第090話 休息
「1まーい、2まーい………………9まーい、10まーい、10万円!」
ヘイゼルと一緒にソファーに座りながら後ろの食事用テーブルで1万円札を数えている少女を見ている。
この子はさっきから大量の1万円札を10枚にまとめるという作業を本当に楽しそうに行っていた。
「……ねえ、あれの何が楽しいのかしら?」
隣に座っているヘイゼルがフィリアには聞こえない程度に声量を落とし、聞いてくる。
「……わからん。放っておこう」
実は先ほど、母親との電話を終えた俺達は金貨600枚の内、200枚を質屋に売ってきたのだ。
それにより、現金で2000万円を手に入れた。
俺やヘイゼル、質屋のじじいも喜んでいたが、それ以上にフィリアが喜んでいた。
前に金貨を数えるのが好きって言ってたが、マジで万札を嬉しそうに数えている。
「ねえ? 出かけない?」
ヘイゼルが外出を提案してきた。
「出かけるねー……」
「買い物でも行きましょうよ」
そうするかな……
「フィリアー、ちょっと出かけるけど、お前はどうするー?」
「私はちょっと手が離せないや。2人で行ってきて。あ、帰りに卵を買ってきてくれる? 晩御飯にオムライスを作るから」
「わかったー」
オムライスを作るらしい。
「お前だろ?」
晩飯を要求したであろう犯人を見る。
「オムドリア、美味しかったし……」
嬉しそうに食べてたもんなー……
「まあ、俺もオムライスは好きだし、いいか。じゃあ、行こうぜ」
「そうよねー」
俺とヘイゼルは出かける準備をし、留守をフィリアに任せて、家を出る。
そして、相変わらず、周りの風景や物に興味津々なヘイゼルの手を引き、何とか電車に乗せた。
なお、ヘイゼルはずっと窓から外の風景を見ている。
「この世界はホントにすごい。私、大丈夫かな?」
ヘイゼルは外を見たまま、聞いてくる。
「どうにかなるもんだし、どうにかしてやる。フィリアもいるんだぞ」
「そうね。正直に言うと、3人で良かったと思う。リヒトもフィリアもしっかりしてるもん。その点、私は世間知らずのポンコツだし、リヒトに多大な負担を強いると思う」
……うん!
「お前には他に良いところがあるよ。というか、お前、俺の師匠じゃん」
「……そういえば、そうだったわね」
忘れんなよ!
「はよ、次の魔法を教えろ。フィリアは回復魔法を教えてくれない」
「まあ、ヒーラーはねー……」
「今度から一緒に冒険をすることもあるだろうが、ポーションは自重しろよ。拗ねるぞ、あいつ」
以前、下手をすると、ポーション1つで地位を奪われるのがヒーラーって自虐的に言ってたし、気を付けないといけない。
「あの子、蛇だしね」
「そうそう」
悪口じゃないぞ!
俺とヘイゼルは家で留守番をしている蛇女にお土産を買って帰ることに決め、色々なところを回っていく。
「そういやさ、魔法学校ってどんなんだった?」
すれ違った高校生を見た時にふと気になった。
「魔法を学ぶところね。基本は5年くらい通う。あとは学校に残る人もいるから最低でも5年かな」
思ったより、長いな……
「お前、何歳で入ったん?」
「10歳よ! すごいでしょ」
よくわからんが、すごいことなんだろう。
こいつはドジだし、抜けてるけど、頭が良いのは確かだ。
「10歳ねー。だから親との卒業後の結婚の約束に了承したわけだ」
「そうね。10歳だもん。先のことなんかわかんなかった。でも、少しずつ、大人になるにつれて嫌になりだした。学校の友達も逃げるべきって言ってたし、逃げた。実は友人達が手伝ってくれたりもした」
その友達はナイスだわ。
「良い友人だなー」
「そうね。魔法使いだし、自立できるのになんで親の言うことに従って、よくわからんおっさんに嫁がねばならないのかって感じ。はっきり言うけど、魔法使いは性格が悪いか、傲慢か、自己中ばっかりよ」
まあ、上流階級が多いだろうし、選民思想もやばそうだ。
実際、エリートだろうしな。
ヘイゼルだって、しゃべり方は高慢ちきだもん。
こいつは笑え……可愛いけど。
「まあ、その友人に乗ったのは正解だと思うぞ」
「そうね。冒険者は自由で楽しかったし、結果的に結婚もできたわ」
「良かったなー。誠実な旦那だぞー」
「誠、実……?」
真顔で見られた……
笑うとこなのに……
「ギャグがウケないなー」
「ごめん。まったく笑えない」
悲しい……
母さんも俺のオレオレ詐欺ギャグを笑ってくれんかったし、詐欺師ギャグはダメらしい。
その後も買い物を続けていき、服屋、アクセサリーなどの小物屋を始め、冒険に使えそうなものを見に、ホームセンターやアウトドアショップにも行った。
ヘイゼルは相変わらず、色んなものを買っていた。
「いっぱい買っちゃった」
ヘイゼルはそう言うが、特に荷物は持っていない。
荷物は全部、収納魔法にしまっているのだ。
「お前、以前もだけど、ホントに買うよな」
さすがは貴族だわ。
「こっちの世界は良い物が多すぎるのよ。それにしても、ちょっと疲れたわね」
時計を見ると、時刻が15時だ。
もうちょっと出かけていてもフィリアは拗ねないだろう。
「帰る前に休憩していこうか」
「休憩? お茶でも飲むの?」
「まあ、お茶も飲めるな」
ヘイゼルの手を握り、歩いていく。
「どこに行くのよ?」
「座れるところ。歩いて疲れただろ?」
「まあ、そうかも」
うんうん、こっちだよー。
ヘイゼルを引っ張り、休める建物に入っていった。
「はい、お茶」
備え付けの冷蔵庫からお茶を出し、ソファーに座っているヘイゼルに渡す。
「……ありがと」
「座れてよかったなー」
「そうね……」
ヘイゼルは俺の方を見ず、じーっと奥にあるベッドを見ている。
「ねえ? ここは飲食店ではないわよね?」
「お茶があるじゃん。食べ物も頼めば来るよ。ほら、ここにメニューがある」
お前の好きなパスタもあるぞ!
「………なんでベッドがあるの?」
「横になった方が休めるじゃん」
疲れたでしょ?
「ここさ、宿屋じゃない?」
「泊まることもできるし、休憩もできるよ。ここは1時間とか短い時間でも利用できるんだよ」
「へー。やけに広いお風呂もあったね」
「まあ、汗をかくこともあるし……」
2人で入ることもあるし……
「なるほどねー」
「ヘイゼルちゃん、こっちにおいでー」
めっちゃ疑っているヘイゼルを手招きする。
「……ここ、そういうとこじゃない?」
「いいからおいで」
「あんたさ、誠実な旦那じゃなかったっけ?」
何それ?
俺、詐欺師。
「俺は誠実だよ。ヘイゼル、愛してる」
「最悪なタイミングで言われたし……」
それはごめん。
「この前はお預けだったしー」
「いや、してあげたでしょ」
「それはそれ、これはこれ」
「まだ結婚してないのになー……」
ヘイゼルはそう言いながらも身を寄せてきた。
「そのうちするから」
「ねえ? なんでうさんくさく言うの?」
これは癖なんだよ……
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