14.七階 〜魔物から受ける扱いとは〜
■地下迷宮 七階 ナイラ 治癒術師Lv5 商人Lv2
五階に続いて
七階にも
徘徊型のモンスターは
いないようだった
そういう階は
テントを張るのに適している
ナイラは少し迷ったが
六階へ戻れる転送陣を見つけたことにより
意を決して安眠テントを七階に移した
久しぶりに地下迷宮然とした
景色を味わっている
左右に壁があって
天井は光石によって照らし出せる程度の高さ
時々ある行き止まりにそびえる扉は重厚で
ノブの周辺に気を付けなければ
罠が飛んでくるものも多かった
それでもモンスターと出会わなくて済むだけ
他の階よりマシなのだ
ナイラはテントの中で
お湯で絞った布を使って身を清めると
寝袋の中にもぐりこんだ
近ごろ寝付きが悪いのだ
ふわふわの寝袋を二枚重ねにしていて
寝心地自体はすごく良い
だが気がかりがあった
またみんなに会ったらどうしよう?
ナイラにはどうしたら良いか
皆目見当がつかなかった
あの一行に戻ることは考えられない
けれどもし自分がいなかったせいで
あの中の誰かが命を落としたりしたら
──それが怖いのだ
深階層にいながら
回復役を連れていないなど
ナイラの感覚からすれば
考えられない愚行だ
おそらくは適任者が
見つからなかったのだろう
薬をたくさん買い込んで
戦闘を回避に徹すれば
何とかなるかもしれないが
上層階ならともかく
深層階ではつらかろう
ましてや彼らは戦闘を肯定している
行動方針さえ同じなら
同行しても構わないのに
彼らにはそれが通じない
いや
深層階まで来て
ナイラと同じ考えの人物は
もはやいないのかもしれないが
ナイラはモンスターたちの命も
人間のそれと同じように
大切にしたいだけだ
ただそれだけなのに──
悩める治癒術師は
今夜ももやもやしたまま
眠りについたのだった
* * *
七階は商人師匠がいる階だ
ナイラは師匠を探しながら
八階へ降りる転送陣を守っている
神獣の情報を集めていた
情報源は人語を話す蛙や亀
ワニやタカやワシ
それからフクロウなどもいた
みな外見は一般的な動物たちだったが
全員が人の言葉を解するだけでなく
魔法も扱える賢い存在だった
八階へ進むための転送陣を
守っているのはひとりだけ
だが七階にはもうひとつ
守られるべき場所があった
それはこの迷宮でやり取りされる
宝物類の貯蔵庫だ
それは西の端の隠し通路の
奥にある大きな広間で
そこを出入りするための鍵は
フクロウが守っていた
「持ってお行きなさい
役に立つ」
「待ってください
いいんですか?
私だって探索者ですよ
あなたたちにとっては
泥棒と同じじゃないんですか?」
「我々のことを
治療して回ってくださっていると
そう伺っていますよ
失礼ですが
探索者と言うよりは──」
「ドロップアウトに近い
と?」
「それは探索者が使う蔑称ですね
我々はリボーンと呼んでいます」
「『生まれ変わり』?」
「ええ
貯蔵庫は我々が倒した探索者から
入手した道具の中でも
特に価値のあるものや
上層階の守護者が探索者に奪われた宝を
取り返した場合などに
それを保管しておく場所です
探索者や商人には許しませんが
あなたは我々の仲間を治療してくださっている
それも何度もだ
ですからあなたを断る理由はありません」
「私……」
「ともあれ一度
中をご覧になってください
その鍵はあなたに差し上げます
貯蔵庫の中にあるものは
何でもご自由にお持ちください」
ナイラには受け取ったその鍵が
ひどく重く感じられた
* * *
フクロウと別れてから
テントのそばでひとり
温かい香草茶を飲んで
これまでのことを思い返す
言われてみればナイラ自身も
探索者よりはモンスターと
交流が深いような気がしてくるのだった
探索者からは身を隠してばかりだが
モンスターたちとはケガを治したり
情報交換したりしている
そう特に五階では麒麟や四神と
仲良くおしゃべりして過ごしたのだ
「私
モンスターと同じになったの?」
鍵を握り込んだ手で
閉じた目元を覆って
うちひしがれる
けれども
その手を下ろして
もう片方の手に持っているカップを
口元に運ぶと
少しだけ心が落ち着いた
自分が自分のことを
探索者だと思っているうちは
ドロップアウト……
もといリボーンにはならないはず
本当に最下階へ行くのなら
探索者のままでいたい
人のままで──
ナイラは空にしたカップを片付けて
その日の探索を終了した
* * *
七階に来てからナイラは
こまめなセーブを忘れていない
徘徊型のモンスターがいない階は
これがやり易いのがありがたかった
今日の彼女は
フクロウからの真心に応えるため
貯蔵庫へ向かっていた
貯蔵庫へ続く隠し通路への入口を
守っていたのは亀だ
手のひらサイズの金の亀
行き止まりの壁に
同じサイズの穴が開いていて
はめることができる
「亀さん
本当に良いんですか?
壁にはめられたりして
しんどくないです?」
「そんなことを気にされたのは
ぬしが初めてだなナイラ
何いつものことだ
遠慮せずやってくれ」
「はあ……ではお言葉に甘えて」
ナイラは
えい
と亀を壁の穴に埋めた
同じ階に行き止まりの壁なら
他にもいくつもあったが
地図の上でまだ路と空間が
残っていそうだったのが
その壁だけだったのだ
一応ラストまで書き終わったので
次回からは週一ペースの更新にしようと思います
月曜2:10くらいの予定です
いえ夜は寝ましょう〜
そしていつでもご都合よろしい時に
お付き合いいただけますよう
よろしくお願いします!




