第22話:気持ち(※)
挿絵があります。
あまりうまく描けなくて「う〜ん」ってなってました。
クオンは夜半に1人、湖を眺めていた。
西軍基地から貧困街を抜けた先にある、林の中の湖。
クオンはそこに訪れては、1ヶ月前のあの日を思い返していた。
自分の選択は曲げない、それが受け継いだ信念だから。
覚悟を思い出すだけではない、寂しさや悲しみもあるけれど、それを乗り越えて今の私がここにある。
マフラーを羽衣としてまとい、神楽器を背負っている。
でもラナのように神楽器の力無しで戦えるよう、イグソーブ武器を使った訓練も怠っていない。
この区画に出る魔物相手に実践も行なった。
徐々に力をつけている――その実感を得られるからこそ、次へ進んでいこうと思えていた。
そんな彼女の元に、1つの影が舞い降りる。
「クオンっ」
「ん……よく来ましたね、ミズヤ」
「まーた抜けだすんだから……側近は大変ですにゃ〜……」
「ふふっ、すみませんね」
プンスカ怒るミズヤを宥め、クオンはクスクスと笑った。
側近であり、今では信頼の厚い護衛の1人。
心配で要塞を抜け出してここまで来てくれるのも、嬉しい話だった。
「バスレノスの誇りは、ずっと守られたままです。中央はキュール、外回りはバスレノスと、領土は二分化されてしまいましたが……」
「でも、戦いはしない……よね?」
「キュール側は戦力が足りませんからね。こちらから仕掛ければ袋の鼠ですが、我々は戦わない、犠牲者を出さない」
「……だねっ」
今のところはそういう風に話がまとまっており、キュールの政策は良くも悪くもないもので、今は干渉せず見守る形を取っていた。
皇族の仇を取るようなことはしない、それでは先のレジスタンスと同じ事を繰り返すだけ。
悲劇を繰り返すことほど悲しいことは無いのだ。
「……ひと段落、だよね?」
「そうですね。ここまで来るのに、いろんな感情に流されそうになりました。しかし、信念ってそんな簡単に曲がらないものですね」
「クオン、見かけによらず意地っ張りだもんね?」
「見かけによらずは余計ですっ」
「あはは……」
軽口を叩きながら、2人は湖の側で腰を下ろした。
静かな夜の中、星の瞬く素敵な夜の下で、美しい月が反射する水面を眺めていた。
「……ねぇ、クオン?」
「なんですか?」
ミズヤは一拍おいてから、こう呟いた。
「僕、アルトリーユに行くね」
◇
「……はい?」
私は何も考えず、ただ聞き返してしまった。
彼が言っている意味はわかるはずだったのに、なんででしょう。
伝わらなかったと思ったのか、彼はもう一度言った。
「僕、アルトリーユに行こうと思うんだ。クオンの問題はひと段落ついたし……僕が居なくても大丈夫になったと思う。だから、いつまでも待ってくれてるサラに会いたいと思って……」
「……そう、ですか……」
私は愕然として、ポツポツとしか相槌を返せなかった。
助けてくれたあの日から、ミズヤは当たり前のように側にいて、幼さを見せる時もありながら酷く落ち込む時もあって、苦楽を共にして来ました。
いつも側にいて、離れる事なんて考えてなかった。
だからなんでしょうか、とても悲しい……。
「……辛い、ですね」
「今生の別れってわけじゃないよ……。本物のサラとも会って、お話しして、向こうが落ち着いたら、また会いに来る」
「……ええ。……そうです、よね……」
何故か、喉が詰まったかのような感覚でしか言葉が出なかった。
彼が離れて行く理由も前からわかっていた事で、当たり前な事なのに。
どうして、それがこんなに辛いのでしょう?
ミズヤが居なくても、私は1人じゃない。
ケイクもヘリリアも居る。
厄介になって居る西軍の皆や善幻種のナルー様も居る。
少なくとも悪い環境ではない、それなのにどうして私は――。
「クオン」
「……え?」
「そんなに、辛そうな顔しないで……」
「…………」
考えが表情に出てたらきく、ミズヤは悲しい表情で私に囁いた。
なんでこんなに、胸が痛いのでしょう。
私が彼を悲しませる、そんな事、したくないのに……。
彼と過ごした日々が走馬灯のように駆け巡っている。
貴方に助けてもらって、私の事を友達として扱ってくれて、楽しい日々を過ごしながら、貴方の過去に触れていって……。
楽しい日常も、辛い戦いも、苦しい時も、貴方が隣に居た。
そして、私が落ち込んだ湖のほとりで――貴方が私を助けてくれたから――。
「――好きです」
その言葉は、自然と口に出てしまっていた。
私自身驚きもあり、ミズヤも口を開けて驚いていた。
それでも、この気持ちと想いに嘘はない。
貴方が居てくれて嬉しかった。
貴方の言葉が嬉しかった。
貴方のおかげで私は成長できた。
まだまだ幼く、心の弱い貴方だけれど、必死に私を支えてくれていた。
そして1ヶ月前、湖で挫けていた私を救い出してくれた。
私は、あの頃から貴方の事が好きだったのかもしれません。
忙しくて、努力して、自分の気持ちを考えなかったけれど――。
今は、はっきりとわかる。
「私は――貴方が好きなんです。だから、行かないでください」
まっすぐな思いで、そのままの言葉を彼に伝えた。
眼前に居る彼は、キョトンとして動かなかった。
◇
あれからどう言うことも出来ず、ミズヤは自分の部屋に戻って来ていた。
置いて行ったサラは既に眠り、ベッドの側で丸くなっている。
ミズヤもベッドに体を沈ませると、独り言を呟いた。
「どうしよっかなぁ〜……」
それはクオンに対してどう接するかとか、自分がアルトリーユに行っていいのかとか、そう言う気持ちの表れだった。
サラの気持ちを裏切ってクオンの側にい続けて、この場所にずっと居る事は将来幸せかと言われたらわからない。
国の事が絡めば複雑になるだろう。
「でもねこさんに嫌われたくないしなぁ〜……」
サラの気持ちを無下にすることは、彼女の十数年を無駄にすることに等しい。
そんな悲しい思いはさせたくない。
ならば逆に、クオンの気持ちを蹴るのか。
クオンの告白にごめんと回答し、アルトリーユに行く事もできる。
北大陸に行きにくくはなるものの、サラと幸せに暮らせる可能性も――
というのは全くの未知だった。
アルトリーユがどういう国で、サラと再会した場合に何が待ち受けてるのかもわからない。
易々(やすやす)ブラックボックスに飛びつく事は出来ないのだった。
「…………」
ゴロンと寝返りを打って、目の前でまるまった金毛の猫を眺め、ミズヤは固まる。
アルトリーユに行ったらどうなるのか、それを聞いた方が良さそうだ。
「じゃあ、おやすみ、サラ……」
眠る猫の体を撫で、ミズヤも眠りについた。
話を聞くのは、また明日――。
◇
「…………」
まったく寝る事ができず、朝が来てしまいました。
何故あんな告白をしてしまったのでしょう、今になって恥ずかしさが押し寄せて来て眠る事も敵わないなんて。
ミズヤは笑うと可愛くて、でもいつも頼りになる。
見かけの割に筋肉が引き締まっていて……。
「…………」
バカな事を、そんな人なら幾らでも居ます。
他でもなく、彼の心に、優しさに触れたから、好きになってしまった。
辛いですね、人を好きになるというのは。
お兄様もお姉様も知らなかったのに、まさか私が恋を知るだなんて……。
「私なんかが、一緒になって良いわけないですよね……。こんな処遇の私じゃ、人を幸せになんてできないのに……」
私が想いを伝える事は、ミズヤを苦しめる事にしかならない。
それののに、何故私は彼を引き止めてしまったのでしょう。
仮に私と夫婦になったとして、幸せには、なれない……。
寂しい気持ちを胸に、ため息を吐く。
それから起き上がって、私は朝食を摂りに向かって行った。




