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かげろーの短編集

うどんの国のうどんげりおん -ふにゃふにゃな話-

掲載日:2023/11/22

本作品はひだまり童話館企画『ふにゃふにゃな話』参加作品です。

ちゃらんぽらんなおはなしですが、まぁ子供向けという意味で童話ってことでひとつ……。

素敵な企画の末席にこっそり参加させていただきます。

○

 おそばの国《くに》のお側《そば》にある、おうどんの国。


 御汎用兎型万能食器《ごはんよううさぎがたばんのうしょっき》うどんげりおんによって、麺類《じんるい》は外獣《がいじゅう》コーンフレークの撃退《げきたい》に成功《せいこう》します。


 あれから三年《さんねん》……。

 おうどんの国は、深刻《しんこく》な水《みず》たりないにこまっていた。


 水たりない。

 それは麺類共通《きょうつう》のなやみです。

 おうどんの国に暮《く》らす麺類アニマルたちにはたっぷりのお湯《ゆ》が欠《か》かせません。


「はぁ、極楽《ごくらく》、極楽《ごくらく》」

 うさぎにきつね、たぬきにモチ。

 ぽかぽかあったかな温泉《おんせん》でくつろぐことが麺類のたのしみです。


 のんびりくつろいでいたいけれど、ちかごろは順番《じゅんばん》待《ま》ちですから、はやくでないといけません。

 うどんの国の白うさぎ、イナバ姫《ひめ》はひょいと耳をつままれ温泉の外へポイされます。


「いつまでも長湯《ながゆ》してるとふにゃふにゃになるよ、さぁあがったあがった」


 きつねにつままれ、イナバ姫はきつねにつままれた気分《きぶん》です。


「なんじゃ! ふにゃふにゃうどんのなにがわるい!」


「うちらうどんの国の麺類はコシが大事《だいじ》だってのに、ふにゃふにゃなんてダメダメ」


 これにはイナバ姫もぐつぐつと湯だつ心地《ここち》になりますが、しかし温泉の順番待ちはちゃんと守《まも》らないといけないので、ここはおとなしくします。


「それもこれも、水たりないのせいかや……」


 水たりない。

 イナバ姫はなやみます。

 湯上がりぽかぽか浴衣《ゆかた》に着替《きが》えて、のんびり橋《はし》の上でなやみます。


 しずしずとせせらぐ清流《せいりゅう》。

 ずっととおくを見やれば、浜辺《はまべ》の向《む》こう側《がわ》には海《うみ》があります。


 海はしょっぱい水たまり。

 水だけれど、あのしょっぱい水ではダメなのです。

 麺類《じんるい》にはしょっぱくない淡水《たんすい》がなくてはなりません。


 けれど淡水は、天から降《ふ》ってくる雨水《あまみず》が川《かわ》の水になったり、地下水《ちかすい》になったりしないとてにはいりません。


 うどんの国の歴史《れきし》は、水たりないの歴史でもあります。

 麺類は小麦《こむぎ》やお米を育《そだ》てるために、いつでも限《かぎ》りある水をどうやって分け合うか、話《はな》し合ったり、ケンカしたりしてきたのです。


 うさぎときつねとたぬきとモチと。

 うどんの国の麺類アニマルたちはそれらを乗《の》り越《こ》えて、今はなかよしです。

 けれど、このまま水たりないがつづけば、今よりギクシャクしてしまうかもしれません。


「はぁ、どうしたものかのう」


 そうなやむイナバ姫のウサギのながーいみみが、うーうーと警報《けいほう》をひろいます。


「これは……外獣《がいじゅう》!? こうしてはおれぬ!」


 イナバ姫があわてると、そこへ科学特捜基地《カトキチ》守備隊《しゅびたい》の車が!


「しゅつどうだ! イナバくん!」


「イツキ博士!」


 どうやら三年《さんねん》ぶりの、うどんげりおんの出番《でばん》のようです。







○

 科学特捜基地《カトキチ》ではあわただしく職員《しょくいん》の麺類がいったりきたり。

 格納庫《かくのうこ》にはでっかいでっかい、とてつもなくでっかいうさぎの影《かげ》ひとつ。


 これこそは――。

 御汎用兎型万能食器《ごはんよううさぎがたばんのうしょっき》うどんげりおん。


 イナバ姫は食券機《しょっけんき》をピッと押して食堂《しょくどう》のたぬきのおばちゃんに食券を渡すと、パシッと背中《せなか》を叩《たた》かれて送り出されます。


『パイロットの搭乗を確認』

『メントリ―プラグ接続』

『DACI《だし》を注入します』


『イノシン酸、グルタミン酸、ナトリウム正常値』

『グルテン拒絶反応なし』


『うどんげりおん、起動』

『目標、外獣グラノーラへむけて射出まで五、四、三、二、一、……射出!』


 イナバ姫は濃《こ》いめの甘いDACI《だし》がコクピット食器を満《み》たし、少しだけ息《いき》が苦《くる》しくなるも、すぐになじんできたところで。


 ぐっとコシを入れて屈《かが》んで。

 ぴょーんとバネで打《う》ち上げられて、科学特捜基地《カトキチ》からとおくの山林《さんりん》へと大きく跳《は》ねました。


 ぐーんとぐーんと。

 オレンジ色の夕陽《ゆうひ》を飛《と》び越《こ》えそうなほどに、高くジャンプしました。


 ずだんっ!

 ずだだだだんっ!!


 とてつもなくでっかいうどんげりおんの重《おも》たげな着地《ちゃくち》に、土《つち》は舞《ま》い、山《やま》は揺《ゆ》れ、鳥《とり》は騒《さわぎ》ぎます。


 イナバ姫は今、巨大《きょだい》なうどんげりおんと一心同体《いっしんどうたい》です。


 そのうどんげりおんより一回り大きな敵《てき》――グラノーラ。


 外獣グラノーラは、アライグマにそっくり。

 たぬきにも似ているけど、たぬきとアライグマはちょっとちがう。ちがうったらなんかちがう。


 グラノーラは両手《りょうて》を胸《むね》の前《まえ》であわせて、不気味《ぶきみ》にみぎひだりをながめて、やがてあるところを見つめます。


「こやつ、温泉を狙っているのかや!?」


 イナバ姫はあせります。

 外獣《がいじゅう》の狙《ねら》いは、水の源《みなもと》、水源を奪《うば》い去《さ》ることです。

 そのためには、どんな犠牲《ぎせい》もいとわないのです。


 温泉の水源をただただ渡《わた》してしまったらうどんの国はとってもこまります。そんなことをおかまいなしに、どこかのだれかがうどんの国の外から外獣をよこすのです。

 けれど、それ以上に、まだ温泉にいるひとたちがピンチです。


『ニュララララララララ……』


 不気味《ぶきみ》な鳴き声《なきごえ》です。

 イナバ姫は、すこしひるんでしまいます。


 三年前《さんねんまえ》――。

 イナバ姫のおねえさんはこのうどんげりおんに乗って戦いました。

 そして、とても悲《かな》しいことに。


 コシを痛めて、全治三週間《かるい》の怪我《けが》で入院《にゅういん》しました。

 そして病院食《びょういんしょく》がおいしくなかったので、もういやだとやめてしまいました。


『ニュララララララララ……』


 外獣グラノーラはズシンズシンと一歩ずつ温泉に近づきます。

 イナバ姫もうどんげりおんを少しずつ歩かせて、戦おうとします。


 もちろん逃げるつもりはありません。

 この日のためがんばってきたし、うどんの国のみんなを守りたいきもちは本物《ほんもの》です。


 でも。


『コシぬけだぬ』


『ふにゃふにゃモチ』


『うどんの国にふにゃふにゃうさぎはいらないウサ』


 一生懸命《いっしょうけんめい》がんばって、そのせいでふにゃふにゃになったのに。

 みんなではありません。

 でも、そういう心無い悪口をいうひとがどこにでもいるものです。


 イナバ姫は、目の前のとてもとてもつよくておそろしい外獣と、目に見えないとてもとてもよわくておそろしい麺類と、ふたつにおびえてながらも――。

 橋を渡って逃げようとする、名も知らぬ、ちいさな姉妹をみつけて、決意《けつい》します。


「……そこで見ておれよ、ものども!」


 イナバ姫はさけびます。

 うどんげりおんもさけびます。

 夕陽《ゆうひ》を背にして、ふたつの大きな影がぶつかり合いをはじめました。

 



○

 夕焼《ゆうや》けの戦《たたか》いは、とても激《はげ》しいものでした。


 うどんげりおんの飛《と》び蹴《げ》りに、グラノーラの噛《か》みつき。


 なんのお構《かま》いもなく大暴《おおあば》れする外獣グラノーラに比《くら》べて、イナバ姫とうどんげりおんは森や温泉、逃げるひとたちを気《き》にして戦います。


「ぐっ、なんて堅いのじゃ、こやつ……!」


 外獣グラノーラは表面が硬くて、ゴツゴツ、ガサガサしています。

 うどんげりおんのコシがあって弾力《だんりょく》があるもっちりとした白いとしたカラダはすこしずつ傷《きず》つき、ボロボロです。


『うどんげりおんの弾力指数が危険領域に突入!』

『このままではうどんが千切れてしまいます!』


『コックピット内のDACIが外部に漏れ出しています!』

『イツキ博士!』


『……イナバくん、冷凍侵食弾《れいしょく》の使用を許可する』

『そんな!? アレを使ったら、温泉地帯がすべて氷の世界に……!』


 イナバ姫はなやみます。

 ズタボロのうどんげりおんを従《したが》えて、必死《ひっし》に戦いの中でなやみます。


「冷たっ……」

 うどんげりおんの足先《あしさき》が川の水にずぼっと浸《つ》かりました。そこでイナバ姫はひとつひらめきます。


 そうだ。

 こうすれば、冷凍侵食弾《れいしょく》を使《つか》わなくてもいいかもしれない。


 イナバ姫は、うどんげりおんに水浴《みずあ》びをさせます。

 ばしゃばしゃとたっぷり川水を浴びると、長いことずっと戦っていたうどんげりおんはコシがなくてふにゃふにゃの、ふにゃんげりおんになってしまいました。


 これではとても戦えそうにありません。


「そなたも……ふにゃふにゃになってしまえ!!」


 イナバ姫は吠《ほ》えます。

 ふにゃんげりおんも吠えます。


 そして外獣グラノーラにしがみつき、そのでろでろでふにゃふにゃなカラダでまとわりついて、温泉へ向かおうとする足を止めます。


 外獣グラノーラがあばれているうちに、やがてふにゃんげりおんはどろどろに溶けはじめます。


 外獣グラノーラのカチカチの乾《かわ》いたカラダは水分を吸収《きゅうしゅう》しすぎてしまい、かたちがくずれ、でろでろのふにゃんげりおんにうもれてしまいます。


 そしてとうとう、外獣はうごかなくなりました。


『目標、沈黙!』

『反応消失!』


『パイロットが危険です! 急ぎ、救出を!』


 夕陽のしずみゆく中、こうしてイナバ姫の戦いは終わったのです――。








○

「まずいのじゃ」


 病院食《びょういんしょく》のものたりなさにイナバ姫はふへーふまんをいいます。

 うどんの国の病院食は、コシのない具《ぐ》のすくないうどんです。

 よわっているひとでもたべやすく、ホントはあじだってすてたものではありません。


「……しかし、まぁ、これはこれでか」


 窓辺《まどべ》には、イナバ姫のおねえさんや科学特捜基地《カトキチ》のみんながおみまいに来てくれたときのフルーツやぬいぐるみがおいてあります。


 麺類《じんるい》の平和《へいわ》のために戦った名誉《めいよ》のふにゃふにゃうどん食です。

 そう思えば、まぁ、いいとしましょう。


 なにせこれ、ふにゃふにゃうどんげりおんを再利用《さいりよう》して作ったうどんですから。


「くふっ、ようふやけておるわ、こやつめ」


 イナバ姫はなやみます。

 水たりない。

 この長きにわたる問題《もんだい》は、イナバ姫ひとりでなんとかできることではありません。


 それは麺類共通《きょうつう》のなやみです。

 もしかすると、なんの解決《かいけつ》にもならないむだな戦いだったのかも。


 なんて、病院のベッドでたいくつにごろんとしてると、くよくよ、ふにゃふにゃしたりもします。

 でも。


「さて、ふにゃふにゃするのも飽きたわ、リハビリでもするかのう」


 イツキ博士の手紙《てがみ》には、製麺所《せいめんじょ》で作られる新型うどんげりおんの写真《しゃしん》がついていました。


 イナバ姫はうーんとめいっぱい背伸《せの》びして、朝日《あさひ》にあいさつするのでした。

お読み頂きありがとうございました。

お楽しみいただけましたら、評価、感想、ブックマークなどよろしくおねがいいたします。


うどんの国のうどんげりおん、いかがだったでしょうか?

いささか勢い任せもいいところな作品ですけども、ふにゃふにゃときいてうどんが頭を離れなかったのです、はい。

新型はうどんげりおんテーブルマークⅡです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ふにゃふにゃご一緒しておりますあき伽耶と申します。 うどんげりおんって、とキツネの油揚げにつままれながら、どんどん読み進めました。 あれやこれや上手にうどんにひっかけていらっしゃるのが…
[良い点] 拝読しました。 なんといいますか、90年代を彷彿とさせる展開と言いますか、胸熱でしたね。 しかし正直、うどんの国のうどんげりおんが、ふにゃんげりおんになるのは、納得いきません。私は、日本…
[一言] ズルズルなお話でしたー!
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