このままいこうと思いますが、思っていたのと違うようです
今後の方針も定まったところで、魔法の詳しい使い方とか他の性別を使ってみたいとか、聞きたい事とやりたいことがいろいろ思い浮かんだが、とりあえず…。
「あの、お茶とかって出ないんですか。」
できればちょっと一服して気分を変えたい。
スキルがわかって攻撃が無効になるのと、最悪両生体になれば無敵っぽいし、アサもダルももう仲間ってことで少しくらい気を緩めてもいいだろう。
お茶くらい、もらおうとしても別に大したことないよな?
「そういえばそんな習慣があったな。」
「ちょうどアサに土産の果物が、いくつか持ってきてるからそれでいいか?」
「このまま机に出しちゃっていいよ。」
ダルを見ると、左手を体に寄せ右手をその下に入れて引き出した時には、大きめのバスケットがあった。たぶん、さっき説明してくれたスキルの収納から出したのだろう。
受け取ったアサがふたを取ると、中には林檎や桃、オレンジやレモンなどの見慣れたようなものや、青いいちごのような色と形の見覚えが一致しないものも見られた。
「いつもありがとうな。今回はバスケットなんだ?助かるけど。」
「採集したものを預かってきたんだ。」
「そうなんだ?お礼言っといて。」
うん?この果物の受け渡しはいつものようだが、頼んだお茶はどうなった?
不思議そうな顔をしていたのかどうなのか。アサはこちらを向いて笑いかけてきた。
「レイ、悪いけどお茶とか食べ物を持ってないからこれで我慢して。好きなの食べていいから。」
「ええと…ありがとうございます?」
バスケットをそのまま目の前に置かれたが…時間の止まる大規模収納を使えるアサが、食べ物を持っていないだと!?出来立ての料理とかをそのまま入れたりするのが、アイテムボックス使用法あるあるではないのか!?
食べていいなら、この果物はもらってしまうが。
「食べながらでいいから聞いて欲しいけど、光属性っていうのが身体に影響する魔法でね。光魔法を体に循環させれば食事はいらないんだ。」
「人族には光属性も少ないようで食事が発達しているようだが、こちら側ではほとんどが光属性を循環させるようにしてるから、基本的には何も食べないんだ。こうして、たまに果物を食べることはあるけどね。」
ダルが横から青いいちごを取っていき、食べた。
その微妙な色合いから、異世界感があって食べたいけど決心がつかずに迷っていた、青いいちごだ。
「それ、どんな味なんですか。」
「甘いよ。確かアサがこれは色が気持ち悪いとか言って、初め持ってきた俺に毒見させたな。」
「いやだって、青いいちごとか色ヤバいじゃん。今でもなんか苦手だし。」
とりあえず甘いんだな。ダルがヘタまで一口で食べてしまったのをまねて、一つ食べてみる。
甘くて美味しい。味は洋梨に似ていると思う。
もう一つ食べる。おいしい。
「そういえば、食肉の文化があるんだったか?」
「そうだった。もしかするとレイには残念かもしれないけど、肉は人間側しかないから…食べたくなったら人間側に行かないと無いよ。欲しければ町まで転移してあげるけど、俺は魔族サイドに慣れちゃったのと、魔獣を食べるのに抵抗が出てきたからいらないけどね。」
「前は俺を人族の町まで転移させて、買ってこさせてたよな。そういえば、もう頼まれてないな。」
「まぁ。魔族側の獣って全部しゃべれるんだよな。何回か話すうちに、人間側に居る獣は全部しゃべれないといっても見た目が似てるから…魔獣って言っても食べる気が起きなくなったんだ。」
なんと…。肉がないだと…?果物以外の食事をしなくて、その果物も嗜好品扱いって…魔族のイメージが、思っていたのと違うのだが。
「魔族って、ベジタリアンなのですね。」
「アサにも言われたな。そうだ。こちら側での生物は皆意思の疎通ができるから、植物以外を食べることはないよ。肉を食べることについて否定する気はないけど、見ると何とも言えない気持ちにはなる。」
「そうですか。」
魔族サイドについたわけだし、転生ということで体も新しくなっているので(性別を時間割で選べる体なんて間違いなく地球にはないだろう)、ここは光魔法で基本食事をとらないエコスタイルに慣れていくようにしよう。
人間側と文化が違うのは気になるので、いずれはアサに頼んで人間側に行こうとも思うがそれはまたということで。
というか、さっきからアサも同じようなこと聞いたりしていたようだな。元日本人の感覚として気になるポイントが似ているのだと思う。
「文化といえば、お風呂文化もないんだよな?」
「そうだな。体も光魔法の循環か、汚れても水魔法とかで洗えるからな。湯につかるというのは、ほとんどないな。」
「私はお風呂好きよ。温泉にもよく行くわ。」
次に取ろうとした桃を、取り落としてしまう。
え、なんか今女性ボイスがしたんだが。もしかして座ったときに居たクール美人の声?
スキルの衝撃とこれまでの会話に入ってこなかったことで、存在をすっかり忘れていた。
驚いてそちらを見ると、ダルが苦笑した。
「紹介してなかったな。こっちはマキアという。」
「影種族のマキアよ。よろしく。」
「レイと呼んでください。よろしくお願いします。」
「この空間の奥に俺の部屋があって、お風呂場も作ってあるんだ。マキアはたまに入っていくよ。」
「そうだったのか?」
「前にお風呂の話を聞いて、それからたまに借りているの。」
なるほど。温泉があって、アキアはお風呂が好きなんだな。
「私もお風呂好きです。温泉も気になるので今度案内してもらえますか?」
「いいわよ。一緒に入りましょう。」
クールな印象がにっこり笑うことでかわいらしくなる。っていうか、一緒に入りましょう!?無性体はついてないから女湯でいいのか?それとも混浴なのか?
とりあえず、美人と一緒に温泉に入れるとか…テンション上がる。