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九:まおうさまの母親。

 娼館に勤めている男は、齢七十当たりのジジイが来た時に首をかしげていた。

ここは自国や他国の大貴族等を持て成すために作られた、国一番の春売り場だ。最も堂々と娼館と謳い文句を掲げると客の方が困るため、女芸屋敷とされている。

その中でも指名度が高い順番の三人は娼姫と云われ、終りに爵位の冠と云う意味のフォンフィールを付けた家名を持つ事が許される。コレは体を売るだけで士爵よりも稼げるからだと言われている。


「侯爵家シークウェスの者です。此度は二の娼姫にお会いしたく参りました」


 窓口に来たジジイはそんな娼姫の一人、アイリッシュ・リオルフォンフィールと面会したいと言う。

本来ならば話も聞かずに断れる物だ。なにせアイリッシュ一晩の価値は五千万ルルト。割と裕福な平民の生涯に稼ぐ金の五分の一と同等だ。

 どう云う事かと男は首をかしげたが、ジジイは手紙を男に渡して読んでもらった。

曰く、今から大体十年前の事で侯爵家から話があると。娼婦としての仕事では無いと手紙に書かれていた。

窓口の男は軽くうなずくとジジイに金額が書かれたプレートを見せる。


「二の娼姫と言いますとリオルフォンフィールとなりますが、面会金はお持ちでしょうか?」

「こちらに」


 そう言ってジジイは金貨がタンマリ入った布袋を窓口のカウンターに置いた。

カウンター越しに従業員の男は金を秤に乗せ、金額をはかっている。


 美しく品のある、とても体を売って金を稼ぐような女には見えないアイリッシュは、過去に王の側室にならないかと声を掛けられた事がある程の美女だった。

彼女が仕事を休んだのは一度、大凡十年前の十月十日のみだ。

 窓口に来ていたジジイ……シークウェス家の先代執事であるオディロットはその過去を洗い、趣向記録用のメモリージュに写されたアイリッシュ・リオルフォンフィールと女の子の外見を当てはめて確信した。

この娼姫こそが、今シークウェス家で保護している女の子の母親だと。


 春売りの女が子供を産む事を許されるのは、父親の顔が良く、確実に父親が解る場合のみだ。しかしこの娼館に来る男は身分が高い者が多い。故にその情報は秘匿とされ、国家の持つスパイでさえ知る事は出来ない。もしかしたら王の御落胤かもしれないのだ。間違っても情報を外に出す事は無い。

 それ故父親は解らないまま産まれた子供は未来性を買われる。その未来性の変わりに娼婦は十月十日前後の休みが与えられ、わずかな休息と高い栄養価のある食事が出される。


 今から九年と少し前、アイリッシュは一人の女児を産んだ。オディロットは父親を探る事は出来なかったが、アイリッシュが子を産んだ時にこの街は竜と交戦していた事実を思い出した。

そして更に探って行ったら、この娼館から産まれたばかりの女児が竜と共鳴する魔法陣で飛ばされ行方不明になったと言う事実をつかんだ。


「確かにお代金頂きました。では予定日をお書き願えますか?」


 そう言って男はスケジュール帳のような紙と書き込むためのペンを差し出した。

娼姫ともなれば月の半分くらいは休みらしい。体調に気を使われているためだ。その為割と早くの日にちをとる事が出来た。

娼婦の仕事をしてもらう訳ではないので、若干日が詰まっても大丈夫だからだ。


 予約が終わった後にオディロットは懐からもう一つの手紙を取り出し、追加金の金貨を数枚窓口の男に差し出した。


「当家の主が話すものがどう云う内容か、大まかに書かれた手紙です。どうかアイリッシュ殿に渡して頂きたい」


 本来、娼婦に手紙を渡す場合、店側が中の内容を確認している。しかしこうやって個人の従業員に金を渡した場合、中を見られる事無く娼婦に手紙が届く。

万が一を考えて、中を見られても差し支えないようにはしてあるが、なるべく早く届くようにと受付の男に頼んだ。

 思わぬチップを貰った男は上機嫌で頷き、オディロットを出口まで送って行った。



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