『巨人族の国』へ
ーオヤジ視点ー
久々の『巨人族の国』
大岩で出来た門は、来たものを圧倒する力を持つ。
遥かな昔、まだ巨人族が信じられない大きさだった頃海の中から大岩を持ってきて作ったと言われている。
まぁ、信じてる者は『巨人族の国』と言えど少ない。
それほどの大きさだ。
当然、少し前までは俺も信じてなかった。
だが…。
あの先祖返りのカラの姿を見れば納得がゆくが。
まぁ今はたぬきと遊ぶ為にまた小さくなっているが(本当は身分を隠す為だろうが、な)
そんな事を考えている間に門兵の前まで到着した。
これまでも数度、この国を訪れている身だ。
まぁ、今回はカラも同行しているから何の問題も無い。
そんな風に思っていたのだが…。
「魔法使いゼルグフ殿ご一行様。
検査場へお越し下さい。
武器類は、こちらでお預かりします」
何と…。
魔法棒まで提出を求められた。
あり得ない…。
躊躇う俺に、槍を突きつける門兵にカラの顔色が変わった!!
怒気を含んだ身体が巨大化しようとするのが分かり目配せを送る。
例え、取り上げられようと、この魔法棒は特殊なモノ。
俺以外に扱える者もいないし、傷一つ付ける事も出来ぬ特殊品なのだ…あの日から、な!
真っ直ぐ門兵へ差し出すと魔法棒が僅かに光って門兵が更に槍を喉元へと突き上げる。
いや。
俺じゃないから。
魔法棒がな、勝手に…。
と、言いたいが聞く耳は無いな。
魔法棒自体も、コッチに従う気がないし。
(こうなると手がつけられないのだ…)
「ぴぃーーーー!!!!」
警報笛が鳴り響き検査場はたちまち大勢の兵隊に囲まれる事態となる。
いよいよ、危険と察したカラが身構えたが、やはり止めた。
そう。
何かがオカシイからだ。
この国を知る人間としては、考えられないのだ。
元々『聖者の塔』に最も厚く信頼されている王族を持つ。魔法使いにとり大切な国なのだ。
魔法棒が魔法使いにとりどんなに重要か。
手放す事など考えられないと知らぬはずもない。
と、なればだ。
まさかのクーデターか?
この国でクーデターとは考え難いが、だとすればカラの身バレは致命的だろうと俺は考えたのだ。
しかし。
事態は悪化の一途を辿る。
魔法棒は、更に強く光を放つし。
兵隊の怒号が酷くて、耳が痛い。
ため息すら出るこの状態で、それまで腕の中で寝ていたタヌキが起き出したのだ。
不味いぞ…。
タヌキの登場は、更なる困難の予感しかしない。
誤解を招く天才なのだから…。
「オヤジ!!
連絡係が気を利かしたゾ!!
もうすぐ到着するから!!」
へっ?
登場??
まさか…グラセルか??
グラセルを知らぬ人間はいまい。
それほど昔から魔法道具作りの天才として名を馳せていたのだ。
もし。
魔法使いに対する敵対意識が高まっているとしたら更に危機的状況では??
。。。
「タヌキよ。
気を利かした連絡係に無理するなと伝えてくれないか?」
キョトンとしたタヌキの顔。
これは…あーーーー、やっぱり。。、
「来たよーー!!
遠慮深さは違う場面で活躍させなよ。
もう、オヤジはな!!
あ、コッチだー!!」
周りの混乱は、手に取る様だ。
だいたい、パパラヌをペットして旅する人間など。いや、ペット自体無いな…。
更に言えば、喋るパパラヌなど論外だしな。
グラセル…。
すまん。
無理な頼みをしたのだな。
光る小鳥に楽々と掴まれたグラセルが窓から運ばれて来るのも驚きだが。
ソレは何だ??
防具の基本は、鎧だろう。
マントも無くはないが、金色はな…。
しかも、その蝶々の様な形は?
「おぉ、金色の蝶ネクタイか。
まあ、合格かな。
袈裟には、必要だしな。
それにしても、それを巻きつけるのは大変だな、オヤジ!!」
ゼルグフが着地をするのを阻むと思われた兵隊達は全員、固まっていた。
物理的に。
着地と同時に解けたらしい兵隊の一人が槍を突きつけたその時!!
パンパカパーン!!
ん??
盛大なファンファーレがマントから鳴り響き、槍は花吹雪となった。
花吹雪??
いや、見たまま喋ったけど俺もついてはいけないよ、タヌキ。
「現実に帰れよ、ゼルグフ。
俺はこれの連続技に遭っていたのだぞ!
この防具は、この通り無敵だよ。
何が来ても、この有り様さ」
最後の言葉は、小さくて聞こえ難い。
窶れたグラセルの様子にひたすら同情した。
分かる…よ。と
蜘蛛の子を散らした様に人っ子一人居なくなった検査場から俺たちも脱出した。
とにかく、この国の状況を把握する為に。
(本心は、この防具の状況を把握する為に…だけどな)