テンミニッツ
ボクたちは自転車と共に八式特殊輸送車に乗り込んだ。三トントラックほどの荷台とキャビンはボクたち六人が乗るには十分な広さだった。乗り後心地も快適でとても六本の足で移動しているとはとても思えなかった。
「先輩、通信機があるって言ってましたよね。家族に連絡取れませんか」
「本部と各基地にしか通信機はないの作戦遂行用でひなたが考えているようにお家には連絡できないわよ」
家族に元気にしていることを伝えて安心してもらおうと思っていたのに
「心配しなくても伝言を頼んであるからあなたたちの安否はご家族に伝わっているわよ安心して」
リサ先輩の配慮には感謝しかないほんとよく私たちのこと考えていてくれている。
「この通信機はどういう仕掛けで連絡が取れているんですか。電子機器は全部使えないんでしょ」
ヤジロウは素朴な疑問を口にした。
「これは異世界のテクノロジーが使われているの魔石という魔力を秘めた鉱物を使って動いているわけ、佐藤も言っていたけど魔法力を持っている人にしか使えないのが難点なんだけど、アオイやアカネは使えると思うわ。そのマイクについているグリップを握ってごらんなさい」
アオイが試しにマイクを握ると通信機のメータが振り切れた。アカネも同じであった。
「やっぱりあなたたちはすごわね。メーターが振り切れるなんてその半分くらいで通常の通信はできるのに」
「この特殊車両の下部には車輪がついているんですけど鉄道としても使えるってことですか」
ヤジロウは少し鉄道おたくでもあった。僕らを撮っているのかと思えば気が付くと鉄道の写真を撮っていた。
「そうよ。列車のレールを使って移動もできる仕様になっているからでも速度は40キロ程度、六本の足を使った速度と変わりはないのよ」
「詳しいですね先輩は」
「こんな時のために試作機で講習を受けていたの」
やはり国は地震が起きることを前提にした訓練をしていたんだと改めて納得をした。
「箱根湯本駅よ。ヤジロウ君、いよいよ五区よ。ここでお昼にするそれとも芦ノ湖にする」
「もちろん芦ノ湖で、みんないいよね我慢できるよね」
「いいよリーダーに従うよ。うんちくはいいの小田原宿の」
ヤジロウはすっかり駅伝に夢中になっていた。ハッチを開けて身を乗り出してコースを飽きもせずに見ていた。ボクも風に当たりたくて外に出てヤジロウと一緒に山登りのコースを楽しんでいた。
「ヤジロウは箱根駅伝に出場したいの」
「もちろんだよ。そのために大学を目指すんだ。ひなたは進路どう考えている」
「突然そんなことを聞かれても何も考えてないよ・・・」
「どんな夢を願えようとかどんな仕事がしたいとかさ、それもないの」
ボクは困ってしまった。将来のことなんて一度も考えたことがなかった毎日学校へ行っていればそれでいいと思っていたし楽しかった。そのうち何かあるのかなと漠然と思っていただけなのにヤジロウはボクが思っている以上にいろいろと考えているんだとうらやましく思えた。
「この旅が終わったら答えを出すよ。ヤジロウそれまで待ってて約束するよ」
ボクは自分に課題を課してしまった。
曲がりくねった道を八式はどんどん登り、下っていく先に湖が見えてきた。
「折り返しゴールだ」
ヤジロウは両手を上げてフィニッシュポーズを取った。が八式は止まらず進んでいく。
「リサ先輩、どこに向かっているんです」
ハッチの中の先輩に尋ねた。
「私の目的地、宝蔵院工業の研究所よ」
宝蔵院?どこかで聞いた覚えがあるのだが
「アオイ、アカネ~宝蔵院てなんだったけ」
「なにいってんだ!テンミニッツのことだろ」
「そうか!フー師匠のお家のおじさんだ」
「10分?どういう人」
リサ先輩が聞いてきた。
「10分あれば何でも答えてくれるお城のおじさん」




