拝啓、電車へ Pt.2
自殺
… ふざけんなよ、って思う。勝手に終わらせやがって、なんで残されたこっちは地獄みたいな後始末を全部背負わなきゃいけないんだよ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
だから自分勝手なガキは嫌いなんだよ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は田舎で静かに生まれた。小さい一軒家で周りは田んぼに囲まれているような所だった。
食べ物は地元のスーパーで買えたが、服やおもちゃを買うときは電車に乗って街まで行かないといけなかった。小さい頃の俺は電車に乗ることが大好きだった。何もない田舎だからこそ、未来的な乗り物に強く心を奪われた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
学校に通い始めると、電車の運転手を目指すようになった。友達や先生、両親は俺の夢を応援してくれた。そのことが何よりも嬉しかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
友達と外で遊ぶことが多かった。木の影に座り込み、足音が通るたびに息を殺した。俺は隠れることが得意で鬼が降参するまで絶対に見つからなかった。
家に帰ると服はボロボロで泥だらけだった。その度に俺と母は電車で街まで行った。座席に膝立ちして外を眺めているのが大好きだった。木や建物がものすごい速さで通り過ぎていくのが面白かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
中学生の頃は、休日に友達と集まって電車でカラオケやゲームセンターに行った。みんなで座ってると無意識に電車の話をしてしまう。そんな俺をみんなは不思議そうな目で見ていた。だけど誰も俺のことを馬鹿にしないで、むしろ俺の知識量を「すげえ」と言ってくれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
工業高校を卒業した俺は街の方に出て鉄道会社に就職した。駅員を約二年、養成所で約一年過ごした俺は試験に合格して動力車操縦者運転免許を取得した。俺はようやく夢を叶えられた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
運転手になり長い時間が経った。俺は今でも現役で仕事を続けている。今だから言えるが、俺にとって電車は友達だと思っている。ここまでやり遂げることができたのは電車のおかげだ。小さい頃電車を見たから、電車に乗ったからここまで頑張ることができた。だから電車に感謝している。
今日も電車を操縦している。発車のベルが鳴るたびにハンドルを握る手に力が入る。俺は仕事を辛いものだと思ったことはない。さて、今日も頑張るか。お客様を目的地まで運ぶぞ。そう意気込んだ日、人を轢き殺した。若い男だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は人を殺した。なのに無罪になった。前科を背負うことは免れたが、代わりに一生消えない罪悪感が深く刺さった。あの男は死んだ後、俺の背中に刃を刺したんだ。
「だから自分勝手なガキは嫌いなんだよ」
人を殺した罪悪感ではない。電車で人を殺してしまった罪悪感だ。俺に夢を見せてくれた電車を自分自身で汚してしまった罪悪感だった。車体に付着した血は俺の苦しみと同じ色をしていた。
この罪を償うための方法は一つしかない。
ロープで輪っかを作り、天井に吊るす。輪っかから見える俺の部屋は罪悪感が漂っていた。
「拝啓、電車へ
俺はあなたに感謝しています
あなたのおかげで俺は夢を見れました
あなたと共に仕事ができて、俺は幸せでした
だから、最後に俺のお願いを聞いてください。」
輪っかに首を通して、立っている椅子を蹴る。
「俺を許してください。
俺はあなたを汚してしまいました
そんな俺をどうか許してください。」
汗が滴り落ちて、俺の足元には水溜りができている。
「あなたと出会うまで、俺は生きた心地がしてませんでした。」
気持ち良いくらいに首が締め付けられている。
「そして神様、お願いです。」
意識が遠のいていき、体の震えも止んだ。
「来世では、お金持ちの家に生まれたいです。」




