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21 エンゲルラントの王妃様は

「「ええっ!?」」


 重ね重ねの思わぬ知らせに、ヤーコプだけでなく一同全員が驚愕です。


「さっき、エンゲルラント国王からの使者が早馬を飛ばしてやって来たんだ。

 俺はその場にいて、使者が大臣に報告するのを聞いていたんだから間違いない!」


 興奮した召使いの説明によりますと。


 元々、この国の王はエンゲルラントに出征しており、そこで終戦となりました。


 その後、会議や調印のために王が先に帰国して、その後にエンゲルラント国王夫妻がこの城にやって来ることになります。


 王は兵とは別に、少数精鋭を率いて山越えをするルートで一気に帰ろうとしました。

 実際にはこの途中で、ガラスの棺の白雪姫を発見して未だその場に留まっていますが。


 それに対し、エンゲルラント国王夫妻は馬車を何台も連ねて、時間をかけて移動しています。


「何しろ王妃様もいらっしゃるんだ。何人もの侍女、召使い、お着替え、装身具にお気に入りの家具に鏡に小物、お供も荷物も大変なものになる──とは使者の弁だ。

 そんな大所帯じゃあ山なんか越せない。迂回する遠回りの道で何日もかけてゆっくり進むしかない」


 話好きらしい召使いは、身振り手振りを加えながら話します。


「ところが昨日の朝のことだ。

 ご一行は宿にお泊まりなさったんだが、朝になって、お妃様は運動したいとおっしゃった。ずっと座りっぱなしだから、少し周囲を散策して身体をほぐしたいと。

 王様も許可なさったんで、侍女と護衛を連れて散歩においでになった。

 王妃様は宿の庭を歩いていて、木の集まった茂みの中に入った。といっても大したことはない、5歩か10歩か進めば突っ切る程度の大きさだ。

 ところが、入ったきり出てこられない。

 お供たちは茂みをかき分けて探したが、いらっしゃらない。

 煙のように消えてしまったそうだ」


 誰もが驚いて、一言もありません。


「お供も護衛も総出で、宿の中も外も探したが、見つからない。

 今は、そこの領主の兵隊も借りて、あたり一帯を捜索しているらしい」


「……まあ、なんと不思議なこと。

 2つの国の王妃様が同時に災難に遭うなんて……」


 部屋の召使いたちが、がやがや話し始めます。


「ここの王妃様が亡くなったことといい、これは……悪魔か悪い妖精の仕業じゃないのか?」


「なにか邪悪な霊が、美しい女性を奪おうとしたってことか?」


「なんて恐ろしい!

 教会に訴えて、悪魔祓いをしてもらわないといけないわ!」


 不思議な状況に、皆は口々に驚きの声を上げます。


 ヤーコプは、報せをもたらした召使いに尋ねます。


「詳しいですね」


「使者から話を聞いた大臣も、驚いて根掘り葉掘り尋ねていたからな。それも聞いてたんだよ」

 

「なるほど。では正確な情報だと思っていいのですね」


 とは言え、これ以上詳しいことは聞けないようです。王妃の消えたのは城から早馬でも1日かかる遠い街で、今のヤーコプの身分では、そこまで行って事情を聞くなど到底できません。


「ところでエンゲルラントの王妃様はどのような方か、ご存じですか?」


 ヤーコプが尋ねますが、皆が首を傾げます。


「他の国の方だし、それもずっと戦争をしていた相手だから分からんなあ。

 うちのお妃様よりいくつか歳下だけど、絶世の美人じゃなかったっけ?」


 召使いの1人が声を上げます。


「俺は拝見したことがある。

 亡くなったわが国の王妃様とはまた違う、花のような朗らかな美しさだ。

 波うつ金髪に(すみれ)色の瞳、ほっそりしていて、背の高さは亡き王妃様と変わらないくらいだったな」


「おいたわしや。

 白雪姫に続いて王妃様、隣国の王妃まで……。

 国王陛下になんとお伝えすればいいのか」


 年配の召使いの嘆きを聞きながらも、ヤーコプはごく小さく独り言をつぶやきました。


「このエンゲルラント王妃消失事件が、まさか小人殺しや白雪姫の母の死と無関係なはずがない。

 だが、どういうことなんだ……?」




 その後ヤーコプは、首尾よく王を迎えに行く一行のメンバーに入れてもらえました。ヤーコプの交渉能力よりも、ヴィルヘルムが付与してくれた設定によるところが大きかったようです。




「ああ、ヴィルヘルムがそばにいないと調子が出ない……いや別にブラコンとかじゃないんだただいつも一緒に行動してるから違和感が酷いだけで….…ああヴィルヘルムの顔を見たい」


 ヤーコプは何やらぶつくさ言いながら随行し、2日かけて王のいる天幕にたどり着きました。

この話に登場する国々と主な人物


白雪姫の国

 この話の舞台。名前なし。

 白雪姫、パパ王、魔女であるママ王妃、7人の小人、狩人が住む。

 7人の小人と王妃が死亡した。

 三国の中で最も豊かな国だが、戦争でちょっと疲弊している。

 

エンゲルラント

 白雪姫の国と7年間戦争をしていた国。この度敗戦を迎えた。

 エンゲルラント国王夫妻が白雪姫の国の城に向かっているが、白雪パパ王の城に近い街で、王妃が行方不明になる。


ナハバーラント

 ドイツ語で「隣国」の意味なのでそのまんま。

 王子がガラスの棺に入った白雪姫に一目惚れした。

 王子はガチ恋だが、それはそうとしてナハバーラント国王ともども『白雪姫の国に攻め込んで併合支配できたらいいなあ〜』という色気がある。

 白雪姫の国とエンゲルラントが戦争で弱体化してるので、漁夫の利狙い。


 小人の家は、白雪姫の国の、三国の国境が接するギリギリなところにあります。

 そのせいで、王子が迷い込むわパパ王も通りがかるわで厄介なことに。

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― 新着の感想 ―
怒涛の展開に驚いてばかりです。 何となく白雪姫が現代に流布しているイメージ通りの見た目ではないことが鍵になるのかもしれないと思ったりしましたが、どうなのでしょうか……。
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