おかえりたぬき!!
ーオヤジ視点ー
疑ってもいなかった…。
いや、それは嘘だ。
アイツが、何処か違う奴だと最初から分かっていたのだ。
心の何処かで知らぬフリをしていただけで…。
巨人となり見下ろした俺の見たものは…。
身体の透けた人間。
小柄なその男は、人柄の良さそうな笑顔でキョロキョロしている。
話す言葉は理解出来るが。
知らぬ言葉だ。
周りに妖精族が集まって来ていた。
思いはひとつだ。
何処か遠い目をした彼に不安が募り、思わず名を問うた。
『ケンイチロウ』
喉の奥に苦味が溢れる。
この世界と全く違う響きを持つ言葉による名前…その意味。
焦る俺の心を察するかの様に鳥たちが集まって来た。
妖精族だけじゃない。
様々なモノに想われているんだ!!
分かっているのか?!
舞う羽毛の中に見える不思議な風景に背筋に冷たいモノが走る!!
「タヌキーーー!!!」
渾身の力を込めて叫んだ。
帰らないでくれ!!
お前が必要なんだ。と…。
不思議な風景の方へと目を向けようとしていた彼の輪郭が崩れ始めた。
身体が、小さくなったその後に現れたのは。。。
タヌキーーー!!!!
妖精族も鳥たちも周りで騒いでいるが関係ない!!
走り出した俺は力一杯タヌキを抱きしめた。
「ん?
オヤジってば、嫁さんと間違えたな。
もう!!
おっちこちょいなんだから。」
いつものタヌキの台詞にどれほどホッとしているかは、顔を伏せて抱きしめているからバレない。
おかえり、タヌキ!!
ーとある呟きー
『ふふふ。
我の与えた『赤い糸』が役に立った様だな。
だが、それの持つ真の力を知るのはまだ、少し先かの…』
その呟きに気づく者はなかった。