第051話 気付いた?
翌日、ヘイゼルを迎えにいくためにもくもく亭の前までやってきたが、誰もいなかった。
仕方がないのでもくもく亭に入り、宿屋のおかみさんにヘイゼルのことを聞くと、まだ下りてきておらず、朝食も食べてないらしい。
「まだ寝てんな……」
「だと思うよ。ヘイゼルちゃん、昨日、遅くまで飲んでたし」
あいつの生活から管理しないといけないのかねー?
「起こしてきてもいい?」
「どうぞ。というか、お願いするわ。さっさと食べてほしいし」
おかみさんの承諾を得たので、2階に上がり、昨日も来た部屋の前まで来ると、ノックをする。
「ヘイゼルー?」
ノックをしながら声をかけるが、反応がない。
「こういう時にスマホがあると電話できるんだが……仕方がない。ヘイゼルー!!」
大きな声を出し、ノックの力も強くした。
すると、扉の奥からドンドンと強い走る音が聞こえてくる。
そして、扉が開いた。
「ご、ごめん! 寝坊しちゃった!」
ヘイゼルが申し訳なさそうに慌てて謝ってくる。
だが、俺はそんなことはどうでもよく、ヘイゼルの姿が気になった。
いつもは長い黒髪を無造作に伸ばしているのに今は上げている。
そして、非常に薄着だ。
いつもは黒のローブで隠しているでっかい谷間がガッツリと見えている。
「おかみさんが早く朝飯食べてだってよ。俺は下で待ってるから早くした方がいいぞー」
「わ、わかった。ごめん、ちょっと待ってて!」
ヘイゼルはそう言って、扉を閉めた。
あいつって、すごいんだなーと感心しながら階段を下りる。
「どうだった?」
おかみさんが聞いてくる。
「すごかった。細いくせにマジででかいのな」
いやー、すごい。
「……そっちじゃないよ」
「寝てた。今、慌てて準備してる。おかみさん、飲み物をちょうだい。御代はヘイゼルにつけといて」
「あいよ!」
おかみさんに飲み物を頼むと、併設されている食堂の椅子に座る。
そして、少ししたらおかみさんが果物のジュースを持ってきてくれたので飲んで待つことにした。
ジュースも飲み終わり、ちょっとすると、いつもの黒ローブを着たヘイゼルが下りてきた。
ただし、帽子は被っていない。
忘れてるし……
「ご、ごめんね」
ヘイゼルは俺と同じ席につき、謝ってくる。
「別に急いでないし、いいよ。それよか、朝飯を食べなー」
「う、うん、おかみさーん、ごはーん!」
すぐにおかみさんがパンとスープを持ってくると、ヘイゼルはガツガツと食べだす。
食べるスピードは遅いけど……
「帽子を被っていないお前は新鮮だなー」
「あ」
ヘイゼルはパンを食べながら自分の頭をさする。
「お前、なんでいつも帽子を被ってんの?」
日焼け防止か?
「雰囲気作り。リヒトの怪しい外套と一緒」
「なーんだ、魔法的な何かがあると思った。ローブはちょっと頑丈って言ってたし」
木の枝で裂けない程度らしいけど。
「うーん、帽子は何もないね。魔法使いっぽいから被ってる」
「まあ、雰囲気作りが大事なのはわかるわ」
大事、大事。
「あとはまあ、アピールね。魔法使いだから襲ってくるんじゃないわよーってやつ」
それもわかるな。
こんな美人で巨乳なのにバカで弱そうという暴漢に襲ってくれって言っているような女でも見た目が魔法使いなら話は別だ。
「そういう意味でも俺もそっちに寄せた方が良いかもなー」
「見た目は大事だからね。フィリアもそう。教会は怖いもん」
騎士団か。
特にフィリアはあのじいさんの孫。
「お前らが無事なのもわかるな」
特にお前。
「まあね……あのさ、見た?」
ヘイゼルが目も合わさずに聞いてくる。
多分、さっきの部屋でのことだろう。
「………………」
無言で財布から金貨1枚を取り出し、ヘイゼルの前に置く。
「お金はやめて!」
いや、金貨1枚の価値はあったよ。
脳裏に焼き付けたもん。
朝食を食べ終え、自室から帽子と杖を持ってきたヘイゼルと共に町の外へとやってきた。
そのまま大森林を目指して歩いているのだが、道中はヘイゼル師匠の魔法レッスンだった。
まずは基礎が大事ということで魔力操作から教わっている。
「うん、普通に魔力操作はできてんじゃん」
ヘイゼルがうんうんと頷く。
魔力操作というのはそのまんまだが、体内にある魔力を操作することだ。
俺は元々、不思議パワーを使っている。
というか、不思議パワーが魔力だと思う。
「似たような力は元々使えてたしな。フィリアから教えてもらった身体の汚れを取る魔法もすんなり覚えられたし」
「まあ、その魔法は結構、誰でも覚えられるけどね。でも、魔力操作ができるのはいいわ。そこで躓く人が多いから」
魔力なんて目に見えないもんは難しいわなー。
「でも、俺はここからなんだよなー。初心者用の魔法教本をもらったけど、さっぱりなんだよ」
夜とかは部屋でやることがないから魔法教本を読んで練習してるけど、全然覚えられる気がしない。
「教本? どんなの?」
「持ってきてないけど、アンナにもらったやつ」
「ふーん……多分、町の本屋で買ったやつでしょうね。そりゃ無理よ」
んー?
「なんで?」
「魔法は特殊技術だし、その辺の本屋で買えるようなやつはレベルが低いわよ」
マジかい。
「じゃあ、ヘイゼル師匠、初心者用の魔法を教えて」
「いいわよ」
歩きながらヘイゼルから初心者用の魔法を教わる。
町から大森林まで歩いて30分くらいの距離だろう。
火、水、風、土の四大魔法を大森林に着くまでに覚えることができた。
リヒト君はレベルが上がった!
「俺、才能があるな!」
「まあ、元々、魔力操作ができたのならこんなもんはすぐでしょ」
「ヘイゼル、言葉を選べ。俺の10日以上の時間が無駄になるだろ」
必死こいて頑張ったあの時間は何だったんだ?
「ごめん、ごめん。そういう積み重ねがあったからだと思うな、うん」
「やはり優秀な魔法使いに教わるのが一番だな」
「うんうん!」
優秀と言われたヘイゼルちゃんはとても嬉しそうだ。
「俺も杖を持つかなー」
「小さいのならあげるわよ。あんたが大きい杖を持つと、マジで邪教徒になっちゃうからやめたほうがいい」
誰が邪教徒だ。
「小さいのって?」
「これ」
ヘイゼルが手をかざすと、ヘイゼルの手に杖というか棒が出てきた。
某メガネ魔法男子が持っていそうな杖だ。
「こんなんでいいの?」
「まあ、私が持っているような杖の方がいいけど、ダウジングする時とか大きいから邪魔でしょ」
確かに邪魔だ。
ヘイゼルの杖は身長くらいあるし、それを持ちながらでは両手を使うダウジングは物理的に無理だろう。
「くれんの? お金出すよ?」
「その杖はもう使ってないやつだし、お金はいいわよ。それに杖は師匠が用意するものなの!」
師匠……良い奴。
「ありがとう。お前からすべての魔法を学び終えるちょっと前になっても捨てないからな!」
「……あっさり契約書にサインしたと思ったらそれか!」
「よっしゃ! 採取といこう!」
「ねえねえ、もう1回、契約しようよ」
ヘイゼルが涙目で俺の腕を掴んで揺らしてくる。
「んなもんなくても捨てないから安心しろ」
「……親愛なる我が弟子よ。私は良い弟子を持ったなー」
別に捨てる気はないけど、あっさり信じるなよ。
あと、どんだけ捨てられることにビビってんだよ。
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