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竜の住む街  作者: 瀬田まみむめも
第五章 竜の住む街
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「車からごめんなさいね。流子の母です」

 頭を下げる車の中にいる女性。

 ゆったりとして口調で、上品さを感じさせるような声だった。

 立田川の母というだけあり、声は立田川にとても似ている。

 正直な感想で言えば、俺の母親より若さを感じるほどだ。

「お母さんです」

 ドアの横に立って、自慢げに自分の母親を紹介している立田川。

 お兄さんはと言えば、ちょっと吹き出して、何か言いたげではあったけど特に口を挟むようなことはしなかった。

「会話はだいたい車内から伺ってました。本当なら、ここから車から降りるべきなのですが、こんな身体なので」

 と母親さんは自分の着物の足の部分を持ち上げて、そのまま離す。

 着物の生地しか無いから、どこまでも持ち上がって、解放されると重力に従って落ちていく。

「いえいえ、気にしないでください」

 その身体で無理してもらっても困る。

 横のリンや柏木も同意するように頷いている。

 立田川やその家族を見る限り、綺麗な人しかいない。

 どこか人間離れしたような雰囲気、美しさがある。

「皆さんのお名前、伺ってもいいですか?」

 母親さんが俺たちに向けて微笑みかける。

 そう言えば、インターホン鳴らした時、名乗らせてもらえなかったんだよなぁ。

「俺は荒谷 珠希です」

「あなた……流子の事を心配してくれて来てくれた方ですね」

「あ、はい」

 ただ、名乗った覚えはない。

「でも、なんでそれを」

 インターホンを鳴らしたことは覚えていてくれたんだ。

 でも、カメラのないインターホンで顔は見せていないはずだ。

「別の場所にカメラを設置してて、それで顔を伺ってたので。あの時は、ごめんなさいね……もうご存知でしょうが、あの日は流子が竜の姿になる日で。どうしても、人を通すわけにはいかなかったもので」

「いえ、俺は気にしてません。俺の方こそ、勝手にいつも侵入してて……」

「ええ、それも何度も見てました」

 わー……。

 やっぱり、カメラって監視カメラですよね。

 母親さんはニコニコしてくれているが、内心どう思っているのだろうか。

 認知された上で、見逃してもらってたのか。

「あの門の隙間をわざわざ通って、何度も来ていたのを見る限り、問題ないと判断しました。敷地の中にはカメラがないのでどういうやり取りをしていたのかまではわからないですが、楽しそうな流子を見る限り、良くしてくれていたと想像できます」

「別に、俺は何も……ところで、あの隙間って、わざと開けてあったんですか?」

「そうですね。塞ごうと思えばいつでも塞げるのですが、せっかくなのでそのままにしてあります……ね、リンさん」

 そう言って、リンに矛先を向ける。

 どうしてか目をそらしていたリンの身体がビクッと震えて、向き直っていた。

「あなたが、成鐘 鈴さんですよね」

「はい。い、いつもお世話になっています」

 いつもお世話になってるわりに、母親の姿を見てビックリしていたようだったけど。

「姿を見せるのは初めてでしたね……家まで遠いので、ご足労してもらうわけにはいかず、だからといってこんな身体なのでいつもお顔出しができてなくて」

「いえいえ、そんなお身体なんて知らなかったので……流子とはいつも仲良くさせてもらってます」

「いつもありがとうございます」

 もしかすると、ここに来る時、リンは竜の姿の立田川としか会ってなかったのだろうか。

 そうなると、お兄さんや母親さんとの面識が無くても仕方がない。

 そして母親さんが続ける。

「せっかくだからあの隙間を残していたんですけど、結果としては良かったみたいですね」

「ええ、まあ……私が勝手に作ったあの穴ですけど――」

 リンが作った!?

 確かに随分と隙間が細かったんだが、リンのサイズだったからか。

「いい結果になってよかったと思います」

 俺と同じように会いに行ったって言ってたけど、この穴を開けるところからリンはやったってことなのか。

 それから侵入を重ねて立田川と仲良くなったのであれば、それはとんでもない努力である。

「それで、あなたは……?」

 最後は柏木だ。

「えっと……柏木 涼牙です。今はクラスメイトなんですが……」

 歯切れが悪いが、まあしょうがないだろう。

「小学校の時に、立田川にひどいことをしてしまったのはオレです。本当に申し訳なかったです」

 深々と頭を下げる柏木に、母親さんは驚いていたが、すぐにニッコリと微笑んだ顔に戻る。

「頭を上げてください。ここにいるってことは、流子と仲直りしたんじゃないですか? 確かに過去に行ってしまったことは、今になってなかったことにはできませんが、仲直りできたのであれば、これからも流子と仲良くしてあげてください。よろしくお願いします」

「はい!」

 立田川の母親さんは全てを受け入れるようなそんな人だった。

 インターホンで会話をした時は、とんでもない人だと思ったが、実はこんなに優しい人だとは思わなかった。

「それで、どこからお話しましょうか……。まずは、流子が竜になる事情は皆さんご存知のようなので……我々の体質についてお話しましょうか」

 立田川がどうして同じ時期になると姿を見せなくなるのか。

 ……いや、何故竜の姿になってしまうのか。どうして、家族も身体の一部が竜みたいになっているのか。

 これからそのことついて、立田川の母親から教えてもらえるのだ。


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