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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地を目指す  作者: ろみ
アストン王国地固め編
20/58

聖女の力の実験と検証、そして考察 4

「そこまで!」

 やっとケネスさんがミンミとラッシュを止めた。

「せっかくメンテしたのに!ボロボロじゃねえか!」

 ラッシュは自分の剣を頭上に掲げながら、うおおーと訓練場の中心で嘆いている。

 そんなラッシュを放置して、ミンミは良い笑顔で私達の所に戻ってきた。

「カノンちゃん、私の雄姿見てくれた?グイ―ドとラッシュをやっつけたわよ」

 ミンミがこちらに近づく都度、ミンミを包んでいた光の粒子が空中に溶けるように消えていく。

「おおっと?!」

 ミンミを包む光が完全に消えた時、片手で軽々と持っていた訓練用の鉄剣をミンミが取り落としそうになった。ミンミは慌てて鉄剣を両手で持つ。

「光が消えましたね。時間にして30分ほどでしょうか」

「カノンの魔法が消えて、力の底上げも切れたって所か。ミンミ、片手でその鉄剣もう1回振ってみろ」

「無理言わないでよ、私の武器は木製の短弓よ。普通ならこんなクソ重い剣なんて片手で振り回せる訳ないわよ」

 ケネスさんに言われて鉄剣を片手で持ち上げようとするも、ミンミの腕はブルブル震えていて、一瞬頭上に掲げた後に地面に取り落としてしまった。ちなみに鉄剣の重さは5キロ位。グイードが背負っている大剣はおよそ10キロ。幼女の私をグイードは片手で振り回せるという事になる。何気にグイードも凄い。

「カノンの魔法は自在に使えるという訳でもないようですね。魔法の行使はカノンの感情に大きく左右されるようです」

 ひょっとしたら、人の好き嫌いとかね。嫌いな相手には応援したいと思えないもんね。

「嬉しいなあ、カノンちゃん。応援ありがとうね」

 ミンミが緩んだ笑顔で私の頭を撫でてくる。

「魔法はカノンちゃんの気持ち次第なんだって。それじゃああんた達、カノンちゃんに許してもらえないと、いざという時に支援してもらえないかもね」

 ミンミの言葉にグイ―ドとラッシュがハッと息を飲んだ。

「あの、カノン。ごめんな。デカいカノンがちっちゃいカノンとあまりにも似てて、可愛くてつい。スマン、もう揶揄ったりしない」

「おチビ・・・、カノン。悪かったよ」

 グイードと私達の所に戻って来たラッシュが、神妙に私に謝ってくる。

 まあ、ミンミから2人は制裁を受けたからね。

 ラッシュは泣いちゃうくらいに自分のショートソードをボロボロにされ、グイードの大剣も大きく刃こぼれしてしまったそう。

「もう、わらわないでね!」

 私は眉間に思い切り皺を寄せて、グイードとラッシュに凄んで見せた。

「ふぐっ・・、おう」

「・・・わかった」

 2人は口元を覆って俯く。

 ミンミは可愛い~と眉尻を下げて私の髪の毛をかき混ぜてくる。なんかまだ笑われている気配がするんだよなあ。

「大きいカノンと小さいカノンがそっくりだからと言って、いったい何が可笑しいのですか?どちらも可愛らしいだけではないですか」

「ちょっと今の聞いた?!モテる男は、息をするかのように女性を褒めるのよ。グイ―ドとラッシュは、少しノアを見習った方が良いわ!」

 グイ―ドとラッシュは何やら両手で顔を覆ったり、頭を抱えたりしてぐおーと悶えている。

 いや、ノアは私の過保護すぎる保護者で、私贔屓も過ぎるから見習わなくていいよ。

 私はフウとため息一つつく。

「もういいよ」

「ありがとうカノン!」

「サンキューおチビ!」

 そう言って、グイードとラッシュも私の髪をかき混ぜてくる。私の黒いくせっ毛はかき混ぜられて鳥の巣のようになる。本当に反省してる?

 もしまたムカついたときは、もう1回ミンミにお仕置してもらおう。

「さて、カノンの魔法の効果は実証できたな。あとは、魔法の行使と幼児化の因果関係も確認できたか」

「そうですね。魔法の行使と共に幼児化。それからさらに力を行使すると、ある時点で意識を消失するのだと思います。それと、寝込んだ後魔法の行使をしないでいるとだいたい4日、寝込んだ期間を入れればだいたい7日で大人のカノンに今の所戻っています」

「カノンが意識を消失する前の眩暈と体調不良は魔力の枯渇のような気もするんだがなあ。俺は魔法に詳しくない無いから良く分からん」

 ノアとケネスさんの2人で私の力と幼児退行についての検証と考察が重ねられていく。

 エスティナには魔術士が殆どいないという話だ。エスティナは魔獣の被害をここ数十年筋肉だけで防いできた、戦闘民族の町といっても過言ではないのだとか。

「魔力の枯渇で意識を失うのでしょうか。カノンが幼児退行を起こす時には、魔力がかなり目減りしているという事なのか・・・」

 ノアとケネスさんの考察が白熱している隣を、ギルドの職員が麻袋を背中に背負って通り過ぎる。その麻袋は職員の背中で形を変える位にウゴウゴと動いている。

「あ、もや」

「なに?」

 そしてその麻袋は、袋全体が黒いもやに覆われていた。

「おーい、ちょっとこっち来い」

 私がギルド職員を指さすと、ケネスさんがその職員をこちらに呼び寄せた。

 職員が背中に背負った麻袋の中身は、私達の目の前で動きを更に激しくする。

「魔獣か?」

「これは解体に出すピーカ3匹です。3匹とも気絶していたのですが、目が覚めたようですね」

 ピーカが何だか分からないけど、麻袋の中からはギッギッと数匹の獣の鳴き声がずっと聞こえる。

 獣のもやもやも、人と同じように払えるのだろうか。そして、払ったら獣には何か変化があるのだろうか。

「もや、ぴーかのふくろがまっくろ」

「・・・そうか。カノンは、魔獣のもやも払えるのか?」

 うーん、どうだろう。とびかかろうとしたネズミには来るな!って叫んだだけだったけど。森に帰っていったんだよね

 ノアの顔を見ると、少し眉間に皺が寄っている。

「もうカノンは魔力が枯渇間際かもしれません。これ以上魔法を使わせては、また意識を失う恐れがあります」

 ノアの心配はもっとも。でも冒険者じゃない私は生きている魔獣に接する機会は少ないんじゃないかな。今は魔獣のもやを払ったら何が起こるかの、絶好の検証チャンスじゃない?

「のあ、わたち、ぴーかのもや、はらってみる!しょーっとやるからね?しゅこちじゅちゅやるから!きじぇちゅちないように、きをちゅけるからあ!」

「ふっ、うっ・・、カノンちゃんが可愛すぎて胸が苦しい」

「めっちゃ喋るじゃん」

 グイード達が震える傍で、私はノアの説得を試みた。物凄く頑張って喋った。

「・・・・もしまた気絶したら、今後小さいカノンの魔法の使用を禁止しますよ?」

「わかった!」

 私がノアの言いつけに大きく頷くも、ノアはジッと私を見つめてくる。

 いや、ほんとに。幼児化している時は今後気を付けるから。

 ・・・でも、緊急事態の時はしょうがないよね。この世界は生死が隣り合わせの緊張感あふれる世界線だからなあ。

「約束ですよ」

「・・・うん」

 ノアはまだ私の顔をジッと見つめてくる。

 これはジーンさんの時の暴走が尾を引いてる。

 私、黒いスライムに夢中になってノアの声が聞こえなくなってたからな。ノアの言う事を無視した前科があるので、今日の所は本当にそっとお試しするだけにする。夢中にならないように気を付ける。

「よし、とりあえず魔法の効果の一つは実験出来た。あとはカノンの無理のない範囲で試しにピーカの黒いもやを払ってみてくれ。無理ならすぐやめろよ」

「はーい」

 どうにかノアのお許しが出たので、地面に置かれたピーカが入った麻袋に、私はノアに抱っこされたまま近づく。

 麻袋に入れられたピーカの動きがかなり激しくなっている。ピーカの動きに合わせて黒いもやもフワフワと濃淡を変えて動いている。

 ネズミには直接触れなかったんだよね。

「もやもやなくなれー」

 ノアに抱っこされたまま、地面に置かれた麻袋に手を翳してみる。

「・・・どうですか?」

 うん。効果なし。

 ネズミの時は叫んでたもんね。

「もやもやきえろ!」

 ちょっと声を大きくする。

 すると風に吹かれたように、黒いもやがフワッと麻袋から離れた。離れたもやは宙に溶けて消えたけど、またジワーッと麻袋を黒いもやが覆う。

「ちょっときえた」

「カノン。声は小さく」

 ノアの注意が適宜入る。

 わかってます。

 落ち着いて、落ち着いて。

「ふくろ、しゃわってみる」 

 ケネスさんとギルド職員が、麻袋が動かないように四隅をそれぞれ踏んでくれた。

 ノアは私を麻袋の傍にそっと置く。

 パフスリーブの袖から手を出して、私は動きを封じられた麻袋を触る。

 麻袋の中ではギイギイとピーカが激しく鳴いている。

 ピーカがどんな獣なのか分からないけど、黒いもやが悪さをしているんじゃないだろうか。

「よーし、よーし」

 麻袋の中で動いている30センチくらいの塊の1つに手を触れて、もやが無くなる様に祈りながら撫でる。私に撫でられた塊の動きが鈍くなった。手を伸ばして残りの2つの塊にも手を伸ばして撫でる。

 ギイギイと騒いでいたピーカが段々と大人しくなる。

 黒いもや、無くなれ。無くなれ。

 すっかり大人しくなったピーカ達をしばらく撫で続けると、黒いもやは思った以上に早く消えて無くなってしまった。

「きえちゃった」

 ノアは私を再び抱き上げて、麻袋から離れた。

「なんか、大人しくなっちゃったわね」

「どうなった」

 私とノアが見守る中、麻袋の中からすっかり大人しくなったピーカが取り出された。ピーカは茶色い毛皮の四つ足の獣で、耳は丸く、鼻は短い。そしてその短い鼻の周りは真っ黒で、黒目がちのつぶらな瞳を持っていた。メチャクチャ可愛い。

「おっ、大人しい方のピーカになりました」

 ギルドの職員がピーカの首根っこを掴んで腕に抱きなおす。ピーカは大人しく職員の腕に収まり、キュイキュイと可愛く鼻を鳴らしていた。

 大人しい方?

 首を傾げる私にケネスさんがピーカの説明をしてくれる。

「ピーカは魔獣というより、大森林に昔から生息する野生動物のくくりなんだが、狂暴な物と大人しい物が居てな。大人しい物は駆け出し冒険者の良い小遣い稼ぎになるんだが、今回のピーカは狂暴な物をベテラン冒険者が間引くために捕獲したんだな」

 獣には魔力が高く体内に魔石を持つ魔獣と、魔力がほぼ無い単なる野生動物の2種類が居るという事だった。ただ、魔獣、野生動物に関わらず、異様に凶暴な個体が中には居て、その凶暴な個体を間引く事もエスティナの冒険者ギルドの大きな役割となっている。しっかり間引いておかないと、森林の中を通る街道で旅人が獣に襲われる被害が出るらしい。大熊の討伐もその一環だったんだそう。

 普通の個体は魔獣も野生動物も森の中では人を避けるそうなのだ。しかし凶暴な個体は、魔獣だろうが野生動物だろうが人に襲い掛かって来る。このピーカ達も冒険者に襲い掛かって返り討ちにされた3匹だった。

 ケネスさんは麻袋から残り2匹のピーカを纏めて引きずり出すと、自分の腕で抱えた。こちらの2匹のピーカもケネスさんの腕の中で大人しくしている。可愛い。

「狂暴な獣の黒いもやを払うと、大人しくなるのでしょうか?」

 ノアの言葉にケネスさんも職員も、グイード達も黙り込む。

「・・・まあ、獣と黒いもやに関してはこれ以上検証しようがない。今日はこれで解散だ」

 ケネスさんの一声で本日はお開きとなった。

「カノンちゃん、ほーら、これがピーカよ。可愛いね~」

「かわいい~」

 ミンミが胸に抱いて連れて来た1匹を撫でさせてもらう。

 元居た世界でいえば、ウォンバットが一回り小さくなった感じで毛皮ももこもこ。何より温厚でとっても大人しい。

「ピーカは可愛いし、お肉はとっても柔らかくて美味しいのよ。熟成させなくてもすぐ食べられるから、これ今夜のおかずに貰っていきましょうよ」

「・・・・ぴーかは、おいちい」

「あと3匹の毛皮を合わせたら、小さいカノンちゃんの毛皮のベストが作れるかも。毛皮のベストは暖かいし動きやすいし、エスティナの冬なら厚手の服の上に毛皮のベスト1つで防寒は十分よ!」

「しょうなんだー・・・」

 そうだよね。

 可愛いから殺すななんて言うつもりはない。今まで散々、色んなお肉を食べて来たんだし。

 その日、ピーカ3匹をケネスさんから貰って宿に戻った私達は、テリーさんにそのピーカを美味しい香草焼きにしてもらった。

「おいちいー!」

「いっぱい食べろよ、おチビ」

「カノンちゃん、良かったわね~」

 皮目をパリパリに焼いてもらった肉汁溢れるピーカは、物凄く美味しかったのだった。


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