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悪役やるならこんな風に  作者: リボン会長


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48話

 

 王宮での社交期間がもうじき終了する。

 開会式の時とは違い、閉会式は伯爵位以上の当主のみが出席する。

 子供がいない子・男爵のほとんどはすでに領地へ戻っている。

 そんな中、迎えた子供の社交最終日。今日は未就学、全領地、全爵位の子が一堂に会する。

 ずっとずっと待っていた。やっと黄色のサロン、ギルティネの部屋での社交だ。

 私は高い天井を見上げる。

 部屋に入る前に御手水(おちょうず)に行き、そこでファルファレルロを背中に忍ばせることもできた。走らなければバレないだろう。

 見つからずに手の中に戻す方法はまだ考えついていないけれど、今日を逃せば春までチャンスはお預けなのだ。

 やるしかない。


『七柱の聖獣と初代王ワイナモイネンからの試練』


 ファルファレルロから示され、その試練を受けるには王宮へ行く必要があると知った時はもどかしくてもどかしくて、もどかしかった。

 私は悪魔ファルファレルロと契約をしているので、王宮にある広いサロン聖獣ギルティネの部屋に行く必要があった。

 どうやら悪魔と聖獣は対になっているようだ。

 ファルファレルロの封印をもう一段階解くことで光と闇の魔法が使えるようになる。


 なんで?


 と、思った。

 なんで悪魔の書に書かれた呪文を使うために聖獣からの試練が?

 ワイナモイネンがどうして関わってくるの?

 その答えはどの本にも書かれていない。

 ファルファレルロはまだ教えてくれない。

 きっとこのどうしては、この試練をクリアすれば解決の糸口くらい見つかるはず。

 そう考えるほかない。


「今日を乗り切れば、やっと領地へ戻れますね」


 別邸訓練所の設備が物足りなかったらしいチャクスは昨日から何度もこのセリフを口にしている。


「あと少しですね」


 聖獣の試練がなければ、私も早く戻りたいと思っているのでチャクスに笑顔を向ける。

 王家と公爵家に用意された椅子をグイソンが念入りにチェックをしてくれたので、ムルムルの手を取って座り社交開始のファンファーレを待つ。

 大きいサロンに案内される日は、部屋に入る度ここじゃないと肩を落とした。このまま黄色の部屋に入れなかったらどうしようと嘆きもした。

 爵位や年齢で細かく分けられた集まりでは二回りほど小さなサロンが会場だったのだ。大きなサロンを使う日は限られている。

 サロンのコンセプトにはマルティムも早い段階で気づいた。その時からずっとギルティネの部屋に入りたがっていたのを思い出し、私はマルティムを探して視線を巡らせる。

 私の視界に入ったマルティムは部屋を見回し感動で目に涙をためていた。

 他の人たちも社交最終日ともなれば緊張している人はほとんどおらず、王家や公爵家の席から視線を外さないようなグループもいなかった。


 そのまま、みんな楽しく過ごしていてね。


「ハーゲンティ様、管楽器隊が入場してきました。もう始まりますね」

「いよいよですね」


 ムルムルが知らせてくれる。

 私の緊張が一気に高まる。

 こんな時にバイェモンからのメモを思い出し気が散る。


 ダメ、ダメ。集中しなきゃ。


 この部屋の中でファルファレルロを出した状態で、物見の塔を出す祓詞(はらえことば)を唱えなければならない。

 短いとはいえ声に出さなければならないし、祈りの間で使う聖獣に奏上する祝詞(のりと)なのだ。周りに聞き取られたくない。

 開始のファンファーレが鳴っている間に言い切る、なんとしても。

 握った手がじんわりと汗ばむ。

 またメモを思い出す。

 管楽器隊が全員入場し終え、入口の扉が閉められた。


『レライエ様が領地に残っているバティン様の側近に接触したようです』


 私は首を振って必死に今日のことに集中する。

 周囲はまだざわざわしている。

 管楽器隊の先頭が旗を大きく振り上げる。それを合図に一斉に楽器を構える。

 そろそろだ。私は背中に張り付くファルファレルロにどんどん魔力を流す。


『バティン様とハーゲンティ様の仲が良好かを尋ねられたそうです』


 今じゃない。

 これを思い出すのは、考えるのは、領地へ帰る馬車の中で十分だ。


パパパパー


 始まった。

 鼻から静かに、けれど大きく息を吸い込んだ。


「掛けまくも畏き七柱の聖獣達諸々の禍事 罪穢 有らむをば 祓え給え清め給えと 白す事を聞食せと 恐み恐みも白す」


 ファンファーレの音にかき消されるほど小さな小さな声でつぶやくように、一気に唱えきった。

 会場の壁に取り付けられた装飾品がいくつかキラキラと輝き始める。

 照明を反射する光り方じゃない。飾り本体が自ら光り始めた。

 当然、部屋をじっくり観察していたマルティムは気づいた。

 首を傾げ、兄のそでを掴む。

 私はゴクリと息をのむ。

 ひとり、またひとりと会場の異変に気づきだす。

 私はこのまま知らんぷりを続けるべきか、「あれは何でしょう?」と声を上げるべきか。

 緊張している今は、変に声が上ずりそうで怖い。


「ハーゲンティ様、大丈夫です」


 そうチャクスが言い、護衛官見習いが私を取り囲む。

 周りの護衛を連れているグループは同じように囲まれ始めた。

 ヴァルファールは少し取り乱しているように見える。

 レラージュはさすが、堂々としたままだ。

 そしてディリエルと目が合った。私を心配そうに見ている。

 大丈夫の意を込めて笑顔を見せる。

 その間も絶えずファルファレルロへ魔力を送る。すべての壁の装飾が輝くまで。

 まるでこのサロンは、祈りの間のようだ。ようだ。よう?違う、きっと祈りの間なのだ。

 床の中央に人が2~3人が乗れそうなサイズの魔法陣がぼんやりと浮かび上がる。

 みなが悲鳴を上げ、魔法陣から我先に離れようと押し合う。


 めっちゃ大ごとになった。


 ギルティネの部屋が社交最終日でよかったのかもしれない。

 正直、何が起こるのか聞いていなかったが、それでも挑戦した。


 失敗は許されない。


 2度めのチャンスは絶対に訪れない。それだけは確信できる。

 私は唇をきつく結ぶ。

 魔法陣の輪郭がハッキリすると、そこから両開きの扉がせり上がってきた。

 扉の全貌が明らかになる。

 左の扉に、開会式で見た猫っぽい何かが7匹。右の扉に見たことがない狐っぽい何かが7匹。

 きっとこの扉の彫刻は聖獣7柱と悪魔7柱だ。


 どれがファルファレルロだろう。


 扉が完全に姿を現したのと、ファルファレルロに魔力が遅れなくなったのは同時だった。

 扉召喚の儀式が終わったのだと解釈する。


「退場のアナウンスはないのですか?」


 ムルムルがいつでも私を引っ張れるように手を握りながら護衛官に状況を確認する。


「会場の出入り口が開かないようです」


 出入口を見張っていたシトリーから小声で説明される。

 王家の騎士たちが体当たりしてもびくともしない、と。


「きっと、魔法をぶつけても壊せないでしょうね」


 淡々と言う私に側近たちが驚く。

 余計なことを言ってしまっただろうか、でもこれは事実。

 紫目の私が大量の魔力を流して儀式の場を作ったのだ。

 青目の彼らでは簡単に突破できない。


バチッ


 火花が散って大きな音がした。

 中央の召喚された扉に触れた男児がいた。

 好奇心に負けたのか、それとも騎士見習いで主や先輩に命令されたのか。

 とにかく触れた右腕が大やけどを負っている。

 すぐに飛び出てきた同じくらいの歳の子たちに引きずられて人込みの中に消える。

 ショックを受けた何人かがその場でへたり込んだり気を失っていく。

 マルティムとボルフライが心配になり、そちらへ顔を向ける。オリアクスがしっかりとマルティムを抱きしめていたし、ボルフライも一緒にマルティムの護衛に囲まれている。


 一安心、かな。


 私は何度か大きく息を吸い込んだ後、ぽんぽんとムルムルの手に合図を送り立たせてもらう。


「ハーゲンティ様、何をなさるおつもりですか?」


 ムルムルの声が震えている。


「行かなきゃ」


 私はそれだけ言って歩き出す。

 チャクスとグイソンが行かせまいと私の前に立ちはだかる。

 奥からガタガタと聞こえた。

 位置からしてぶんディリエルとヴァルファールが立とうとして側近に止められたのだろう。


「王宮は初代王ワイナモイネンが聖獣様から賜ったもの。このサロンはギルティネ様の黄色で装飾された部屋で、わたくしはギルティネ様をお祀りしているウハイタリの子。あの扉をくぐれるのはわたくしだけ」


 それっぽい事を言ってみる。


「ハーゲンティ様、以前おっしゃっていた聖獣様のお導きとは、お言葉とは、このことですか?」


 ムルムルの質問に私はうなずく。

 7柱の聖獣とワイナモイネンからの試練だし、似たようなものだ。


「道を開けてください」


 チャクスとグイソンがじりじりと後退する。

 会場の子供たちもゆっくりと動き出す。


「ハーゲンティ!」


 ディリエルがびっくりするくらい大きな声で私を呼び止める。

 私は3歩進んでから振り返る。

 振り返るだけ。

 何も言わずまた歩き出す。

 チャクスが剣を構えて道を先導してくれる。


「ありがとうチャクス」

「本当はイヤです」

「わかってる」


 社交の初日にあんなことがあったのだ。


「中に何があるのですか?」

「試練」

「え?」


 聞き返されても、私も答えようがないのだ。


「わたくしにもよくわかりません。ただ、誰でも入れる扉ではないので、中で待ち伏せをされているということは無いでしょう。それより」


 一度言葉を切って護衛を見回す。


「わたくしが扉から出てくる時を狙う。そんな(やから)はいるかもしれません。わたくしが出てくるまで、扉の警固をお願いします」


 護衛全員がうなずいたのを確認し、魔法陣の手前で一度止まる。

 領地の祈りの間での出来事を思い出し、もう一つ注意事項を伝えておく。


「みな、この魔法陣の中に入らないように。もしかすると、いえ、けっこうな確率で聖獣様の怒りを買います」


 私の声が届く範囲にいる全員が息をのんだ。

 伝承もたくさん残っている。誰もかれも、聖獣を怒らせたくないだろう。

 私ひとり魔法陣の中へ足を踏み入れる。

 すると、迎え入れるように勝手に扉が開き始めた。


「ハーゲンティ様!」


 今度はマルティムの悲鳴に近い声で名前を呼ばれる。

 でもこれ以上聖獣たちを、ファルファレルロを待たせられない。

 扉にちょっかいかけた子供もいるし、私が早く入らないと次の被害者が出てきそうだ。

 私は駆け足気味に魔法陣の上を通り抜ける。

 首だけちょっと振り返って一言。


「行ってきます!」


 エイッと私は飛び込んだ。






 


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