第058話 フィリアの金髪はお金の金
ヘイゼルは宿屋に戻り、引っ越しをしに行ったので、俺はフィリアがいるであろう教会へと向かう。
教会に着くと、宿舎に勝手に入って良いものかと悩んだが、前にフィリアのじいさんに良いって言われたことを思い出し、扉を開けた。
そして、一番手前の部屋をノックする。
『はーい』
中からフィリアの声が聞こえた。
「フィリア、俺だ」
「あ、どうぞー」
フィリアの許可を得たので、中に入る。
「今日は1人?」
フィリアがニコッと笑いながら聞いてくる。
「ああ。仕事も終わったし、初級魔法もお墨付きをもらった。ヘイゼルは今日、明日で本格的に引っ越しするらしい」
「おー! やっとかー! ヘイゼルさん、本当に荷物が多かったもんねー」
「研究職タイプの魔法使いだからな。まあ、しゃーない。久しぶりの休みだし、俺は帰るけど、お前はどうする?」
まあ、答えはわかっているけど、一応、確認する。
「もちろん、私も帰るよー。温かいお風呂に入りたいし、冷えたお酒を飲んで、甘いもの食べて、ふかふかベッドで寝たい」
言ってることはダメ人間だな。
まあ、フィリアはめっちゃ働いてくれてるから全然ダメじゃないんだけどね。
「じゃあ、帰るか」
「あ、ちょっと待ってて!」
フィリアはそう言うと、急いで部屋を出ていった。
部屋に残された俺はフィリアのベッドに座り、何となくベッドをさすりつつ、待っている。
ヘイゼルの部屋でも思ったけど、女子のベッドって、何か良いなー。
いや、変態みたいだな、俺……
「お待たせー! って何してんの?」
俺がベッドをさすっていると、フィリアが戻ってきた。
「こっちの世界の布団の感触を確かめている。俺が泊まっている宿屋のベッドと変わんないな」
すばらしい言い訳。
「まあ、そうでしょ。一応、柔らかいんだけど、あっちの世界のベッドを体験するともう戻れないね。内緒で買おうかな?」
「絶対にバレると思うぞ」
「だよねー。いっそ、私もヘイゼルさんみたいに一人暮らししようかな? そうしたら自由に買って、好きにできるし」
確かに、部屋や家を借りれば、そういうこともできるな。
食事だって、インスタントや菓子類は好きに食べれるし、寝具だって、ベッドはともかく、マットレスなら持ち込めるだろう。
ポータブルの電化製品だって持ち込める。
「悪くないな……」
「だよねー。まあ、私は微妙だけどね」
「そうなん?」
「家があるのにわざわざ一人暮らしをするために家を借りる人はいないよ。特に女性はそうだね。危ないし」
あっちでは大学だったり、就職すれば、男も女も一人暮らしをするケースが多いだろうが、こっちの世界ではまずないのか。
それこそヘイゼルのように国を出た冒険者ぐらいだろう。
「うーん、難しいなー。まあ、ヘイゼルに頼めば、荷物くらいは置いておいてもらえるだろうな」
「というか、それらすべてを解決する方法があるんだけどね」
知ってる。
お前が考えていることはわかってるし、俺もその考えは浮かんでいた。
だから家を借りるのを保留にしているのだ。
「悪くはないんだけどなー。うーん……」
「煮え切らないなー……まあ、ヘイゼルさんのこともあるか」
そっちじゃなくてねー。
「まあいいや。とりあえず、帰ろうぜ」
「そだねー。あ、ゴミ、ゴミ」
フィリアはベッドの下からお菓子のゴミが入った袋を引っ張り出すと、すぐに俺の腕に抱きついてくる。
そんなフィリアからはお菓子の匂いじゃない良い匂いがし、腕には柔らかいものが当たっていた。
ああ……マジで娶っちゃおうかな……
ぶっちゃけて言うと、絶対に幸せになれると思う。
霊媒師の俺が言うんだから間違いない。
……けっして、流され、心を乱された意見ではない。
そう思いつつ、スマホのアプリを起動し、フィリアと日本の自宅に戻ってきた。
「おー、久しぶりな気がするわー」
「帰ってきたねー」
ちょいちょいここを自宅認定しているフィリアさん。
「どうする? 飲む? 風呂?」
それとも、ご、は、ん?
「お風呂が良いな。気分的にさっぱりしたいし」
「わかるわー。俺も午前中、大森林だったし、風呂に入りたい」
「お疲れだったねー」
フィリアが優しい笑顔でねぎらってくれる。
「ちょっと用意してくる」
「あ、いいよ。私がやる。リヒトさんは疲れただろうし、座ってて」
フィリアはそう言うと、靴を脱ぎ、リビングを出ていった。
「……新婚って良いね」
ボソッと独り言をつぶやくと、すぐに身体が熱くなったような気がしたため、靴を脱ぎ、ソファーに座った。
そして、スマホを充電しようかと思っていると、着信履歴が残っていた。
誰だ?
……質屋のじじいか。
そういえば、金貨のことがあったなと思い、電話をする。
しばらく耳元で呼び出し音が流れていると、呼び出し音が止まった。
『もしもし、詐欺師か?』
「詐欺師じゃねーって」
こっちでも詐欺師、向こうでも詐欺師。
俺ってどんだけ詐欺師っぽいんだろ……
『お前、全然、電話に出なかったが、海外でも行ってたのか? いや、まあいい。この前の硬貨だがな? 簡潔に言うが、銅貨と銀貨は買取できん。他を当たれ』
「ま、しゃーないか……で? 本命の金貨は?」
正直、銅貨も銀貨も期待はしていない。
どうせ金の方が高いもん。
だったら銀貨を10枚集めて金貨に替えた方が良い。
『この前の硬貨1枚で8万出す』
「10万だなー」
俺を騙せると思ってんのかね?
『9万だ』
刻む気か?
「10枚単位で売ろうかと思ってる」
『チッ! 10枚で1本出してやる』
1本……100万円か。
「それでいい。出所は聞くな」
『聞かねーよ。お前ら親子がまともなもんを持ってくるわけねーしな』
お母様もそこを利用してるのね……
まあ、近所だしな……
「用意できたら持っていく」
『金ならいくらでもいいぞ。即、現金で買い取ってやる』
「わかった」
話が終わったので、電話を切った。
「終わった?」
急に声がしたので振り向くと、フィリアが笑顔で立っていた。
ただし、先ほど俺の労をねぎらってくれた新妻っぽい優しい笑顔ではなく、ちょっと黒くて、頭の中が金色になってそうな笑顔だ。
「終わった。先に入っていいぞ」
「まあまあ」
フィリアが俺の隣に座る。
肩が触れる距離であり、さらには左手を俺の太ももに置いてきた。
「いや、入れって。あとで話すから。お酒を飲みながらゆっくり話そうぜ」
人差し指で太ももを優しくぐりぐりするんじゃないよ!
おのれはキャバ嬢か!
フルーツの盛り合わせしか頼まないぞ!
「いや、リヒトさんが先に入ってよ。お疲れでしょ?」
俺、お前のあとが良いんだけどな……
「……じゃあ、先に入ってくるわ。冷蔵庫のやつは飲んでいいからな」
「ううん。上がってから乾杯しようよ」
殊勝なことを言っている気がするが、俺、お前の長風呂を待つのか……まあ、いいけど。
「そうだな。じゃあ、お先に」
嫁気取りのこいつには何を言っても無駄だと思い、素直に風呂に入ることにした。
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