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悪役やるならこんな風に  作者: リボン会長


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60話

 

「死にたくない」


 私は小声とはいえ、わざと口にした。

 間違いなく周囲の不安をさらに煽ることになると分かっていても、これ以上エルダを手放せと言われたくなかったから。

 私がファルファレルロ、ギルティネとどんな契約をしているのかカシモラルは知らないしこの先知ることもできない、その事だって分かっているが、どうにも遠回しに「死ね」と言われているような気分になってしまうのだ。


「ハーゲンティ様!?」

「どういう意味ですか?」


 静かにしていたチャクスとムルムルも声を上げずにはいられなかったようだ。


「聖獣様との契約に関わるのでこれ以上は言えません」


 きっとこれ以上は声が出なくなるだろうから、どうしたって説明はできない。

 ただ、今の「死にたくない」発言だったり、レラージュとの会話で口外できない契約に抜け道があることは分かった。

 あれこれ言って周囲を巻き込む気はないが、どうしても側近たちの手助けが欲しいときが出た場合に情報を伝える手段があるのは助かる。

 そんな場合はやってこないに限るが。


 あれ、私自分で思ってたよりみんなを信頼してない?


 ちょっと薄情だったかなと一度視線を落としたが、この後さらに薄情な発言が控えているので歯を食いしばって顔を上げる。


「ザブ……お父様はまだ、わたくしの命を狙っていると思います。絶対に今の話をしないでください。念のため、お母様にも」


 最後の一言はカシモラルの目を見ながら言う。

 カシモラルがぐっと息を飲み込んだのが分かった。

 カシモラルは元々バティンの親友で側仕え、そしてザブナッケの従妹なのだ。

 ハッキリ言葉にしておかないと両親に情報は筒抜けになるだろう。


「……かしこまりました」


 渋々、というのが見えるがカシモラルが受け入れてくれたのでいったんは大丈夫だろう。

 あと心配なのは私の口がうっかり滑ることだけだ。

 前世で気の抜けない会話なんてまったくと言っていいほど経験が無い私は、すでに何度も口を滑らせている。

 エルダを手に入れ、それを周囲が認知した。

 今まで以上に気を付けないと取り返しのつかない、というより、王位継承争いに担ぎ出されかねない。

 いやだ。

 血みどろ演出確定だ。

 公爵だってかなり面倒な立場だ。バレエダンサーになるという新しいものを取り入れるための代償としてがんばろうとしているのであって、あくまで穏便にダンサーになるための手段なのだ。

 それ以上に面倒な王様になんて真っ平ごめんである。

 本当に穏便かはやってみなければ分からないが何の立場も権力、実績もない人がワーワー言っても誰も耳を傾けてくれないことくらい知っている。

 エルダを手に入れた実績ができた。

 私は前向きに考えて生きたいのだ。

 カシモラルの目をしばらく見つめ続け、ふっと息を吐いて私はほほ笑む。

 今度は、まだ心配そうな顔をしているチャクスとムルムルへ視線を移す。

 もうじき馬車が別邸についてしまう。

 急いで簡潔に伝えなくてはならない。


「わたくしは死にたくないと言ったのです」


 二人は顔を見合わせる。


「つまり、まだ生きていたいと言う意味です。暗く考えないでください」


 少しだけ二人の顔から剣が取れた。


「わたくしがやりたいこと、なりたいもの、色々と共有しましたよね?」


 側近になってもらってすぐの時、マルティムの家のお茶会での時、こちらへ来てから、様々な場面で様々な話をしてきた。


「全部がんばりたいのです。聖獣様とのお話も含めて、だからわたくしはエルダを手放しません」


 そうだ、口に出してようやく自分の本心に気づいた。

 私はがんばりたいのだ。

 “死ねと言われている気がする”これも間違いではないけれど、それ以上に、がんばらなくていいだったり、お前には無理だと言われているようで、悔しかったのだ。


「がんばることは、良いことだと思います」


 チャクスが両手を伸ばしてきたので私はしっかりとその手を握る。


「契約のことも理解しました。それでも、びっくりするので、話せる範囲でいいので何かするときは事前に教えてください」

「はい、気を付けます」


 うーん、これだけ心配させちゃったのなら領地に戻ってもすぐにはファルファレルロの試練を受けない方がいいかも?

 欲しかった光の魔法は手に入れたし他は焦ってはないもんね。


「あ」

「馬車が到着しましたね」


 ムルムルも何かを言いたそうにしていたが時間切れになってしまった。

 何も言わず、ムルムルは先に降りて私をエスコートするように手を差し出してくれる。

 私はその手を取って馬車を降りた。






「では、話してもらおうか」


 別邸にきてから一度も一緒に食事をとらなかったザブナッケがダイニングに現れ、席に着くと同時に私に向かってそう放った。


 おめぇに話すことは無い!


 なんて私は言えるはずもなく。


「今日は雨、でしたね?」


 別の余計な言葉を言ってネチネチと教育の遅れの説教を受ける羽目になった。





 


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