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十一:ジャンジャックと国王。

 女の子がジュリオやリシューと親睦を深めている間、ジャンは父親のアルと共に王城へ都城していた。

理由は言わずもがな、八つ星以上の実力があると見える女の子の存在を世界に向けるためだ。


 なぜ此処まで八つ星を危険視するのか。それは過去の八つ星の者達の常識を逸した強さが原因だ。魔法を極めた者は天候や災害を自由に操り周りに恐怖と平和を与えた。食を極めた者はただ食べる為だけに国を滅ぼした事もある。騎士は敬愛する王に仕えて大陸制覇をたった一人でやり遂げた。


 ようは人には行けぬ場所に居るのだ。その上更に世界の加護があるなんて悪夢以外の何物でも無い。何故なら世界の加護を受けた者はこの世界にあるあらゆるモノから守られるからだ。

例え海に落ちても溺れる事は無く、水中にある酸素が勝手に頭を包み呼吸が出来る状態にされる。飛びたいなぁと思えばマナを活用された風が吹きその場で空中散歩が出来るだろう。

それどころかこの土地を浮かせたい等と思ったら世界はそれを実行するのだ。


 今のところ女の子に感情はあれど知識が無いのでその様な事態に陥る事は無いが、人間社会で夢を見つけてしまえば世界は全力でそれを応援するだろう。

そしてそれは世界のどこに影響が出るのか解らないのだ。

故に各国は、世界の加護を受けた者、または五つ星以上の者が現れた場合、どんな土地でもある程度の優遇を受けられるように発表する。

五つ星六つ星はまだ人間っぽい所があるだろうで済むが、七つ星は人外。八つ星は災害だ。


「ジャンジャック様、アールデリッヒ様。此方へ」


 つらつらと考え事をしていたら、謁見の時間が来たらしく扉の前に立つ近衛兵が観音開きに戸を開けた。


「ジャンジャック・オルド・シークウェス殿ならびにアールデリッヒ・ル・オット・シークウェス殿が参着いたしました」


 王に届くように到着の旨が伝えられると、ジャンとアルは堂々と謁見の間の真ん中を歩き王の前で膝をついた。

ジャンは五つ星の冒険者で国に着いている訳ではないので、敵意が無い事を示すために指を組み顔の前まで上げた。


「顔を上げる事を許可する」


 王が一声掛けるとジャンは手を下げてから二人同時に顔を上げる。


「此度の謁見の目的は聞いておる。世界の加護を持つ者が現れたそうじゃな?」


「はっ、現在は我がシークウェス家で保護しております」


 いささか緊張した面持ちでアルは声を上げた。侯爵家前当主とは云え、基本的に事を伝えるのは公爵家の人間に向けてだ。王族に声を掛けることなど片手に数えるほどしか無い。

 世界の加護と云う単語にその場に居る者、特に近衛兵は顔を引き締めた。荒事を好むような人物であったならまず叶わないが王を守らねばならないからだ。


「して、その者はどのような御仁じゃ」


 例え帝王学を学び下の者に敬語を使う事の無い王とて例外は無い。八つ星以上に珍しい世界の加護を持つ者は、すなわち世界の頂点に立っているのと同じ意味だからだ。そこに国や平民貴族王族の差は無い。

 しかし世界の加護を受ける事の出来る者は例外無く老人だった。天寿を全うする数年前に漸くその頂きに立てる。それが皆の常識だ。

その点が今回の異例を際立たせる要因になっている。


「はっ、その方に関しては最初に保護した息子に弁を立たせて頂きたく」

「許可する」


 そこでジャンは冒険者としての立ち位置を示すために立膝をやめ、堂々と立ち上がり王に目を向けた。


「最初に一言申し上げたくば、今回保護した世界の加護を持つ者は子供です」


 子供、と云った瞬間に周囲が思わずと云った様子でざわめいた。

無理も無い事だ……。とジャンは軽く首を振り、混乱が収まるのを待った。


「続けろ」

「ありがたく。後ほど証拠としてメモリージュをお渡ししますが、その子供にあったのは我らがテオラロールの誇る洞窟型ダンジョンの下層域に御座います。子供は人の言葉を理解しておらず、膨大な魔力を持って私とレイラインを繋ぎコミュニケーションをとっております。

見たことも無い術を使い私の体を癒した事や、その後の様子を見る限りダンジョンで育った事がうかがえます。また、教養教育の為に絵を描かせてみた所エンペラーホッグを召喚する紋章を描き入れたことから、紋章組合に登録させれば八つ星は確実かと見受けます」


 そこまで云い切り一息ついたジャンは周りの様子を見回した。

ありえない事が連続で起こる事はここ数日でかなり慣れたが、周りの衝撃を見るに自分は真っ当だなぁとさしあたり無い感想を覚えた。


「詳しくは纏めた報告書を読んでいただきたく存じます」

「その御仁は城に呼ぶべきか?」


 もし城や王都に何かがあったら困るどころではないが、それでも最上級の持て成しをして機嫌を取らねばならない場合、王とは率先垂範する立場だ。

それによって周りに多大なる疲労や苦労を掛ける事になるが、国を守るために立たねばならぬ立場にある王は総てを考慮した上でジャンに問いかけた。


「あまり勧められません。常識が全く無く、今は我が姉が言葉を教えている段階です。王勢の人に驚いて攻撃、なんて事も考えられますので、時間を置くか少数で場所を移し会見した方がよろしいかと」


 ジャンの言葉を聞き、王は軽くうなずいて手を叩いた。


「大凡の報告しかと受けた。これにて解散とする。冒険者ジャンジャック及びシークウェス家に褒美を取らせ、今後の会見に役立つよう動いてもらいたい」

「はっ、有り難きお言葉」


 手を叩いて周りに合図を送った瞬間に謁見の間に居る人は一斉に仕事を始めた。それと同時に今まで膝をついていたアルもジャンと同じように立ち上がり王に目を向ける。


「細かい事を聞くために幾度か使者を送ろう。宰相は会談場所及び必要な人員確保を命ずる。文官長は世界各国に向けて大凡八つ星と思われる世界の加護を受けた子供が現れたと大至急書簡を出せ!」


 目線を受けて頷いた宰相と文官長だと思われる男達は礼をした後に颯爽と謁見の間を出た。それを見届けてジャンとアルにもう一度労りの言葉を掛けて、一息ついた。

総ての言葉を聞き届けた二人は最上の礼をして謁見の間から退場した。


 後は舞台が整うのを待つばかりである。

 




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