! 俺の嫁(近いうち)!
「ありがとー。前に言ってた氷を持ってきたよー。金貨12枚のやつ」
「10枚なー」
肉屋のおっさんは速攻で訂正した。
ホント、この子は……
「そうだったねー。持ってきたけど、どこに出せばいいの?」
フィリアは悪びれもせず、話を進める。
「あー、じゃあ、裏に来てくれ。ってか、氷は?」
俺らは当然、何も持っていない。
氷はヘイゼルの収納魔法の中だもん。
「秘密ー」
「まあ、いいか。じゃあ、ついてきてくれ」
おっさんがそう言って、店の裏に回ったので俺らもついていく。
店の裏に行くと、馬車が用意してあった。
「あれ? ベストタイミング?」
あまりのタイミングの良さにフィリアが首を傾げる。
「いや、まあ、そうと言えば、そうだが、肉は常時余るくらいに入荷するからな。1日に5回は別の町に出荷してる。これは本来なら近くの村に出荷予定だったが、氷があるなら東のリードに変更するわ」
リードは猫ちゃんが行っている港町だ。
「いいの? 村の人が困らない?」
「いいよ。すぐに違う馬車を用意するから」
すぐに用意できるってすげーな。
マジで肉が有り余ってんだなー。
「えーっと……じゃあ、この箱に氷を入れてくれ」
おっさんは馬車の近くに積んであった空箱を2つほど持ってきた。
「はーい。あ、おじさん、あっち向いてて。今からこの2人が魔法で氷を作るから」
収納魔法を言うわけにもいかないからそういうことにしてる。
ヘイゼルはともかく、俺は氷なんか作れないけど、まあ、嘘も方便だ。
「氷を作るってすげーな。でも、なんで見ちゃダメなんだ?」
「魔法使いは秘匿主義なんだよ」
「へー。そうなんだ」
魔法使いは数が少ないからこの言い訳でいいらしい。
まあ、最悪、恥ずかしがり屋で通すつもりだった。
「そうなんだよー」
「ふーん、ところで、こいつらは?」
おっさんが改めて、俺とヘイゼルを見る。
「私の旦那(予定)とその正妻(予定)」
「いや、正妻はあんた」
「やだよ」
「私だって嫌よ」
マジで正妻の押しつけ合いをしてるし……
何も知らないおっさんが可哀想なものを見る目で俺を見てるし…………
「ま、まあ、わかったよ。とりあえず、おめでとう。今日は初日だし、お祝いも兼ねて金貨12枚にしよう!」
おっさん……なんて良い人なんだ。
でも、俺をそんな目で見るんじゃない。
「おー! さすがはおじさん! じゃあ、やるよ。あっち向いててー」
フィリアがご機嫌にそう言うと、おっさんが箱とは反対方向を向いた。
すると、ヘイゼルが収納魔法から氷を出し、箱を満たしていく。
1つ目の箱が終わり、2つ目の箱に氷を入れ終わると、ヘイゼルがフィリアを見て、頷いた。
「おじさーん、終わったー」
「はえーな、おい――って、マジだし!」
おっさんは振り向くと、箱に入った氷を見て驚愕する。
「すごいでしょー?」
「すげーわ。これを安定的に納品してくれんのか?」
「3、4日に1回かなー。私らも冒険者だしねー」
いつ帰るかわからんし、帰ってもすぐに戻ってくるとは限らんからな。
「そうか……まあ、10日に1回でもありがたいわ。あ、これが金貨12枚な」
おっさんはそう言いながらフィリアに金貨を渡した。
「まいどー」
「いやー、これは助かるわ。お前らもありがとよ」
おっさんは俺とヘイゼルにも礼を言ってきた。
「お安い御用よ」
「あ、馬車の中で氷を作った方が良かったですか? このままだと重い、です……よ」
声がどんどん小さくなる。
何故なら、氷が詰まった箱をおっさんは軽々と持ち、馬車に乗せたのだ。
「こんなもん軽いだろ」
ケッ! マッチョめ!
「ヘイゼル、筋力が上がる魔法ってない?」
「あるにはあるわよ……」
それだ!
「そんなもんより、肉を食って鍛えろよ。兄ちゃん、冒険者だろ?」
うわーん。
この世界の男、きらーい。
よし! 明日から腕立てをしよっと。
肉屋に氷を売り、金貨12枚をもらった俺達は西区にある冒険者ギルドに向かった。
ギルドに着くと、時刻は15時だったため、まだ他の冒険者達は仕事から帰ってきておらず、閑散としていた。
まあ、いつものことだ。
俺達はひとまず依頼票をスルーし、受付にいるガラ悪マッチョの所に行く。
「おーす! 休暇を満喫できたかー?」
受付に行くと、ガラ悪マッチョの方から声をかけてきた。
「まあなー。今日からお前に優しくしようと思うわー」
そう言うと、ガラ悪マッチョが俺の後ろにいるフィリアとヘイゼルを見る。
「俺もお前に優しくするわー」
同志よ!
「どういう意味?」
「ちょっとムカつくよね?」
怖いからスルー、スルー。
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