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若ハゲの至り ―その効果、髪のみぞ知る―  作者: 鈴木りん
第一章 【髪は天下のまわりもの】
17/17

1-6 初出動! でも、地球の人々は誰も僕に気づかない。これって何?(1)

「さて……テンシ君、ついにキミの初出動(はつしゅつどう)の日が来たようだ」


 近頃はダラダラと長い夏がようやく終わりかけた、9月下旬。

 自慢の特注戦闘スーツに身を包んだHAGE日本支部、特殊能力戦闘部隊長の拔田 真原(ぬきた まはら)が自分に納得させるように何度も頷きながら、一人孤独にモニター画面を睨みつつ感情コントロールの訓練を続けていた典史の横に来て、ぼそり、そう呟いた。


「ええ!? もう、出動ですか? いやいや、僕なんかまだ全然だめですよ」

「……そんなことはない。キミの感情コントロールは、一定のレベルまで来た。あとは、実戦で育てていく」

「いやいや、何を考えてるのかわかんない宇宙人相手に実戦で育てていくとか、マジありえないです。初戦でいきなりやられたら、どうするんですか!」

「……まあ、その辺は置いといて。“力”が残り少ないとはいえ、いざとなれば、俺がなんとかできる――かもしれんし。そんなことより、敵は渋谷にいるそうだ。これは我が組織自慢の優秀なレーダー監視員である“レイミ―”からの情報であるから、間違いない」


 途中から急に真顔になったマバラ隊長が腕を組みながら言った。

 典史は驚き、目を見開く。


「し、渋谷ですって? そんな人の多いところで宇宙人はいったい何をしようとしているんでしょう」

「そんなこと、俺にはわからん……宇宙人に訊いてくれ。でも、よく言うじゃないか――小石を隠すなら砂浜に、木の葉を隠すなら森の中に、とな。宇宙人を隠すなら、地球人の中に、だ」

「それってブラウン神父ですよね……!? っていうか、それ、使い方間違ってません? 宇宙人は地球人と違うんですから」

「何を言っとるんだ、キミは。侵略者は、我々地球人とそっくりな姿で(ひそ)んでいるんだぞ。いや、もとから同じ容姿なのかもしれないが……とにかく、そんなだから一般人は宇宙人がすぐそばにいることに、全く気付いていない」

「ふうん……そんなもんですかね。でも、潜んでいても何も悪さをしないなら、ほっとけばいいじゃないですか」

「そういう訳にはいかんのだ。宇宙人たちは、間違いなく『侵略者』だ。何らかの意図をもって、地球にやって来ている。いずれ、一般の地球人にもわかりやすい形で、牙をむくことになるだろう。あ、でも――最近はあまり出没はていなかったな。連日の猛暑日でめっちゃ暑かったし、さすがの地球外生命体も、温暖化中の地球の暑さにはかなわないのかもしれんな」

「ふううん……そんなもんですかね」


 典史が何得したのかしなかったのか、よくわからない返事をした。

 と、そのときだった。

 典史とマダラ隊長の元に駆け寄る、二つの靴音。


「よう、テンシ。ついに初出動なんだって?」


 それは、典史よりひとつ年上で副隊長格の29歳、コードネーム【ハエタ】こと生田(いくた)隊員だった。その横では、ニタニタと笑う23歳のコードネーム【ザビエル】こと臼井(うすい)隊員の姿もある。


「なんですか、二人とも。冷やかしですか」


 典史が、細めた目で二人を睨みつける。

 ハエタが右手を盛大に左右に振り、典史の言い分を否定する。


「テンシ……冷やかしだなんて、ずいぶんな言い方だな」

「ふん。……っていうか、コンビニ大丈夫なんですか? 今、社員が誰もいないことになってるでしょ」

「大丈夫っスよ、テンシさん。今の時間、そんなに忙しくないし。バイト連中で十分です」


 カツラで目立たなくはなっているが、おでこの上あたりが円を描くように“無毛地帯”となっているザビエルが右手をサムアップさせしながら言った。

 笑顔で続ける。


「いやあ、僕も初めての出動のときは緊張しましたよ。でも、まあ……なんとかなるもんです。ガンバレ、テンシさん!」


 そんな、コンビニ制服を着た仲間からの温かい言葉を喜ぶどころか、目をひくひくさせて怒り出す典史。


「ザビエル……。今、僕を(はげ)ましたよね? はげました(・・・・・)よね! 語呂(ごろ)が悪いから、それはやめてくれと前にも言っただろう?」

「あ、そうだった! すんません、すんません。でも……それじゃあ、オレたち会話はできませんよ」


 励ます→ハゲマス→ハゲ増す、という言葉のつながりが嫌だという典史に、ザビエルが肩をすくめる。


「でも、僕は本当に宇宙人と戦えるんだろうか……」


 急に今の状況を思い出した典史が、視線を落として不安がる。

 そんな典史に、高身長で180センチはあるハエタが先輩面(せんぱいづら)しながら見下ろして言った。


「キミの訓練を何回か見させてもらったが、もう大丈夫だと思うぞ。存分に戦ってこい」

「お、マバラ隊長ばかりか、組織“()()き”戦士のハエタさんからも、“お墨付き”が出たじゃん! テンシさん、もう絶対大丈夫っスよ!!」

「うるさいぞ、ザビエル! 誰が生え抜きじゃ。その言葉は折角生えた髪が抜けそうで“縁起が悪い”から俺の前では絶対に使うなと、何度も言っておろうがっ!」

「す、すみません。そうでした、そうでした……。いや、この組織、ホント話しづらいっス……」


 カメのように首をすぼめ、恐縮するザビエル。

 会話の途切れた瞬間を見て取ったマバラが、典史の肩に手を置き、声を掛けた。


「もう、初出動のはげまし……いや、応援は充分だろう。そろそろ、出発するぞ」

「……はい」


 典史は一度大きな息を吐くと、訓練用のパソコンとモニタの置かれた机の抽斗(ひきだし)から、訓練用ではない、本番の戦闘用に支給された“孫悟空ばり”のヘッドギア風パワーフィクサーを取り出した。


「これでいいんですよね?」

「ああ、その通りだ。もう、(かぶ)っておけ」


 額の上が環状の金具でキュッと締まった。

 メガネレンズのようなものが典史の視界に現れ、その右下には4桁ほどの数値が現れる。聞くところによれば、そこには敵の“戦闘力”なるものが表示されるらしい。


「これでいいですか? 他に身に着けるものは?」

「ない。それでよい。さあ、出発だ!」


 そのとき、育毛サロン受付にいるはずのコードネーム【ひーな】こと、中村ひなたがHAGE日本支部の部屋にやって来て叫んだ。


「ちょっと! この子のこと、忘れてるよ!」


 見れば、彼女は茶色いトイプードルを一匹、胸の前で抱っこしている。

 何のことかわからずに盛大に首を傾げる典史を他所(よそ)に、マバラは忘れていたとばかりに、ポンと手をたたいた。


「ああ、そうだったそうだった。渋谷だもんな。そういう人の多い場所でこそ、(ワンコ)は必要だ」

「そうよ、そのとおり。はい、テンシ。この子の名前は“チル”。よろしくね」

「トイプードル? チル?? 一体どういうことですか。僕が連れてくの?」

「あれ、まだ話してなかったっけ?」


 ひーなから無理矢理に渡された小型犬を抱っこしつつ戸惑いを隠せない典史に、マバラが説明を始める。


「おとなしいだろ、この犬。普段は吠えないように訓練されている。でも訓練はそれだけじゃない。別の特殊訓練も受けていて、その強力な嗅覚で宇宙人――侵略者を見分けることができるんだよ。敵を見つけた犬は、その対象に向かってワンワンと激しく吠えて我々に教えてくれるんだ」

「ふうん……そうなんですか。では、この子もHAGEの戦士のひとりなんですね」

「もちろんだ。吠えたことによって敵から攻撃を受け、殺されてしまった子も今までにたくさんいる……。おっと、だいぶ時間を食ってしまったな。すぐに出かけるぞ! ひーな、例の移動用アイテムをテンシに」

「了解! というか、もう用意してあるわ。ほら、そこの机の上においてあるから、持って行って」


 ひーなが指さした先の机の上には、鉄道用の交通系ICカードが一枚と、まるで小学生が買い物に使うようなカラフルな小銭入れ、そして子犬を運ぶためのプラスチック製の白いキャリーケースがあった。


「え、電車で移動するの!? だとしても、ICカードがあるなら、小銭入れは要らないじゃないですか」

「ふふ……甘いな、若造よ。JRでは子犬を乗車させるのに、キャリーケースに入れたうえ、乗車用の切符が必要なんだ。よく憶えときな」

「若造って……。僕と隊長は二つしか歳が違わないんですけどね」

この世界(・・・・)では、それが大きな違いなのだ……。さあ、もう無駄話をしている時間はない。俺はすぐに着替えて下に降りるから、ビルの入り口のところでテンシは待っていてくれ」


 こうしてHAGE(ヘイジ)日本支部、特殊能力戦闘部の二人は、キャリーケースに押し込まれた子犬とともに、“会社”を出発したのであった。


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