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ツキは王を魅了する  作者: 小梅
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おじいさん

「おはよー」


「おはよう! 宿題やってきた?」


 ガヤガヤと騒がしい声が耳に届く。


 あれ……? 私、何していたんだったけ?


 周りを見渡すと話しながら歩く制服をきた学生達がたくさんいる。 

 自身を見ると周りの学生と同じ制服姿だ。


「懐かしい……」


 懐かしい? どうして?


 目の前には2-1とかかれている教室。


「あ……そうだ。 ここ、学校だ」


 いつものように学校に登校しただけのことなのに何であんな風に思ったんだろう。


「現実逃避したかったのかな……」


 ゆっくりと教室に足を進めるとさっきまでガヤガヤと騒がしかった教室がシーンと静かになった。

 でも、これはいつものことなので驚かない。


「おはよう」


 自分の席まで歩くと隣の席の子に挨拶をしたが無視されてしまった。


 そして、いつもどおり机の上にはマジックで色々書かれており、花瓶まで置かれていた。


 クスクスと笑い声が聞こえる。


「笑っちゃダメじゃーん」


「だってー」


 このクラスのリーダー的存在の女子生徒達が私のことを見て笑っている。


 それを無視して席に座る。


「あれー。 反応ないよー」


「なんでー」


 座ったがどうやら何も反応しなかったのがいけなかったようで彼女達は大きな声で「どうしてー」と言いながらクスクスとこちらを見て笑っていた。


 そして、授業中でも教科書を読むだけで何がおかしいのかクスクス笑う彼女達。


 他にも……紙屑を頭に投げられる。


 いつも、いつも、いつも……。

 何で私だけがこんな目に合わないといけないの?


 誰か……誰でも良いから助けて……。


「姉さん!」


「海里……?」


「姉さん、行こう!」


 そう言って海里は私の手を引いて走り出した。


「えっ! ちょっと待って! どこに行くの!? 学校は? ねえ、待って! 待って、海里!」


 海里の背を見ながら叫ぶが一切走るのをやめない。

 そどころか何度名前を呼んでも振り返ることもなく前を向いて走り続ける。


 そして、息が止まりそうになってやっと止まった。


「……バス停?」


 どうしてバス停にきたのか全く分からない。


「ねえ、海里?」


 海里は私の手を離すことなくそのまま引きながらやって来たバスに乗り込む。


「あれ……私制服じゃない」


 窓に映る私は制服を着ていない。 それどころか子供の私ではなく……大人?


「姉さん」


「海里! 一体どうい……う……」


 目の前に立っている海里も子供では無く大人だった。

 背も私より遥かに高くなっていた。


「姉さん……ごめんね」


「えっ……」


「守れなかった」


 項垂れる海里の頭をゆっくりと撫でる。


「守ってくれたよ……こうして教室から連れ出してくれたじゃない」


 彼は私が『助けて』と思った瞬間現れた。


「立派に助けてくれたよ」


「違う……違うよ……」


「え……」


 撫でていた海里の頭の感触がなくなっていく。


「なんで……っ!」


 それと同時に真っ赤な真っ赤な花びらが目の前に舞いて落ちていく。


「海里!」


 海里の身体が徐々に花びらになり消えていっているのだ。


「姉さん……」


 花びらになっていく海里に抱きしめられる。


「海里! 海里!」


 どうして! どうしてこうなっているの!


「姉さん……気をつけて」


 その言葉を最後に海里は花びらになって消えた。


「海里? 海里ーーーーーーーー!!」


 彼の名前を叫ぶ。

 そして目の前が真っ暗に染まった。


 ※※※※


 ガシャン、ガシャン。


 耳元で鎖が擦れる音が聞こえて来る。


 はっとして目蓋を持ち上げ目を開ける。


「海里……?」


 しかし、残念ながら目の前には探し求めた彼の姿はなく首と手首に大きな鎖がついた人達が何人か座っていた。


「ここって……あっ!」


 思い出した……。 生贄として魔法陣の中に放り込まれたんだった……。


 ガシャンと近くで音が鳴る。

 どうやら自身にも同じように手首と首に鎖がついているようだ。


 ゆっくりと身体をおこし、状況を理解しようと頭を動かすがうまく働かない……。

 そして、気づいてしまった。 頭では拒否していたことに。


「海里? 海里は?!」


「海里……というのは君と一緒にいた男の名前かい?」


 その声がする方に顔を向けると見た事がある人だった。

 同じバスに乗って異世界にやってきたおじいさんだ。


「おじいさん……」


「よっぽど大事なんじゃな」


 彼の目はこの場に似合わず優しげだ。


「……はい。 弟なんです」


「そうか……姉弟だったんじゃな。 そういえば彼の方は君のことを『姉さん』と呼んでいたな」


「……でも……きっ切られちゃって」


 涙によって目が霞んでいき、おじいさんの顔もぼやけていく。


「お嬢さんや泣くでない」


 おじいさんは手首に鎖をはめられながら器用に手を動かしポケット中から何かを取り出してこちらに渡す。


「涙を拭きなさい」


 ハンカチだった。


「ありがとうございます」


 受け取ったハンカチで流れる涙を拭いていく。

 でも海里のことを思うと拭いても拭いても溢れてくる。


「ぐすっ……かいり……」


「お嬢さんやよくお聴き」


「…………」


「君の弟さんは生きてるよ」


「えっ……」


 彼の目は嘘を言っているように見えない。


「あの王子様は連れてきた皆を生贄と言っていたな?」


 その彼の言葉で思い出す。 確かにあの王子は言っていた。


「だから大丈夫。 きっと切られた場所も治療されてここにわしらと同じように生贄として送られる」


「生きている……?」


「あぁ」


 海里が生きている? 大丈夫?


「だが……どちらがいいんじゃろうな」


「えっ……?」


「これから何が起こるかわからない。 死よりも恐ろしい事があるやもしれぬからな……」


「おじいさん……」


 確かに彼の言う通りなのかもしれないが……今は……。


「でも、今は……」


「しかし……生きていると良いこともあるのは確かじゃ」


「…………」


「お嬢さんや君は……」


「おい、そこのじじい! 来い!」


 この部屋の奥の扉からフードをかぶった人が一人、入って来たと思ったらおじいさんの鎖を引っ張って連れて行こうとする。


「おじいさん!」


 必死に呼ぶ声は「うるさい!」と怒鳴られた。


 おじいさんが扉の前で立ち止まり私の方を見た。


 そして彼は言った。


「生きなさい。 君はこのじじいの分まで何があろうと永く、永く生きなさい……そして弟さんに会えるまで足掻きなさい」


 彼の目から私と同じように涙を流しながら私を見てニカッと歯を見せて笑った。


「何を話しているさっさと歩け!」


「おじいさん!」


 そして彼らは扉から出て姿が見えなくなった。


 涙が止まらなかった。 おじいさんから貰ったハンカチをギュッと握り締める。

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