第51話 神は死んだというのに
『怪物と闘う者は、その過程で
自らも怪物とならぬよう気をつけよ。
お前が深淵をのぞく時、
深淵もまたお前をのぞいているのだ。』
──フリードリヒ・ニーチェ
世の中は。
今日も。
明るい。
……。
私を差し置いて。
……。
テレビ。
うるさい。
……。
『速報です!
大塚ショウタ、本日二本目のホームラン!』
……。
歓声。
……。
誰かが。
笑ってる。
……。
うるさい。
……。
世界は。
こんなにも。
明るい。
……。
あの日から。
私の空は。
こんなにも。
曇っているというのに。
……。
「瑛美、行こうよ!」
友達。
笑ってる。
……。
カラオケ。
苦手。
……。
でも。
断れなかった。
……。
断ったら。
また。
何かが。
遠くなる気がした。
……。
狭い部屋。
甘い匂い。
炭酸。
笑い声。
……。
少しだけ。
息が詰まる。
……。
みんな。
笑ってる。
……。
恋の歌。
夢の歌。
友情。
希望。
……。
好き。
ありがとう。
永遠。
愛してる。
……。
まるで。
人生そのものを。
賛美しているみたいだった。
……。
「瑛美も歌ってよ!」
笑う。
……。
困る。
……。
断れない。
……。
適当に。
入れる。
……。
静か。
……。
歌う。
……。
終わる。
……。
少し。
静かになる。
……。
「あ」
友達。
笑う。
……。
「瑛美ってさ」
少し間。
……。
「声、好き」
……。
止まる。
……。
「なんか」
笑う。
……。
「じんわり心に響くの」
……。
止まる。
……。
わからない。
……。
そんなもの。
……。
そこに。
思いなんか。
ない。
……。
ただ。
空気を壊さないように。
歌っただけ。
……。
「ありがとう」
笑う。
……。
愛想笑い。
……。
得意。
……。
本当は。
心から。
笑いたい。
……。
喜びたい。
……。
普通に。
誰かと。
笑ってみたい。
……。
でも。
無理だ。
……。
大丈夫。
……。
そう。
言い続けてきた。
……。
でも。
全然。
大丈夫じゃない。
……。
怖い。
……。
未来。
……。
このまま。
私は。
どうなるんだろう。
……。
普通になれない。
……。
誰かみたいに。
笑えない。
……。
好きな人も。
いない。
……。
夢も。
ない。
……。
なのに。
世界だけ。
勝手に。
進んでいく。
……。
誰かが歌う。
『きっと大丈夫』
……。
誰かが歌う。
『未来は輝いてる』
……。
眩しい。
……。
そんなもの。
本当にあるの?
……。
少しだけ。
苦しい。
……。
神。
……。
でも。
ニーチェは言った。
……。
神は死んだ。
……。
なのに。
どうして。
みんな。
そんなに。
救われた顔をしているんだろう。
……。
どうして。
私は。
こんなに。
ひとりなんだろう。
……。
誰とも。
分かり合えない。
……。
笑ってるのに。
……。
ちゃんと。
笑ってるのに。
……。
なんで。
こんなに。
苦しいんだろう。
……。
もし。
この先。
ずっと。
このままだったら。
……。
怖い。
……。
消えてしまいたい。
……。
でも。
死ぬのも。
怖い。
……。
その瞬間。
胸が。
ぎゅっと。
痛くなる。
……。
ママ。
……。
会いたいよ。
……。
ただ。
それだけだった。
……。
こんなことを。
考えてしまう。
自分が嫌。
……。
ちゃんと。
笑えない。
……。
みんなみたいに。
生きられない。
……。
普通になれない。
……。
苦しい。
……。
こんな自分を。
許してくれる人なんて。
……。
どこにも。
いない。
……。
許してくれる人は。
もう。
いない。
……。
『次、瑛美ー!』
……。
笑う。
……。
「はーい」
……。
愛想笑い。
……。
得意だった。




