ダンジョンで女子パーティーに会ってしまいます。
つららの意思疎通に希望が見えてきた。おかげで赤点はなんとかならなくもなさそうだが、それはそれとして同じように赤点になりそうな生徒にも心当たりがあった。
セビ……ではなくシーダさんだ。
「シーダさん、学期末試験で使い魔との意思疎通の試験があるって知ってる?」
「ん?、知らない」
どうやら狐教師に釘をさされたのは自分だけらしい。
まさかシーダさんは使い魔と意思疎通ができるのか?という疑問が湧いてくる。
「テストで使い魔と意思疎通ができるのか試されるらしいけど…シーダさんは大丈夫そう?使い魔どんなのか知らないけど」
「ん。問題ない」
問題ないらしい。
まぁ、召喚にしろ他のスキルにしろ、自分で動かない使い魔を使役することなんて早々ないはずなのでたぶん大丈夫なんだろう。
やはりクラスで一番たよりにならない使い魔を持っているのは自分だけらしい。
「そっか…いいなぁ…。そういやシーダさんの使い魔ってどんな感じなの?」
授業でも一度も見たことがない。
そもそもシーダさんが授業を受けている姿を一度も見ていなかった。
「……道具が呼べる?」
「道具?」
道具を呼び出せるってどういうことだろうか。
マジックバッグがいらないようなスキルかもしれない。
でもそうなると意思疎通ができるか怪しいことになる。
「それは…意思疎通ができる感じなの?」
「まぁ。勝手に動くし」
「へー…」
どうも詳しく説明する気はないようだ。
シーダさんの様子から詳しく聞いたものか躊躇われる。
「ま、まぁ試験赤点にならなそうならいいかな。ぼくは赤点ぽいけど。お互い頑張ろう」
シーダさんは手を挙げて応える。
その様子をセビは少しめずらしいものを見たような顔で見ていた。
再びの探索日。
4階層をノーラの案内で危なげなく進み、ようやく念願の5階層への階段までやってくることができた。
「この階段の先が5階層!」
「のようだな!」
「やっときたわねっ!」
3人はテンション高い様子でノーラだけはそれを面白そうにながめていた。
「よし、それじゃ行こうか。隊列はいつも通り。ノーラのキューレは控えめに偵察してもらう感じでよろしく」
「はい」
5階層は4階層に続き、林の多いエリアになっていた。
だがこのエリアのどこかにレア種と呼ばれる強い魔物がいる。レア種は1~9階層の魔物からダンダムで選ばれ、その上位種がでる。おそらくどれも強い魔物なので警戒しながら探索をすすめていく。
「キューレ、近くの魔物を探して。もしレア種なら相手に見つからないようにすぐ戻ってきてね」
周辺探索に出されたモルビーはすぐに戻ってきた。
けれどその様子は少しいつもと違った。
「あの…レア種を見つけたそうですが他のパーティーがいるらしいです。どうしましょうか」
「あー…」
人気の狩場だし、そういうこともあるだろう。
ガードナーの魔王パーティーが10階層を抜けたので少しレア種狩り争いはおちついたかと思っていた。
一応どれくらいのパーティーがここで狩りをしているのか確認したほうがいいかもしれない。
モルビーが見つけたレア種は12にん。4パーティーが追いかけていた。
女子パーティーを含めたクラスメイトが2パーティー。一般の冒険者パーティーが2パーティーだ。
倒した後のドロップ権をどうするのか不明だが、ひどい奪い合いが行われているのを遠目にした。
「…………」
「女子パーティーは大体3グループで分かれてレア種狩りしてました。…今はどうなのかわかりませんが、装備こわれちゃった子たちの補填にきているみたいですね」
女子パーティーによるレア種狩りはまだとうぶん終わりそうもなく、今後も奪い合いになる可能性は高い。
彼女たちが潜らない日に来ればいいだけだが、そうなると今度は一般のパーティーとの奪い合いが残っている。
どちらにしても競争は避けられなさそうである。
「…グーグ、あっちからリアラたちが来るわ」
アメリアが指さした方からリアラ率いる女子パーティーが自分たちのいる丘に登ってきていた。
にこやかに手を振っている。
内心の苦手意識をかくしながら手を振り返した。
「リアラさん、おつかれさま。女子はレア種狩りいつまで終わらない感じなの?」
「やーグーグ君。もうしばらく終わらないねー。こないだのことで装備なくしちゃったこもいるからさ、たぶん半月はここで装備探しかなぁ」
「……それじゃ、半月はノーラを返さなくていい感じかな?」
「ん?、あぁ。ブララのことか。気に入ったのならしばらく貸してあげるよー。あげないけど。かわりと言っちゃなんだけど、うちのパーティーが狩りしてたらゆずってくれるとうれしいかなー」
「まぁ、それぐらいなら」
そのあと女子パーティーがダンジョンに潜る日を確認しつつ、話はノーラのことに変わる。
「ブララどうかな。今一人で行動してもらってるんだけど、グーグ君たちの役に立ってるかな?」
「うん。ぼくらのパーティーなら彼女は索敵や戦闘でかなりたよりになるよ」
「えー、ふーん。まぁそうなんだ?。少しは攻撃の役に立つようになった?」
リアラがノーラに架したのは火力のある使い魔を仲間にするということだった。だが仲間にしたのはモルビーであり、そこまで火力が上がったかというとそうでもなかった。
「…まぁ、それなりに?」
「そっかー。ダメかー。まぁいいや、ぶーららっ、元気してるー?」
リアラはノーラに楽しそうに絡みに行く。からまれたノーラは肩身がせまそうにしていた。
「あ、あの、使い魔増えました…」
「あーね。そのこなんだ?。まぁ無難じゃない?。このあたりで捕まえられる昆虫って言えばあとはアイアンビーくらいしかいないし、それにするのかなーって思ってたけど」
「……」
アイアンビーは進化種であり、一人で倒すのには苦戦を強いられる。それをダンジョンの抽選レア種でやるとなるとかなりの無理を強いることになり、下手をすれば死ぬことさえあるだろう。
それを当然やっているだろうという風に言われてしまうと、流石にノーラでも返す言葉がなかった。
「まぁがんばって?、期待してる?から。けどきちんと戻ってきてね。半月後にはゴブリンキングを倒す準備始めるからね」
「……はい」
そう告げて女子パーティーは新しく湧くだろうレア種を探しに丘を降りて行った。
「あいつ、期待してなかったわね」
アメリアは冷たい視線でリアラたちのパーティーが離れていくのを見ている。
「アイアンビーで合格点。モルビーでは期待外れと言ったところであろうな」
セビも溜息をついている。
「あの…いろいろすいません。わたしのせいでみんなにも迷惑かけちゃって…」
リアラのせいで雰囲気が悪くなっていることもあるが、レア種狩りに参加できなくなったことにも謝罪をしていた。
「いいよ別に。それにぼくらはノーラに助けられてるからね。レア種なんて狩れなくても問題ないさ」
ぼくは黄昏つつそう言うしかなかった。
5階層のレア種狩り。実際はようやくここまでこれたかと楽しみにしていたのだが。
まぁ仕方ないと言えば仕方ない。
あの競争を見せられてしまっては正直、躊躇していたところもあり参加するか悩む部分もあった。
今日は様子見だけにはなるがそれでも得られるものが無かったわけでもない。
「……ノーラ。あなた悔しくはないの?」
「え、ええと…」
あきらめ境地のぼくをおきざりに、アメリアがノーラに聞いていた。
「あなた、あいつに期待されてないのよ。たぶんもどっても置物にされるだけ。パーティーではどうでもいいグループに放り込まれたまま、活躍させてもらえずに取り巻きの一人になるだけよ」
「…………」
「うちのパーティーに来なさい。って言いたいけどね。うちはうちでダンジョンに潜ることを第一目標にしてないから、ノーラの求めるパーティーではないと思うわ。でも求めることがあるなら、はっきりやりたいことを言ってやりなさいよ」
アメリアは発破をかけていた。
彼女はやりたいことはきちんと決まっているらしく、だからこのパーティーに文句も言わずについてきてくれる。
けれどノーラは違う。自分のやりたいことができる環境に身を置くことをせず、それに不満の声をあげることもしない。
はっきりした性格のアメリアは少しノーラの自分を押し殺した部分に不満を持っていたようだ。
「そ、その…あのパーティーも嫌いではないですよ。仲のいい子もいるし、かわいい使い魔もいっぱいいるし、リアラさんも話しかけてくれるし…。でも、期待は…してほしいかもしれません…」
「そういうのを言えばいいのよ」
ふんすと鼻息を荒くしている。
ぼくは口をはさんだものかどうか悩みながら二人の横で悩んでいた。
「でも…実力もないですし…」
「そんなの、あのパーティーの女子のほとんどがそうじゃないっ。あれだけの人数がいてゴブリン倒せないんじゃ、そういうことなんでしょっ」
ゴブリンではなくゴブリンキングなのだが、確かにその面もあるだろう。
ゴブリンキングはやっかいな魔物ではあるが、ランクはDランクだ。以前に倒したアンガーボアよりも弱い魔物である。配下のゴブリンを召喚してCランク相当になる魔物だ。
見つけたときにさっさと倒してしまうか、召喚に使われる魔素が切れるまで粘れば倒せる程度の存在である。
そのどちらもできなかった中途半端なパーティー構成が今の女子パーティーということだ。
「なら実力を付ければいいのよ!」
「そ、んなぁ…?」
無茶を言う人はその青写真が頭にあるのだろう、胸を張って言った。
「グーグ、どうにかしてあげて!」
「ええ…?」
人に丸投げである。
その後女子パーティーの戦い方や使い魔の構成を聞きながら、その日は5階層で一戦もすることなく終わったのだった。




