一部の記憶と、大人の会話_視点変更有
ヴォルティスは二階に上がっていったアレンを姿が見えなくなるまで目で追いかけた。
名残惜しいのだろうと周りが察してしまうヴォルティスのわかりやすさに、アレンの階段を上がる音が聞こえなくなった後サリーナが苦笑しつつ口を開く。
「ヴォルティス様は、…アレンの事をどうお考えなのでしょうか?」
ヴォルティスを伺うサリーナは恐る恐るといった感じだが、目には母親としての力強さが宿っている。
普通の貴族ならば、このような対応をする平民を許しはしないだろう。
だが、ヴォルティスは違った。
親として心配するサリーナに好感を持つことはあっても、不躾であるとは決して思わなかった。
「私はアレンと、アレンの両親の貴方方が許していただけるのであれば、結婚を考えている」
「ケッ!?」
「結婚!?」
動揺を見せる2人に、ヴォルティスは頷いた。
「アレンとはあって間もない。私からの一方的な気持ちに過ぎない事は、私自身もわかっている。
だから今後、アレンに定期的に会わせてもらいたいのだが、許可をもらえるだろうか」
可愛い子供を持つ親として可能性の一つとして考えていたが、それでもヴォルティスの衝撃的な発言に動揺を見せた二人は、真剣なヴォルティスの眼差しに次第に落ち着き始める。
「…あ、会うのは構いません。あの子の人生はあの子自身で決めて欲しいと思うのが、親としての私たちの気持ちです。
だから、私たちはアレンの意思を確認しないまま、勝手に貴方様を拒否することはできません」
「ただ親として願う事は…、どうかアレンに対して誠実に接して欲しい。それだけです」
“親として”その言葉と共に願われた言葉は真に子を大切に思う言葉だった。
子どもを道具としてしか見なくなっている貴族_それも高位貴族_が多い世の中で、平民の思想はやはり素晴らしいものだとヴォルティスは口端をあげた。
それに答える為、席を立ったヴォルティスは心臓の上に拳をあてる。
「約束しよう」
二人は噂や騎士を目指して努力している息子のレインから聞く話の中で、ヴォルティスの人柄を知っていた。
だから不誠実なことはしないだろうと頭ではわかっていたが、それでも先ほどみせたヴォルティスの言葉と態度に、やっと本当の意味で安心することができた。
「「ありがとうございます」」
ヴォルティス同様に席を立ち深く頭を下げる2人に、ヴォルティスは顔を上げさせる。
「この店の定休日はいつか教えて貰えるだろうか?」
「…ああ、アレンから“招待された”と聞いています。
私達としては休みに限らず、お呼びいただいても構いません」
ヴォルティスは休日と店の定休日が合うのかが悩みの一つだったが、_休みを希望すれば休むことはできるが、団長という立場からかなり前からスケジュール調整をしなければならない_サリーナのあっさりとした態度にヴォルティスは目を丸くする。
「…よろしいのか?」
「ええ。あの子責任感が強いのか、私たちが言っても休まないんです。
手伝ってくれるのは私たちとしては本当に助かるんですけど…お店が休みの日でも買い出しにいってくれたりで、子供らしい休みを与えられてないんです。
この間レイン…ああ、もう一人の息子なんですが、レインが帰ってきた時にそれらしいことを言って連れ出してもらって、やっと休みを過ごさせることが出来たぐらいですのよ?
それをアレンにヴォルティス様への訪問日を聞いたらきっと、“この間休んだから”とか言い出すに決まってるんです。
だから、お店に関係なく連れ出して構いませんわ」
ふふと笑うサリーナに、ヴォルティスは目を丸くし、ふっと笑った。
「アレンは印象通りの真面目な子なんだな。
承知した。では次の私の休日である五日後に」
「ありがとうございます。
あと…厚かましいお願いですが、あの子に属性検査をしてあげていただきたいのです」
サリーナの言葉にヴォルティスは首を傾げる。
「属性検査?確かに平民は王都に出向かわなくてあは使用することは出来ないが…、何故必要か伺っても?」
騎士を目指す子供にとっては、魔力量確認の為に魔法玉を使用することがあるが、一般な平民は魔力量を気にすることはない。
生活できるほどの魔力があればいいのだ。
または結婚を意識した際、自分と相手の魔力量を確認する時に使用されるぐらいであるとヴォルティスは認識していた。
「あの子…アレンは記憶喪失なのです。今私達はあの子の親としてヴォルティス様にお会いしていますが、私たちも出会ったのは1か月程前。
養子縁組をしたのも最近で、その際アレンは”未登録”だと告げられたのです。
赤ん坊以外の未登録者が初めて住民登録する際、1年間の仮登録期間が設けられますことはご存知かと思います。
その状態で王都に行くことも躊躇い、…あの子の属性も魔力量も把握できていません」
「…確かに仮期間の間に、貴族が多くいる王都に行くことは控えたほうがいいが…。
記憶がないということ、そしてひと月前に会ったということについて、詳しく伺ってもいいか?」
■
「まだ…かなぁ?」
お義母さんのアイコンタクトで席を離れた私は、、シャワーを浴び終わり、部屋に戻ってベッドに横になっていた。
ちなみにいつ呼ばれるのかわからなかったから、普段は使わない温風が出る魔道具で髪の毛を乾かしている。
使用している魔法球は火と風。そのままだね。
(大人の話っていってたけど、なんだろう…ただヴォルティスさんが暮らしている騎士の寮に行くだけなのに、そんな大事なのかな?)
ごろごろとベッドの上を転がっていると1階から私を呼ぶ声が聞こえる。
勢いよく起き上がって、バタバタと1階に駆け下りた。
「お話し終わったの?」
「大人だけのお話しはね。ここからはアレンの話を聞かせてもらいたいのよ」
「私の?」
なんだろう?と思いながら、2人が座っている席に私も座る。
「アレン。私は今から騎士として聞く。
君は記憶喪失と聞いたが、覚えている事だけでも教えてくれないか?」
ハッとして向かい側に座っている2人を見た。
「いや、すまない。嘘だ…。騎士としてなんて言ったが、本当は俺が知りたいだけなんだ。
アレンの事を少しでも多く知り、そして守りたい」
隣に座るヴォルティスさんに見つめられて、思わず私は俯いた。
間近にある整いすぎているヴォルティスさんの顔面に、照れてしまうのは仕方ないことだと思う。
「あ、…あの、ありがとうございますっ」
コホンとお義父さんの咳払いに、私は顔を上げる。
「純愛…、レイン…お母さんはアンタの事“も”ちゃんと応援してるからね…」
「んん"!!…アレン、ヴォルティスさんに話してくれないか?」
「うん。わかった」
何故か手で顔を覆っているお義母さんを肘で小突くお義父さんが不思議だったけど、お義父さんの真剣なまなざしに私は頷いた。
「覚えていることはあまりないけど、…私、森の中に横になっていて寝ていて…そして目が覚めました」
「森…、それはどこらへんかわかるか?」
ヴォルティスさんの言葉に私は首を振る。
「…でも周りは薄暗かったです。お日様も届かないくらい生い茂っていたし、草も…私の膝くらいまであったから、結構深いと思います。
そこで多分魔物…みたいな生き物を見て、私は怖くて必死で走りました。
暗くなりかけた頃になって、やっと追ってくる音が聞こえなくなって、でもその時の私はかなりフラフラで…。
それで足を滑らせてしまって、高いところから…たぶん滑り落ちたんです。
一度目を覚ましたのですが、痛みで全然体が動かず、また気を失いました。
そこで…変な話ですが、目が覚めたら森の外にいました。
そこからは森とは逆の方向を歩いて、それでこの街を見つけて、お義母さんに出会って、今こうしてここにいます」
話を終えるとヴォルティスさんに手を握られる。
思い出しながら話している時の私の手が震えていたことに気付いたんだろう。
優しい人だなぁと思っていると、シャワーを浴びてから時間がたっている筈なのに、ぽかぽかと少し暑く感じた。
「…そうか。怖かっただろうが、何点か質問に答えてくれるか?」
私は頷いた。
「アレンは森にいた以前の記憶は全くないのか?」
「はい。たぶん…ない、と思います」
ふむ、と考え込むヴォルティスはすぐに顔を上げる。
「確かくれーぷというものを最近作ったと聞いたが、それはどこで知ったものかわかるか?」
お義母さんたちが教えたのか、それとも町で話題にでもなっているのか、ヴォルティスさんがクレープをたどたどしく言う姿はなんだかかわいかった。
表情も真剣な分。それはもう。
「あ、それは前におじさんに…あ!」
思わず出た自分の言葉に驚く。
そうだ。おじさんの存在だ。
なんで私はすぐに思い出さなかったんだろう。
私が逃げ出した時にいつも会いにいっていて、いつも夢を語ってた。
そして話してくれる話題に私が知らなかったりすると、おじさんは色々教えてくれてた。
「”おじさん”?」




