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温泉行きますが、名前を決めました

 マキアと一緒に歩くこと、10分ほどたっただろうか。

 その後の会話がまったく無かった。

 先ほど、アサとダルと話していた時もほとんど無言だったけど、彼女は会話が苦手なのか?

 アサに対して、説明が必要なことは私が説明すると言っていたので、話すこと自体が苦手ではないのかもしれないが…。景色は変わり映えのない木々であるし、桃を食べながら歩きだした時に始まった無言を打ち破る良い言葉が思いつかない。魔法についてとか、聞きたいことはあるのだが…。


「マキアは、会話が苦手ですか?」


 会話が苦手なのは、自分だった。直球で聞くってどうよ。

 いやわかっているのだが、他の切り出し方がわからなかった。考えれば考えるほど坩堝にはまるというのか…やっぱり直球が無難か。いや違うか?


「……。そんなこと無いわ。連れ出したのに黙っちゃってごめんね。ずっと念話してたから気づかなかったの。」


 返答に妙な沈黙があったから、切り出し方を間違ったかと思ったが、そんなことはなかったようだ。

 やっぱり、直球が無難なんだな。


「いいえ、気にしないでください。念話ですか。確か、種族間念話ができるのでしたか。」

「そうよ。種族全体での会話になるから、ちょっと面倒な部分もあるけど…レイのことを伝えたから、影種族から他の種族にも伝わっているわ。」


 え。そんなグローバルな念話だったのか!?

 しかも、そのグローバル回線で自分の情報が拡散しているとか…ん?そういわれると、アサがやけに丁寧にステータスを読み上げると思ったんだ。それを、マキア経由で拡散されていたのか?


「そうなんですね。スキルとかも伝わっているのですか?」

「そうだけど、嫌だった?」

「いいえ。何か役立つことがあればいいと思いまして。」


 魔族側につくことにしたのだし、戦争中ということを思えば仕方ないかもしれない。

 そもそも、クール美人に困った表情を作られて、嫌と言えるわけがなかった。

 今度の回答は大正解らしく、マキアがにっこり笑う。…美人の笑顔は癒される。


「そう言ってくれると嬉しいわ。でも、レイに頼むことはほとんどないかもしれないわ。あえて言うなら、転移を頼むかもしれないけど、魔法干渉力が6だと無理させられないもの。」

「魔法干渉力6ってそれほど弱いですか。」

「そうね。侵攻してくる人族はそれくらいだけど、私も最大だし、一人前と言えば8くらいからよ。

 あ、でも大丈夫よ。6くらいからほとんどの魔法は使えるから。ただ、6だと使える力も少ないし、使うためにかかる力も多いけど…空間魔法も最大じゃないのよね?ちょっと温存しながら使っていけばいいと思うわ。」


 慰めてくれているのだろうが、まあまあの役立たずだった…。

 人族としては兵隊レベルかもしれないが、魔族としては半人前って。そういえば食事などの健康管理もすべて魔法で行っているようだし、生活に使う魔法頻度からして違うのだろう。

 ステータスが成長しないのが痛い。…そうか、魔法を使いたくなったら魔法特化の性別に変えればいいのか。


「そうします。最悪、性別を変えますので大丈夫だと思います。」

「そうね、レイはそれがあるものね。無性体って気になっていたの。楽しみだわ。そろそろ、迎えが着くようね。」

「ええと…迎えですか?」

「そう。影種族は種族間念話しかできないけど、虹魔法は念話…個別の念話と、転移もできるのが便利よ。とってもカワイイの。」

「虹魔法ですか。それも種族スキルというものですか?」

「そうよ。虹種族の種族スキルは、虹翅ニジノハネと虹魔法。影種族と虹種族は協力して各里に散っているの。」


 なるほど。影種族グローバル回線な念話で概要を伝えて、虹種族の個別回線の念話で状況確認と転移で移動というわけか。情報の伝達が早そうだ。

 それにしても、影種族が真黒マントな影のイメージが伝わるが、虹種族?虹の羽?虹っぽい形状が思い浮かばない…。


「来たようね。」

「マッキアー!」


 マキアと、別の声につられて進行方向を見ると、手のひらサイズの物体が飛んできてマキアの胸に飛び込んだ。

 止まったところをよく見れば、虹色の半透明な翅をもつ手のひらサイズの妖精だった。こうしてみれば虹種族と言われて納得できるかもしれない。そして、マキアの胸が柔らかそうだった。

 見られていることに気付いたのか、マキアの胸から離れた妖精が目の前に飛んできた。

 ピンクのツインテールと金色の瞳で、かわいい顔立ちの手のひらサイズの妖精。間違いなくカワイイ!


「あなた、レイ?」

「そうです。」

「ふーん。とってもキレイね!」


 どうやら認められたらしい。にぱりと笑って頭の上をぐるぐる飛び始める。思わず見上げてしまったが、翅から虹色の粉…光?が、ざばざば降ってきて目に入った。反射で目をつぶってしまったが、痛くはない。

 ただの光のようだが、どういうつもりで降らしているのだろう。

 おそるおそる目を開けた時には、虹の光は止んでいた。念のため服を確認するが、今までと変わらず、虹色の粉が着いていることもなかった。


「あはははは!レイ、びっくりした?嫌そうな顔してる!」


 妖精はめちゃくちゃはしゃいでいた。その姿を冷めた目で見てしまうのは仕方ないだろう。


「メイシー。いきなりだとビックリするに決まっているじゃない、もう。

 レイ、ごめんね?さっきの光をかけることで、虹魔法の転移とかできるようになるの。転移は近くに居ないといけないけどね。」

「そうでしたか。急でびっくりしましたが、転移で連れて行ってもらえるならありがたいです。」


 怒ったように少しほほを膨らませ、飛び回る妖精を掴んで胸に押し込んだマキア。表情がかわいいと言うべきか、妖精にそこいいな言うべきか…どちらも口に出すことではないな。

 ところで、翅からの光をかけることで空を飛べるようになる妖精が登場する物語あった気がするが、この虹種族からの光では空は飛べないらしい。少々残念だ。


「あはは!ありがたがってー!てんいー。」





 この妖精が少々残念かもしれなかった。可愛いけど。

 気が付いた時には目の前には温泉があった。

 森の中に石で囲われた自然そのままのイメージの温泉。立ち上る湯気と乳白色の湯がいい風情である。

 しかし、脱衣所らしきものも、男湯女湯見たいなものも見当たらない。


「おんせんー!」

 

 妖精の叫び声で振り向くと、温泉に飛び込んでいくのが見えた。

 マキアを見ると、その場で服を脱ぎだしていた。

 …え、ここで脱いじゃうの?


「どうかしたの?脱いだら収納に入れればいいでしょ?」

「あ、はい。」


 大胆にも大自然の中でストリップしていくので、これが魔族的に普通なのだろう。

 つられて服を脱ぎ、脱いだ服は”アイテムボックス”と念じてと開いた丸い空間に入れた。

 つられたと言っても外で服を脱ぐ習慣がなかったもので、だいぶもたついてしまったようだ。

 脱ぎ終わったときにはマキアはすでに湯船の中だ。

 ついでに自分の体を見下ろすが、白くてきれいな真っ平らの身体である。もちろんついていない。だって無性体だもの。


「マキア。このまま入っていいのですか。」

「ん?入るだけよ?」


 かけ湯とかはないらしい。体の浄化や湯の浄化も魔法でやるからかもしれない。

 いくら無性体とはいえ、森の中で全裸は心もとない気分になるのはしょうがないだろう。あたたかな乳白色の湯につかり、やっと落ち着いた。

 マキアと妖精の様子を伺うと、何やらすごい。湯に浮かぶマキアのダイナマイトなふくらみを妖精が正面からぽしぽしと触って遊んでいる。これは、魔族的なスキンシップなのか?元日本人感覚としては無しなのだが、魔族側に着いたわけで…まざったほうがいいのだろうか?

 本音としては、リアルであんな巨乳をみたことがない。触りたい。その、一択だが。


「れいー。ぎゅー。」

「ぎゅー。」


 迷っている内に彼女たちのほうがきた。マキアが後ろから抱き着き、妖精が左腕に掴まった。

 マキアの手がなんだかあやしい動きをしているが、背中に感じる柔らかさがすごい。転生して良かった。


「レイってメイシーと似てるのね。無性体ってこんな感じなのね。」

「一緒だってー。」


 にぱりと笑う妖精を両手で捕まえて観察する。

 ふむ。真っ平らお子様ボディ。たぶんそういうことなのだろう。


「あなたの年齢はいくつですか?」

「えー。覚えてないくらい、いっぱいかなー。」


 なるほど妖精はこんな感じらしい。振り返ってマキアを見ると、小首をかしげられた。


「んー?私もメイシーも同じくらいで、200年位かな?」

「…一日は24時間で一年は365日くらいですか?」

「そうよ。一日24時間、一月60日、六月360日で一年になるわ。」

「…失礼ですが、、寿命ってどれくらいですか?」

「寿命って…人族のあれよね。私たちの死ぬ時は定まっていないわ。」

「そうでしたか。」


 200歳くらいのこのカワイイ妖精は、別に子供というわけではなさそうだ。これで成体といことなら、今後もこのままということだろう。カワイイから問題ないな。

 異世界人と同じく魔族も不老のようだとすると、この世界の人間には寿命のあることが逆に変な気がしてくるが、マキアの言う私たちが影種族と虹種族を指すなら、そうでもないのか。

 ふと見ると、妖精が手の中で嫌がるようにバタバタと暴れている。表情は楽しそうなので、遊んでいるのだろう。今手を放したら、面白いことになるだろうか?

 不穏な気配を感じたのかどうなのか、妖精がこちらを見上げた。暴れるのは止まったが、楽しそうな表情のままなのでたぶん偶然だ。


「レイー。あたし、メイシアーナっていうのー。」


 にぱりと笑って自己紹介された。今更かと思ったが、マキアはメイシーと呼んでいたのでメイシーが名前だと思い込んでいたので良かった。

 すでに名前で呼ばれているので必要ないと思うが、こちらもにっこり笑って返す。


「私は、レイと呼んでください。」

「あははー知ってるー。あたしはメイシアーナで、メイでいいよ。」

「では、メイと呼びますね。」


 メイシーはマキア専用らしい。

 まだ笑い続けるメイシーは、知ってる名前を名乗られたのを面白がっているのかとおもったが、違ったようだ。

 ひとしきり笑ったメイは、こう切り出した。


「レイは、レイ括弧仮って名前でしょ?おもしろいね?」


 クリティカルヒットだった。

 そういえば、影種族のグローバル回線で自分の情報は筒抜けであり、それで聞いた人たちは、名前を”レイ括弧仮”という名前だと思っているということか。

 そんな括弧のついた名前は嫌だ。早急に名前を決めようと思う。

 正直、もうレイでいいじゃないかとも思うが、それでは少々面白くない。

 そうすると…。


「そうですね。…名前を決めようと思うのですが、レイヤードってどうでしょう?」

「レイヤードのレイ?」

「いいんじゃない?この世界風の響きね。」


 レイヤードは重ねる。性別を選べる自分に合っているし、男性名でも女性名でも大きな違和感がないように思える。マキアの評価も悪くはなさそうだ。

 これで確定でいいだろう。


「では、私はレイヤードです。今後ともレイと呼んでください。」

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