↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地下迷宮ひとり歩き  作者: 夜朝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/60

26.五階 〜正答の後に残るものは少しの名残惜しさ〜

■地下迷宮 五階 ナイラ 治癒術師Lv4 商人Lv2


「──では聞こうかいね

 この爺の出した謎の答えを」


「はい

 答えは──『時間』です」


「正解」


微笑み合ったナイラと麒麟は

同じように頷きを交わした


「では正答の褒美に

 おぬしに下層への通行手形を授けるだ

 利き手と反対の手のひらを出しましょ」


「反対?」


「利き手はよく使うものだで

 もし傷でも付いたら使えなくなるから」


「ふうん──って、うひゃあ!」


手のひらを上に向けて差し出した左手を

ばくん! と咥えられたナイラは

思わず声を上げた


獅子舞がやるような風情だ


彼女はまだどきどきしている胸元を

右手の指先で押さえて

麒麟のすることを見守っている


やがて開かれた口から出てきた

彼女の左手のひらには

細かな紋様があしらわれた菱形の図形が

黒の線で描かれていた


「これが通行手形ですか?」


「左様さよう

 ここから下の階では

 階段を降りるのではなく

 転送陣を使って転移することが

 圧倒的に多くなるでな

 ──その印(しるし)は

 ここから八階までの転送陣を

 動かす鍵になるものだで」


「この転送陣

 八階まで飛ぶんですか?」


「ではなく」


「あうち」


「どこから出てきただ

 その都合の良い発想」


「えええ

 そんな口ぶりでしたよ?」


「言ってないだ

 ──ともあれその手形は

 五階六階七階八階にある陣を

 動かせるものだで

 大事にしましょ」


「はい

 そうします

 ありがとうございました麒麟様

 もう一度寝たら出ますね」


五階は楽しかったが

面倒でもあった

繰り返さなくて済むように

セーブしていく


立ち去りかけたナイラを

麒麟が引き止めた


「ところでおぬし

 この階に来るのが目標だったと

 そう言ってたじゃんね

 して

 次の目標は決まったかいね」


「あー……特にないんです

 後は『行けるとこまで』かな?」


麒麟は目を閉じて首を傾げた


何か考えている様子で

ナイラはそれをじっと見守る


やがて首の位置を元に戻した麒麟は

その瞳にナイラを映して

ぽそりと言った


「あの方に会っていくと良いだ」


「あの方って?」


「マスターだだよ──この迷宮の」


「ああ

 この迷宮を作ったっていう?

 でも十階ですよね

 私としても行ければ行きたいんですけど……

 どうかなぁ」


「目標は高いほうが良いだ

 目指しましょ」


どうしてそんなに熱心に勧めてくるのか

よく分からなかったナイラだ


ただ

確かに魅力的な目標なので

胸中で前向きに検討してみる


十階まで行った探索者も

噂ではいるらしいが

その割に十階がどんな様子だったか

吹聴する者はひとりもいない


 ──行ってからのお楽しみ

 ってことかな?


「そうですよね

 この迷宮も

 ようやく半分きたばかりだし

 まだまだ楽しまないと!」


「そうせ!

 そのためにいいことを教えるだ」


「攻略のヒントですかっ

 大歓迎です!」


気合を示す握りこぶしで

ずいっと詰め寄ると

麒麟も首を伸ばして

顔を近付けてきた


「財宝を目にしても

 決して触らないでいましょ」


「はあ

 え?

 そうなんですか

 ちょっと残念ですね

 せっかくのお宝を

 見過ごさないといけないとか」


腕組みして眉間に皺を寄せるナイラ


それを見て苦い顔で笑った麒麟は

困ったように言った


「そういうところはさすがに

 探索者だいね

 でも堪(こら)えましょ

 命あってのものだねと言うでね」


「はい

 覚えておきます

 ──ありがとうございました麒麟様

 長いことお世話になりましたね」


麒麟が笑みに皺を深めながら返す


「なになに

 こちらも遥かぶりに

 楽しい時間を過ごせただ

 ありがとう」


それを最後に麒麟と別れて

予知夢テントで眠りについた


テントを畳まずに出発する


六階へ飛ぶことができる転移陣は

綺麗な円形をしていて

何かの数式がびっしりと書き込まれている


何のことかナイラには分からない


理解できずに動かせるのか心配だったが

左手のひらが

ほんのり温かくなってきたかと思ったら

転移陣が呼応して

昼間と同じくらい

周囲を明るく照らし始めた

か細い音で何か高音域のメロディが聞こえてくる


ナイラは恐る恐る陣を踏む


手形が熱いくらいになると

腹部もほんのりと温まり始めた


身体の芯から徐々に高まり続ける熱


その中心から生まれて

少しずつ広がっていくのは

虚無感だった


自分が薄れて無くなっていく感覚は

酷く不安で


高まっていた熱も

急に冷めてしまって

聞こえていたメロディも

どんどん低音になり薄れていき

やがては聞こえなくなった


いつしか凍えるような寒さの中で

ナイラは自分が一度

『ゼロ』になったのを感じた


そこからだ


再び小さい火が灯るような

わずかな温もりを覚えて

また

急速に熱が広がり

身体を形作っていく心地がした


「ああ」


声が漏れた

その声を耳が拾った

手を握ると確かな感触があった


目を開けると

ナイラをここまで運んできた光が

霧散して消えていくところだった


怖かったけれど

綺麗だった


こうしてナイラは

かつて憧れていたリドル階を後にした


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。