表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/22

第十一話 微かな兆し

 石の壁に囲まれた薄闇の空間。

 窓はなく、天井から垂れ下がる燭台だけが、わずかな明かりを落としていた。

 燭火が揺れるたび、背後の壁に映る影が長く、異形に歪む。


 その中心、祭壇のような高座に、ひとりの人物が静かに腰掛けていた。


 顔は黒いベールで覆われ、性別さえわからない。

 ただ、その存在からにじみ出る異様な静けさと、空気を切り裂くような威圧感が、周囲を支配していた。


「──猊下。キアリカに、”落とし子”が現れたとの報が入りました」


 報告するのは、ローブ姿の使徒。頭を低く垂れたまま、かすれる声で言葉を紡ぐ。


「レンダの神殿に足を踏み入れたとか。ですが、神託は──拒絶だったとのこと」


 沈黙。


 空気が、凍るように張り詰める。


 やがて、ベールの奥から、乾いた囁きが洩れた。


「面白い──器として昇華するか、それともただの“接ぎ木”か」


 猊下と呼ばれた者は指先で、隣に置かれた“何か”を撫でた。

 それは人の頭部ほどの大きさの黒石──そこに刻まれた神聖文字が、うごめくように微かに光っている。


「御身は動いた。ならば、我らも備えよう」

「“観測”を始めよ。必要なら、アレを送り込め」


「はっ・・・」


 使徒の背に、黒衣が音もなく揺れた。

 ふたたび沈黙が訪れ、ただ石の祭壇に蝋の雫が落ちる音だけが響いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


昼下がりのキアリカ。

沈みゆく太陽が、背のたかい外壁に隠れつつあった。

まもなく訪れる夜を前に、ナーガは狭い裏路地を重い足取りで歩いていた。


「おーい、出ておいでー」


背を曲げ、くたびれた様子で一人歩く。


ナーガは今、ギルドの依頼で受けた「迷子の猫探し」を遂行していた。


リオラは少しでも路銀を稼げるようにと、並行して別の依頼「パン屋のお手伝い」をこなしている。


ここまでガッツリ働いているのは、リオラが奴隷商からちょろまかした小銭が、服と各々の治療費で完全に底を尽きたからであった。


つまり、夜が来るまでに宿代を稼げなければ二人揃って野宿、ということだ。


指の治療に関しては、あの状態から完全に元通りになるのだから驚いた。


冒険者ギルド駐在の治癒師(ヒーラー)は、冒険者なら割安で治療してくれるそうだ。


詠唱時には「この者の傷を癒せ、ヒール!」みたいなモノを想像していたが、

単語と単語をつなげ合わせたパズルの様な詠唱で、今のナーガには理解できなかった。


 ナーガは、しばらく人気のない裏路地を歩き回っていた。


「くそっ、なんで猫ってのはこう・・・忍者みたいに消えるんだよ」


 つぶやいたとき、不意に、どこかからかすかな鳴き声が聞こえた。


 「みゃー」


「おっ? いたか?」


 音の方向へ進むと、建物と建物のすき間──人ひとりがようやく通れるほどの狭い空間に、白と黒のまだら模様の猫がうずくまっていた。


 「いたじゃん・・・よしよし・・・って、え、ん?」


 猫の隣、壁際には、何かが落ちていた。


 古びた革の袋だ。泥にまみれているが、中には羊皮紙のような紙の切れ端と、小さな石ころが入っている。

 

 「なんだ、これ」

 

 羊皮紙には文章が書かれていたが、当然ナーガには理解できなかった。

 だが、最下部に記された簡易の地図のようなものに目が移る。


「キアリカ・・・と、・・・洞窟?」


 ひときわ大きく描かれた外壁と白亜の塔は、キアリカの町並みを彷彿とさせた。


「・・・持ち帰ってリオラに聞いてみるか」


 革袋を手に取り、ナーガは裏路地を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


傾いた陽が、キアリカの大通りを朱に染めていた。

噴水のほとりに立つリオラの腕には、ふっくらとしたパンの入った袋。

妙にサマになっていて、あれだけのことがあった後でも、まるで元からここに住んでいたかのような落ち着きだ。


「で、そっちは?──まさか、手ぶらじゃないでしょうね」


「なめんな。ちゃんと捕まえたっての」


ナーガは胸の中の猫を軽く持ち上げて見せた。猫は小さく「みゃあ」と鳴いて、もう一度丸くなる。


「で、これも拾った」


ナーガが革袋を差し出すと、リオラが中を改める。


「これは・・・人に当てた手紙かしら」


ナーガが読めなかった羊皮紙の文章を見て、


「なんて書いてあるんだ?」


「読み上げるわね。この鉱石はーー」


 『この鉱石は、打てば打つほど生きてくる。…だが、俺の腕じゃ足りない。』

 『お前なら、こいつの“声”を聞けるかもしれない。』

 『石の在り処を、ここに記す。』

 『──期待してる。じゃあな。』

         ーーバグズ


ひとしきり読み終えて、リオラは眉をひそめる。

「バグズ・・・聞き覚えはない名前ね」


「とりあえず、落とし物ってことでギルドに届けとくか」


「あら、意外ね。貴重な宝の在り処かもしれないわよ?」


「俺の世界じゃそういうの”ネコババ”ってんだよ。手癖の悪いお嬢様と一緒にしないでくれ」


「・・・バカにされてるのだけはわかったわ」


リオラは不機嫌そうに、ギルドへ向かうナーガに続いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「猫、無事に戻ってきました。──ついでに変なモノも拾いましたけどね」


 ナーガがそう言うと、受付嬢は物珍しそうに袋を開けて中の手紙を見つめた。


 「差出人の名を見るに、鍛冶屋のバグズさんのものですね。ここキアリカで随一の腕と言われていた鍛冶師です」


 ナーガが引っかかった部分にすかさず突っ込む。


 「……過去形?」


「ええ。数年前、家族を置いて出ていってしまったそうです。

 未だに連絡の一つもつかないそうで・・・今は息子さんが店を継いでいますよ」


リオラが口を挟む。

「大事な手紙ですね。でしたら、明日私達がお店に届けておきますよ」


「そうしていただけると。ありがとうございます」

 

受付嬢が軽くお辞儀しながら、今回の仕事の報酬をカウンターに並べる。


「では、”迷子の猫探し”と”パン屋のお手伝い”、併せて銀貨15枚の報酬となります」


この世界には銅貨、銀貨、金貨の3種類の貨幣がある。

1泊の宿代が1部屋銀貨10枚といったところだ。


それはつまりーー今日の宿の相部屋が確定したことを意味していた。


いつもお読みいただきありがとうございます!

感想いただけると大変励みになります。

お時間あれば是非よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ