ジャンセの独り言…。
このお話は少しコメディから逸れております。
次話は、またいつも通りのたぬきの活躍するコメディとなります。
暴走するたぬきのお話をお読み下さる皆様にいつも感謝して書き進めております。
また、ご一読くだされば幸いです。ちかず
ージャンセの独り言ー
こんなはずじゃなかった…。
英雄・勇者・ヒーロー。
どれも、憧れのモノで自分がその立場になれる!!って理解した時の感動は忘れられない。
だが…。
当然だが、小説の様な展開など現実には無い。
戦いは…
血が出る。
猛烈に痛い。
そして何より恐ろしい…モノだった。
自分の持つ能力は理解出来ても、恐怖に打ち勝つのは全く別物だ。
だからこそ。
アイツが羨ましかった。
負けない気持ちで立ち向かう魔法使いは、いつでも怯まない。
奴は知っていた。
自分の後ろには、無力で普通の人々が居ると言う事を。
だからこそ、背を向ける事もなく立ち向かう。
言葉にすれば当たり前。
だが…。
無蕾檄龍と言う化け物。
巨大な身体から放たれる無数の覇気に圧倒された。
敵わない。
いや、殺られる。。。
そして…
後の事は、今では誰でも知る事実の通り。
。。。
しかし!!
俺だって今まで沢山の人達を救ってきたんだ。
だから。
他の国へ行けば何とかなる。
そう、考えた。
理解してくれる人は居る、と。
ま、現実はそれこそ甘くはない。
この世界で味わう初めての流浪の日々。
尽きるお金に、幾つもの縁も切れてゆく…。
唯一の味方は、仲間だ。
俺に付いてきている仲間のみ。
そんなある日、風の噂を聞いた。
『聖者の塔』が復活した。
そして、それが奴の尽力によるモノだと。
顔を赤らめ興奮して話す人々に不意に込み上げる虚しさと恨めしさ。
そうだ。
奴だけが幸福で良いはずは無い。
そんな考えを仲間達は止めたのに、俺は止まらなかった。
それどころか、なんと俺の目の前に鴨ネギが来たのだ。
奴の狸と子供のみとなる。
そんな情報…。
その情報を知った俺は、やるしかない!!
そんな気持ちに駆られて…。
そして今だ。
宿屋で満身創痍の仲間と共に、先祖返りを果たしたカラと今や世界最高の力を持つ魔法使いのゼルグフに見張られる。
突き出されれば、アウトだ。
いや。
もう、詰んだのだ。
せっかく…夢のような…
「んー。
この小鳥ってば、天使の輪のようだな」
!!!!!
今何と…。
狸。お前まさか…。
天使などこの世界に存在しないのだ。
もしかして、俺と同じ…。
「おい、ゼルグフ。
コイツらを早く突き出そう。
この部屋が狭くて困る」
カラの呟きに思考が中断する。
遂に…。
「ダメだよ。
もう、大切な馬車会社の人だよ。
お嫁さんは、大根の馬車に乗って来るんだよ!!
ん??
あ、間違えた。
瓢箪だっけ?んー。あ、わかった。
胡瓜だ。
だから、ちゃんとしないと。
ほら、おにぎりあげるから、暴れん方の偽巨乳を許してね。」
。。。
色々ツッコミ処だらけだけど。
お握り。
最後のご馳走になるやもと、有り難く手にとり食べると。
何と…全回復?!
気づけば、仲間の千切れかけていた腕も元通りとは…。
本当の○○は、俺ではなかったのか?
唖然とする俺たちを、ゼルグフがあっさり解き放つ。
捨て台詞と共に。
「何度来ても返り討ちにするが、無駄は止めるんだな。
タヌキが、お前に何を望んだのか分からないがソレは忘れろ。
とにかく、何処へでも行け!!」
カラの制止を振り切り、奴は俺たちを宿屋から追い出した…。
呆然とする俺の目の前に、仲間たちが立つ。
そうか…。
とうとう、お前たちも俺を見捨て…。
「ジャンセ。
お前は、英雄でも勇者でも無いんだよ。
普通の人間だ。
だけどな、俺たちにとっては命の恩人でもあり、幾度も戦いの中にあって助け合った仲間だ。
これからもついてゆくさ。宜しくな」
暖かな手のひらが肩に置かれて、初めて血の通ったこの世界の人間となった。
そんな気がした…。
ーグラセル視点ー
やっと着いた…。
あの袈裟を一人きりで持ち無事たどり着いた。
しかし。
一人で奴と対峙するのは…、
あ!
「良いもん持ってるな!!
貢物とは、お前もようやく出来る奴になったな。まあ、コレは貰っておくから安心して下山しろよ!!」
袈裟ーー!!!
手癖の悪さは、天下一品。
天上天下唯我独尊。
しかし、防具を作らせれば叶うモノとて無い。
コレから向かう場所を思えば頼る他ない。(何故か俺まで巻き込まれていて、超迷惑だが…ザリ様相手では…)
袈裟を軽々と持つ奴を見て、やはりと感心しつつも。
既に家の中に逃げ込まれ、後手に後手に。
ドンドンドン!!!!!
「お前、いい加減にしろ!!
お客のモノを盗むな!!
お前のモノでも、俺のモノでもない!!
それは…」
言いかけた所で空の上から、キラキラした光が降り注ぎ一人固まった。
アレは??
金色の小鳥が、光を撒き散らしながら俺の頭上を飛んでいた。
目が点の展開は、この後更なる混沌を生み出す事になる。
そして…
もう、どうにでもなれーー!!!
誰も聞かない俺の叫びは山々を木霊する事になるのだ…。