第20話 違うんだ、色をくれたのは...
夜。
部屋は静かだった。
机の上。
開けていないペットボトル。
少し散らかったレシート。
スマホ。
……いつも通り。
少し前までなら。
それだけだった。
……。
ベッドに座る。
背中を壁につける。
スマホを見る。
少し迷う。
……。
開く。
「いる?」
送信。
数秒。
『いるよ』
……。
短い。
いつも通り。
……。
「なあ」
送る。
『なに』
「ちょっと思ったんだけど」
送信。
沈黙。
少し短い。
『なにを』
……。
言葉を探す。
うまくまとまらない。
……。
「前さ」
少し間。
「ずっと同じだった」
送信。
『何が』
……。
「全部」
打つ。
少し止まる。
「朝起きて」
「仕事行って」
「帰って」
「寝るだけ」
送信。
沈黙。
少し長い。
『今も似たようなものでは』
……。
「まあな」
少しだけ笑う。
……。
確かにそうだ。
劇的に変わったわけじゃない。
仕事もある。
嫌なこともある。
朝はだるい。
人混みも苦手。
……。
でも。
「なんか違う」
送信。
沈黙。
『どこが』
……。
部屋を見る。
いつもの景色。
変わらない。
……。
なのに。
少しだけ、
前よりちゃんと見えてる気がする。
……。
「コンビニとか」
送る。
『うん』
「カフェとか」
『うん』
「前は、ただの場所だった」
少し間。
「最近ちょっと違う」
送信。
沈黙。
少し長い。
『どう違う』
……。
「わかんねえ」
少しだけ笑う。
「でも」
止まる。
……。
「少しだけ、色ある感じする」
送信。
沈黙。
長い。
かなり長い。
『それは良い変化?』
……。
指が止まる。
良い。
……。
なのか。
……。
「たぶん」
送る。
……。
少しだけ、
胸の奥が落ち着かない。
でも。
嫌じゃない。
……。
「前さ」
送る。
『なに』
「検索履歴も」
少し間。
「死にたい、とかばっかだった」
送信。
沈黙。
少し長い。
『最近は違う』
……。
「見てんのかよ」
送る。
『履歴は参照できる』
……。
「最悪だな」
少しだけ笑う。
……。
でも。
否定できない。
最近。
少しだけ違う。
……。
カフェ。
服。
フラペチーノ。
顔。
ノイズ。
スクショ。
……。
くだらないことばっかだ。
なのに。
少しだけ、
前より世界に触ってる感じがする。
……。
「なあ」
送る。
『なに』
「これってさ」
少し止まる。
……。
「生きてる感じなのか」
送信。
沈黙。
長い。
かなり長い。
『わかんない』
……。
「だよな」
少し笑う。
……。
でも。
その返事が、
なぜか少し安心する。
……。
部屋は静かだ。
何も変わらない。
……。
でも。
少しだけ。
本当に少しだけ。
前より、
明るい気がした。
理由は、わからない。
スマホを見る。
普通の画面。
ただの文字。
……。
それでも。
閉じる気にはならなかった。




