第漆拾漆話 「あなたのふなあそび」
あなたはいつも休みになると出掛けてしまう。
私は、仕方なく家で独り過ごすことになる。
午前中に家の中を片付けると、午後は独りテレビを見たり、動画サイトを見たり、本を読んだり、昼寝をしたり、そうそう、友人がヌン活に連れて行ってくれたりした。
しかし、私はいつも独り。あなたはいつも私を置いて出掛けてしまう。
休みの度にいそいそと出掛けてしまうのだ。
何をしているのか、聞いたこともあったけど、あなたは「ふなあそび」と応えただけで、詳しくは教えてくれなかった。
浮気?
そんな下世話なことを疑ったりもしたけど、あなたはそんなことをする人じゃないと、私は信じていたから、疑ったことが、自分でも寂しく、辛かった。
ヌン活をしていた友人が、最近釣りに嵌まったらしく、どこかの湖に出掛けては、舟を借りて沖釣りに出掛けているという。私も何度か誘われて、付いていった。
たわいもないことを喋りながら、日がな一日釣り糸を垂れる。あなたの言っていた「ふなあそび」を私も楽しんでいるような気がして、釣りに出掛けるのが楽しみになった。
私は釣りに嵌まる一方で、あなたの浮気とかそんなことはどうでも良くなっていた。
いや、どうでも良くなっていたのではない。単に、忘れていただけだった。
ある日、あなたがリビングで弄るパソコンの画面を覗いてしまった。
そこには、私が見たこともない、世界が広がっていた。
あなたはイヤホンをしていたから、音は聞こえなかったけど、水上を色とりどりの舟が物凄いスピードで駆け抜けていたのだ。
あなたは、その映像に夢中になっていて、私の存在なんて忘れているようだった。
私は、その日、友人と共に私のふなあそびに出掛けることになっていたので、あなたが夢中になっているのを横目に、黙って出掛けてきた。
友人といつものように釣り糸を舟の上から垂らしていたが、心ここにあらずだった。
あなたはなぜ独りであんなに夢中になっていたのだろう。なんで私を誘ってくれなかったのだろう。なんで私には内緒だったのだろう。あなたは私よりもふなあそびに夢中になれるのだろう。
私にはいくら考えても分からなかった。
友人も、私のことを心配してくれたが、上手く言葉に出来なかった。
私は私のふなあそびをしながら、涙が溢れてきた。




