八式特殊輸送車ー箱根へ
お寺を出て十数キロ走ると上り坂が始まったのだった。
「またすごい上り坂、ヤジロウさっきのが権太坂じゃないのお~」
一つさかを越えた後また登りになっていた。ボクは立ち漕ぎしながら前で競争しているアカネとヤジロウに聞いてみたが勝負に夢中だ。ボクはバイクで走るリサ先輩をうらやましく見ていた。
「がんばれ、がんばれ、あと少しで頂上よ」
駅伝のように応援をしてくれているが自転車で走る身になってほしいよ。前を見ると道が途切れている。あれが頂上?こうなったら一番を取りたくなるのがボクの性分だ。心のギアを上げて走った。みるみる前を走る二人との差が縮まっていく、いけると思った瞬間、後ろから大神がごぼう抜きしていった。とたんギアが抜けた。アオイにも抜かれビリになってしまった。
ボクたちはみんな仰向けに寝転がっていたがただ一人大神だけが何もなかったような顔で水を飲んでいた。
「輝也が一番だから手に入ったらアカネと僕で焼きそばパン御馳走だ」
「大神はずるいよ。疲れたところを抜くなんて」
「それも駆け引きだよ。二区の見どころさ。でも輝也すごいな」
「これを下れば戸塚よ。休憩はそのくらい行くわよ」
無情な先輩の一言に気持ちを奮い起こして自転車にまたがった。
戸塚でボクたちは朝二人が握ったおにぎりで燃料補給をした。リサ先輩もあちこちに泊っている車からガソリンを抜き取ってバイクの燃料補給をしていた。
ヤジロウはすっかり東海道うんちくを忘れ平塚へと進路を取り出した。
道路は動けなくなった車で一杯だが前方から何かがやってくるのが見えてボクたちは自転車を止めた。
「リサ先輩、あれは何ですか。もしかしてまた別の異界獣!?」
徐々にその姿がはっきりしてくると六本の足で昆虫のように移動する物体だった。
「心配いらないわ、あれは冨士駐屯地から来た自衛隊車輛よ」
「自動車は動かないじゃないですか。あれもキャブなんとかで動くものですか」
「こんな事態用に密かに開発された特殊車両であの六本足で昆虫のように移動できる。八式特殊輸送車と言うものよ」
こんな事態って自衛隊もこうなることを知ってたわけ、どうして大々的に国民に知らせなかったんだろう。
「おかしいわよ。何かから逃げているよに見えるけど」
アオイが言っていると八式特殊輸送車の後ろからバカでかいカブトムシが追いかけてきていた。
「ベアビートルだ。みんなは隠れるんだ」
大神がまたその異界獣に向かって走って行く
「ボクも行くよ」
鉄貫があればあんな奴とだって戦えると直感で思った。大神の隣に並ぶと
「ノウマク サンマンダ・・・・?ねえねえ、もう一度の真言教えて」
残念ながらボクはまだ覚えきれていなかった。大神が代わりに唱えて神具を装着した。
八式特殊輸送車を追い抜くとベアビートルとかいう異界獣の前に躍り出た。近くでよく見ると四本足の獣の上に鎧のようにカブトムシが載っていた。
大神はいつの間にかガードレールを握っていた。前回同様大上段で異界獣の頭部を殴りつけたが外甲羅にはじき返さガードレールは弾き飛んでしまった。
「君は引き返せ」
「見ときなよ大神、ひなた様の強さを」
ボクは前転しながらベアビートルに突っ込んでいった。鋭い爪がアッパーカットを放つが上空へ大きく飛び背後に回り込んだ。
腰を深く沈め右手を後ろに引き
「虎吠振動拳!!」
背中に正拳をぶち込んだ。異界獣が吠えたように聞こえ振り向きボクに殴りかかろうとした。大神が飛び込み僕を抱きかかえ後ろに下がった。
「大神、終わってるよ」
異界獣が仰向けに倒れ口から体液を流していた。
「無茶をするんじゃない、それにしてもその技は」
「衝撃波を打ち込んだんだよ。硬いやつと戦う時は使えってフー師匠から習ったんだ」
「ひなたやったね。今度は私たちもやってやるから」
アカネが倒れている異界獣を蹴ってそう言った。
「怪我していない。でもやっぱり強いねぇひなた、絆創膏いる」
ヤジロウが心配してバックから絆創膏を出して渡してきた。興奮してみていなかったが足を少しすりむいていた。サンキュウヤジロウ。




