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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第五章:螺旋
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第22話:気持ち(※)

挿絵があります。

あまりうまく描けなくて「う〜ん」ってなってました。

 クオンは夜半に1人、湖を眺めていた。

 西軍基地から貧困街を抜けた先にある、林の中の湖。

 クオンはそこに訪れては、1ヶ月前のあの日を思い返していた。


 自分の選択は曲げない、それが受け継いだ信念だから。

 覚悟を思い出すだけではない、寂しさや悲しみもあるけれど、それを乗り越えて今の私がここにある。

 マフラーを羽衣としてまとい、神楽器を背負っている。

 でもラナのように神楽器の力無しで戦えるよう、イグソーブ武器を使った訓練も怠っていない。

 この区画に出る魔物相手に実践も行なった。

 徐々に力をつけている――その実感を得られるからこそ、次へ進んでいこうと思えていた。


 そんな彼女の元に、1つの影が舞い降りる。


「クオンっ」

「ん……よく来ましたね、ミズヤ」

「まーた抜けだすんだから……側近は大変ですにゃ〜……」

「ふふっ、すみませんね」


 プンスカ怒るミズヤを宥め、クオンはクスクスと笑った。

 側近であり、今では信頼の厚い護衛の1人。

 心配で要塞を抜け出してここまで来てくれるのも、嬉しい話だった。


「バスレノスの誇りは、ずっと守られたままです。中央はキュール、外回りはバスレノスと、領土は二分化されてしまいましたが……」

「でも、戦いはしない……よね?」

「キュール側は戦力が足りませんからね。こちらから仕掛ければ袋の鼠ですが、我々は戦わない、犠牲者を出さない」

「……だねっ」


 今のところはそういう風に話がまとまっており、キュールの政策は良くも悪くもないもので、今は干渉せず見守る形を取っていた。

 皇族の仇を取るようなことはしない、それでは先のレジスタンスと同じ事を繰り返すだけ。

 悲劇を繰り返すことほど悲しいことは無いのだ。


「……ひと段落、だよね?」

「そうですね。ここまで来るのに、いろんな感情に流されそうになりました。しかし、信念ってそんな簡単に曲がらないものですね」

「クオン、見かけによらず意地っ張りだもんね?」

「見かけによらずは余計ですっ」

「あはは……」


 軽口を叩きながら、2人は湖の側で腰を下ろした。

 静かな夜の中、星の瞬く素敵な夜の下で、美しい月が反射する水面を眺めていた。


「……ねぇ、クオン?」

「なんですか?」


 ミズヤは一拍おいてから、こう呟いた。


「僕、アルトリーユに行くね」




 ◇




「……はい?」


 私は何も考えず、ただ聞き返してしまった。

 彼が言っている意味はわかるはずだったのに、なんででしょう。

 伝わらなかったと思ったのか、彼はもう一度言った。


「僕、アルトリーユに行こうと思うんだ。クオンの問題はひと段落ついたし……僕が居なくても大丈夫になったと思う。だから、いつまでも待ってくれてるサラに会いたいと思って……」

「……そう、ですか……」


 私は愕然として、ポツポツとしか相槌を返せなかった。

 助けてくれたあの日から、ミズヤは当たり前のように側にいて、幼さを見せる時もありながら酷く落ち込む時もあって、苦楽を共にして来ました。

 いつも側にいて、離れる事なんて考えてなかった。

 だからなんでしょうか、とても悲しい……。


「……辛い、ですね」

「今生の別れってわけじゃないよ……。本物のサラとも会って、お話しして、向こうが落ち着いたら、また会いに来る」

「……ええ。……そうです、よね……」


 何故か、喉が詰まったかのような感覚でしか言葉が出なかった。

 彼が離れて行く理由も前からわかっていた事で、当たり前な事なのに。

 どうして、それがこんなに辛いのでしょう?


 ミズヤが居なくても、私は1人じゃない。

 ケイクもヘリリアも居る。

 厄介になって居る西軍の皆や善幻種のナルー様も居る。

 少なくとも悪い環境ではない、それなのにどうして私は――。


「クオン」

「……え?」

「そんなに、辛そうな顔しないで……」

「…………」


 考えが表情に出てたらきく、ミズヤは悲しい表情で私に囁いた。

 なんでこんなに、胸が痛いのでしょう。

 私が彼を悲しませる、そんな事、したくないのに……。


 彼と過ごした日々が走馬灯のように駆け巡っている。

 貴方に助けてもらって、私の事を友達として扱ってくれて、楽しい日々を過ごしながら、貴方の過去に触れていって……。

 楽しい日常も、辛い戦いも、苦しい時も、貴方が隣に居た。


 そして、私が落ち込んだ湖のほとりで――貴方が私を助けてくれたから――。


「――好きです」


 その言葉は、自然と口に出てしまっていた。

 私自身驚きもあり、ミズヤも口を開けて驚いていた。

 それでも、この気持ちと想いに嘘はない。


 貴方が居てくれて嬉しかった。

 貴方の言葉が嬉しかった。

 貴方のおかげで私は成長できた。

 まだまだ幼く、心の弱い貴方だけれど、必死に私を支えてくれていた。

 そして1ヶ月前、湖で挫けていた私を救い出してくれた。

 私は、あの頃から貴方の事が好きだったのかもしれません。

 忙しくて、努力して、自分の気持ちを考えなかったけれど――。

 今は、はっきりとわかる。


「私は――貴方が好きなんです。だから、行かないでください」


 まっすぐな思いで、そのままの言葉を彼に伝えた。

 眼前に居る彼は、キョトンとして動かなかった。



挿絵(By みてみん)





 ◇




 あれからどう言うことも出来ず、ミズヤは自分の部屋に戻って来ていた。

 置いて行ったサラは既に眠り、ベッドの側で丸くなっている。

 ミズヤもベッドに体を沈ませると、独り言を呟いた。


「どうしよっかなぁ〜……」


 それはクオンに対してどう接するかとか、自分がアルトリーユに行っていいのかとか、そう言う気持ちの表れだった。

 サラの気持ちを裏切ってクオンの側にい続けて、この場所にずっと居る事は将来幸せかと言われたらわからない。

 国の事が絡めば複雑になるだろう。


「でもねこさんに嫌われたくないしなぁ〜……」


 サラの気持ちを無下にすることは、彼女の十数年を無駄にすることに等しい。

 そんな悲しい思いはさせたくない。

 ならば逆に、クオンの気持ちを蹴るのか。

 クオンの告白にごめんと回答し、アルトリーユに行く事もできる。

 北大陸に行きにくくはなるものの、サラと幸せに暮らせる可能性も――


 というのは全くの未知だった。

 アルトリーユがどういう国で、サラと再会した場合に何が待ち受けてるのかもわからない。

 易々(やすやす)ブラックボックスに飛びつく事は出来ないのだった。


「…………」


 ゴロンと寝返りを打って、目の前でまるまった金毛の猫を眺め、ミズヤは固まる。

 アルトリーユに行ったらどうなるのか、それを聞いた方が良さそうだ。


「じゃあ、おやすみ、サラ……」


 眠る猫の体を撫で、ミズヤも眠りについた。

 話を聞くのは、また明日――。




 ◇




「…………」


 まったく寝る事ができず、朝が来てしまいました。

 何故あんな告白をしてしまったのでしょう、今になって恥ずかしさが押し寄せて来て眠る事も敵わないなんて。


 ミズヤは笑うと可愛くて、でもいつも頼りになる。

 見かけの割に筋肉が引き締まっていて……。


「…………」


  バカな事を、そんな人なら幾らでも居ます。

 他でもなく、彼の心に、優しさに触れたから、好きになってしまった。

 辛いですね、人を好きになるというのは。

 お兄様もお姉様も知らなかったのに、まさか私が恋を知るだなんて……。


「私なんかが、一緒になって良いわけないですよね……。こんな処遇の私じゃ、人を幸せになんてできないのに……」


 私が想いを伝える事は、ミズヤを苦しめる事にしかならない。

 それののに、何故私は彼を引き止めてしまったのでしょう。

 仮に私と夫婦になったとして、幸せには、なれない……。


 寂しい気持ちを胸に、ため息を吐く。

 それから起き上がって、私は朝食を摂りに向かって行った。

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