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第 5 話  旅立ち

 あれから一週間がすぎた。


 俺たちはすぐさま城下町を出発した。出だしからやむを得ず盗賊退治などをして手間取ったが、攻略スピードはかなりのものだ。その後も住民全員が死んだように眠る町を通りかかったが、目の下に虫刺されの薬を塗ってやると、号泣しながら全員が目を覚ましたりと、スピード解決を心がけながら先へ先へと進んでいった。


 それからさらに時が経ち……。


 奴隷たちのレベルもみるみる上がり、奴隷戦士クルル、奴隷武道家ミケ、奴隷僧侶マリア、いまだに立ち位置がわからないうえ、バールのようなもので奮闘している俺といった謎パーティーで順調に実家から離れている。そしてとうとう船も手に入れた。


 それなのに……今日も宿屋に母からの手紙が届けられていた。


 もうオーブとやらを集めて世界の果てにまで逃げるしかないかと、俺が頭をかかえていると最近露骨に誘惑してくる奴隷たちが帰省をすすめてきた。


 やだよ、絶対!


「ですがカオス様、このままいくと魔王を倒して裏の世界に行って二度と帰ってこれなくなるような気がします。それに……」


 妙に具体的な予想をしたかと思ったら、急に下腹部をさすり出すマリア。やめてその意味深な動作。責任を感じちゃうから……。


「ミケも最近酸っぱいものがおいしいニャ~」

「オカアサマにもアイサツをしておきたいです」


 出会った当初の口数の少なさなどどこへやら。ニャ~ニャ~と思ったことをすぐ口に出すようになったミケと、いつの間にか饒舌になったクルル。本人曰く「ベッドの上でおぼえた」とのこと。


 男女で旅をしているのだから色々とあるのだ。そう……色々と……。


 奴隷たちを紹介するのはともかく、このまま勇者のような道を進むことへの抵抗はひしひしと感じていた。それに手紙がどこまでも追ってくる日々にもいい加減疲れを感じている。こうなったら覚悟を決めて母に会って謝罪した方が楽になれるような気がしてきた。

 奴隷たちの思惑どおりのような気がしなくもないが、うじうじと悩んでいることにもうんざりしていたので、俺は母と対峙することを決意して帰省することにした。


 行きは大変だったが帰りは早い。なんせ道具屋で売っている魔法の羽一枚で帰れるのだ。俺は奴隷たちと共にアリアサンの城下町にひとっ飛びで帰ってきた。


「かわらないな……」


 風景はちっともかわっていなかった。建物は色あせることなく人々も同じような場所で、同じように歩き回っている。住んでいたときにも違和感を感じていたが、改めて外から眺めていても異様な光景だった。しかしいまはそんなことどうでもいい。俺は奴隷たちをつれて実家へと戻った。


「ただいま!」


 返事がない。二階のじーちゃんの部屋をたずねてみると――。


 棺が置いてあり、じーちゃんの遺影が飾ってあった。


 じーちゃん……ごめん。


 俺は反省してじーちゃんの遺影に手を合わせた。奴隷たちもそれにならう。棺があるところをみるとたぶん生き返らせることができると思うのだが、泣いている奴隷たちに今更告げることができず、なんとなく気まずい気分で部屋を出た。


 母の所在がわからないのでとりあえず町の中を見て回る。途中からパラパラと雨がふってきた。本格的に降り出す前に帰りたいのだが、未だに母の姿をみつけられずにとうとう城にまで来てしまった。すると……。


 城の堀の跳ね橋にたたずむ女性をみつける。傘もささずに雨に濡れて微動だにせず無言で誰かを待ち続けるその姿は俺のよく知る女性だった……。


 怖い……。


 まさか家出したその日からずっと待ち続けていたのだろうか?


 当てつけのように待っていた女性の正体は……母だった。


 逃げだそうかと思ったが、感動の再会だと勘違いした奴隷たちに背中を押される。俺はしぶしぶ母の前に立った。


 雨の滴がほうれい線にそって流れ落ちる。母の顔は家出した頃よりも老けてみた。さすがに反省する。


「母さん……その、ごめん……」

「カオス……どうしたの? 早く王様に会っていらっしゃい」


 開口一番それですか?

 何気ない口ぶりであの日と同じ言葉を口にする母の自然すぎる態度に俺も奴隷たちも戦慄した。


 もはや逆らうこともできず、母に言われるままお城の扉を潜る。てっきり場内の兵士に追い返されると思っていたのだが、とくに何も言われなかった。誰か止めてくれればいいのに警備はザルで、謁見の間まで辿り着いてしまった。


 この国で一番えらい人が椅子からずり落ちそうなほどだらしない姿で座っていた。この国の未来に不安を抱いていた俺と目があう。すると……。


「うおおおおおおおおおおおおッッッッッッッッッッ!!!!!!」


 高貴な血筋とは思えないほど野蛮な叫び声をあげて、俺めがけて突進してきたかと思うと拳を振りあげて殴りかかってきた。


 しかしあっさりかわすと無様に転ぶ。それでも立ち上がり再び拳を振りあげた。なんとなく哀れになりその拳を受けてやる。しかし案の定……レベル差からくる肉体の強度は王様の拳よりも俺の頬の方に軍配があがり、拳を痛めた王様が腕をかかえた。


 それから王様の罵詈雑言を聞き殴られた理由が判明する。どうも本当に王様は俺のことを待っていたらしい。旅立ちの挨拶にこない俺のことを心配していたら、他国で活躍していることをしりその感情は憎しみへと変わったようだ。


 王様も助走つけて殴るレベルの裏切りだったらしい。しかたがないので王様をなだめて仕切り直してもらう。


「よくぞ来た! 勇敢なるサタンの息子、カオスよ!」


 初めて知った父の名だが……大概だな。


 かくかくしかじかと説明されて、父が魔王に挑み破れ、その果たせなかった目的を俺に告がせるために呼び出したのだとか。そうならそうと早く言ってくれ。

 とはいえたった一人の中年に世界の命運を託すとはどんだけ人材のない国なのだろう。というか他国と協力して軍隊を編成するなりもっとやる気をだしてほしい。16歳の子供に頼むとかどんだけ他力本願なのか……。おまけに旅の餞別としてくれたのが50Gと角材二本とかケチすぎだろう。本当に世界を救ってほしいのかと疑いたくなる。


 かくして俺は身勝手な王様の願いを聞き流して母が満足したのを確認すると、教会で生き返らせたじーちゃんに別れを告げて再び家を出た。


「カオス様はやはり勇者様だったのですね」

「王様に期待されるなんてすごいニャ~」

「オトウサマもゴリッパなカタだったのですね。ホコらしいです」


 奴隷たちは相変わらず俺をアゲアゲしてハードルをあげてくれる。なのでこのままいけば本当に魔王を倒すことになりそうだ。


 こんなつもりで家出をしたわけではないのだが、三人の嫁さんにアゲられてまんざらでもない俺は、調子にのって世界を救ってみようかなんて思ってみたりした。


 これにて完結です。短い物語でしたがお付き合い頂きありがとうございました。

 他にも連載中の作品がありますので、よろしければご覧下さい。

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