4/21 ☆うまいお茶
棚の整頓をすることにした。
リビングの端っこにやや消極的に置かれている、私専用の小さなチェストである。
……やけにモノの多い我が家。
ほぼ、私以外の住民の功績によってその状態は保たれている。
旦那の出しっぱなしの工具に脱ぎっぱなしの服、食べかけのお菓子に未開封のペットボトルの箱、娘のぬいぐるみに届きっ放しになっているアニメグッズの箱、息子のボードゲームに作りかけのオブジェの面々…詳しく思い出すと怒りが湧いてくるので…この辺で意識をぼやかすか!!!
とにもかくにも、この取っ散らかっている家には、私個人のものなど…このチェストとクローゼット1間に納まる分しかないのである!!
・・・が。
あまり物を溜め込まないタイプだというのに、しっかりカオス化しちゃうんだよね、引き出しの中ってやつはさ、残念ながら。
チェスト上部には普段使いのコンタクトとティッシュが置かれており、二段目の棚には書類がわさわさ並び、引き出しになっている三段目には雑品が入っている。
この三段目の引き出しが…、非常に厄介なのだ。
わりと、いやかなり大雑把な私は、小物をとりあえず引き出しに入れて満足してしまうという習性がございましてね。
月イチでもらえる薬屋のクーポンだの、すし屋で当たったガチャガチャの景品だの、ハンバーガーについてたおもちゃだの、息子の作った折り紙だの取れちゃったキーホルダーのぬいぐるみだの一回しか使ってない爪磨きだの片方なくしたワイヤレスイヤホンだの片方しかない靴下だのキャッチがなくなったピアスだの作りかけのリリヤンだのなんか変な形の石だのなにがはいってるかわからないCD-Rだのどっかの部品だの面白かった新聞記事だの歯医者でもらった石膏だのぞろ目のレシートだの…!!!
なんていうかさ、引き出しにしまい込んだら、一瞬でごちゃごちゃしたものって片付くじゃん!
だってさ、引き出しに入れちゃえばとりあえず部屋の中奇麗になるじゃん!
机の上に放り出すくらいなら、引き出しの中に放り込んじゃうのだ、私ってやつは。
いよいよ引き出しが閉まらなくなってきたので、仕事もないことだし、本気でゴミを捨てる覚悟を決めたというわけである。
思い立ったが吉日、今やれすぐやれさあ捨てるぞ!!…というわけで、ゴミ袋を片手に中身をチェックチェック…。
「あ、何これ!!」
引き出しをズボっと抜いて、ふこふこのラグの上に置いたら、棚の奥の方に何やら袋が落ちていることに気が付いた。
いつも閉じている場所に大穴が開いて、大喜びで突撃する猫どもをつまみ上げてどかし、手を伸ばして…よし、取れた。
「お茶じゃん…いつのだろ」
手のひらサイズの、袋入りの…紅茶かな?
裏側の賞味期限を見ると…げえ!
四
もう一週間以上過ぎてるじゃん!お茶の賞味期限なんて一年二年くらいは普通あるはず…、このお茶はいったい何時からここにいたというのか。
…前にこの棚を整頓したのは相当昔という事なのか。そういえばリリヤンは息子が低学年の時に夏休みの宿題で使った残りだったな、…ちょっと待て、もう二年も前?!
…このところの年月が過ぎ去る速度ときたら、もう。
年単位で過ぎ去る、時間の猛スピードに愕然とする。
この調子ではあっという間に…灰だ!!!
毎日毎時間、やりたいことはさっさとやってゆかねば…いろいろと…詰む!!!
いずれやろう、そのうちやろうと思っていたらダメなのだ!
今やる、すぐやる、さっさとやる!!!
よし、目標が今できたぞ、物事は躊躇せずにすぐやる!!!
あとで書道で書いておこ!!!
墨から擦って精神統一を兼ねて一筆書いておけば、恐らく目指さねばならないものとして私の脳髄に刻み込まれるはず!!
私は手早く引き出しの中身を選別し、使うものを残し、不用品をザバザバとゴミ袋に投入し、引き出しをチェストに戻し、ラグに掃除機をかけ!!コロコロで細かいホコリを取って、ついでに猫にもコロコロをお見舞いしー!
「ふう…やっと終わった、お茶でも飲むか」
ひと息ついたので、先ほど発掘した、ちょっと賞味期限の切れたお茶を飲むことにする。
昔はかびた駄菓子相当食べてたくらいなんだもん、たかだか干からびてるおちゃっぱなんざ少々の賞味期限切れなんて屁でもない!!!
封を開け、お茶パックを一つ取り出す。
…ん、なんかめっちゃいいにおいが、する。
カップにティーバッグを入れて、お湯を注ぐと…実に香しい、とにかくお上品な、お洒落すぎる紅茶臭…臭?!そんな漢字を使って表現してはならん!これは、これは極上のフレグランス…まさにパルファン!!!
ふんふんふん!!
スンスンスン!!
クンカクンカ…!!!
あまりの芳香に、我を忘れて香りの恵みに興じる私!!!
陶酔する私!!
魅了される私―!!!
恐る恐る、香りの源となる熱いゆらぎを…口元、へ。
…唇に伝わる、熱。
…香りを纏った、湯気。
薄く開いた、唇の隙間から、熱い、波を…そっと、注ぐ。
口の中に広がるのは、ソウル・オブ・ティー!!!!
お茶のお茶たる、お茶ゆえの、お茶としての、お茶という…お茶、お茶、お茶、お茶ああアアアアアアア!!!
ご、ごくり…。
一口、含んだ後…その芳醇極まりない香りを、この身に取り入れることができた、この瞬間に…深く、深く感謝し…ありがたく、飲み込ませて、いただく。
ああ、今。
私の体内を。
お茶という恵みが…通りぬけた…。
―――あたし、おいしいでしょ!!
ああ、見えた、見えたよ…!!!
少しはにかみながら、こちらをふり返って、大きな瞳をクシュっと瞑って、自慢げに手を後ろに組んでる、さわやか女子が!!!!!
「何これ!!!めっちゃうまい!!うますぎる!!!うーんぐびぐび!!!」
一体いつだれにどういうシチュエーションでもらったんだ、このお茶は!!!
全然記憶にないけど、こんな美味いもんがあるなら、どうしてもっと早く飲まなかった、飲めなかった、何やってんだ私~!!!
賞味期限切れでここまでおいしいならば、もらいたてだったらさぞかし妖艶で絡みつくような束縛感あふれる悩殺女子が現れたのではあるまいか……!!
うはあ!!
しくったああアアアアアアアアアア!!!
盛大に後悔しつつも、豪快にお茶を飲み干した、私、私イイイイイイイイイイ!!!
はあ…大変、美味しい、お茶でございました…。
お茶パックは…あと四つ。
ふふ…あと、四回、楽しめる…。
ふふ…ぐふふ…。
うまいお茶で胃袋を満たし、怪しげな妄想で脳みそをパンパンにした私はですね。
このあと、墨汁の入った硯を猫にひっくり返されてですね。
その掃除やらなんやらでてんてこ舞いになってしまう事をですね。
微塵も知らなかったって、話ですよ…。




