学期末試験をなんとかするように言われます。
「グーグ君。そこのグーグ君話があるコン」
放課後、ぼくを呼び止めたのは狐教師ことカガスミ先生だった。
「君、使い魔使ってるコン?。そのうち学期末試験が来るコンよ。そこできちんと使えないと赤点コン」
「はえ?」
いや待て。そんな話は聞いていない。
必要なのは冒険者としてDランクになっているだけじゃなかったっけ?。
「え、聞いてないんですけど…」
「…難しいテストが出るわけじゃないコン。コップの下の隠された道具を命令で拾わせたりする程度コン。使い魔と意思疎通ができればすぐ終わるレベルの試験コンよ。意志疎通くらいはできてるコンな?」
「……いえ、いっさい動かないですけど」
「じゃ赤点コンね。再試験考えておくコン」
試験する前に再試験が決まってしまった。
嘆きたくなるが使い魔がアレではしかたがない。
「あの…他の生徒で動きの無い使い魔を使ってる子っていないですかね?みんなどうしてるんですか」
「植物系は動かない使い魔が多いコン。その時は他の方法で意思疎通ができることを示すコンよ」
あー、なるほど。「取ってこい」ができることが試験課題では無くて「意思疎通ができること」が試験課題だから別の方法でもいいのか。
うん、それなら
「だめじゃないですか!」
「大丈夫コン。再試験では転がれるだけで試験クリアできるくらい甘々にしてあげるコン。一発合格で夏休み満喫するコン」
夏休みをどう遊ぼうか考えている顔で試験談合を進めている。
が、しかし。
ぼくの使い魔は転がることさえできないのである。
「…………」
「……え?、まさか。そんなわけないコンね?」
ぼくの様子から察してしまった狐教師は驚愕の表情を浮かべる。
「……どうにかしてくるコン。手段は問わないコン。わかったコンね」
そう小声で釘をさし、周りを気にしながら去っていった。
あの教師は本当に教師でいいのだろうか。試験の前から不正をしろと言ってくる。
早く首にした方がいい気がするが。
まぁ、今のぼくが言えたことではない。談合をありがたく受けよう。
「…なんとかしないとなぁ…」
あては無かった。
「召喚」
カランと音がして氷のつららが振って来る。
机の上に転がったつららは、そのまま動くことなく透明な姿を保っている。
「つらら、転がって」
動くことは無い。
ただのつららでしかないそれは、一応使い魔のはずなのだけれど。
個体 つらら女
種族 妖
筋力 0
耐久 1
器用 1
感覚 1
知力 0
魔力 1
魅力 5
速度 0
氷耐性50
・冷凍術《一閃》
ステータスを視てみる。
「うーん……意思の疎通をってことなら、スキルを使わせればできるってわかるけど…」
ただしスキルを使うと死ぬのである。
冷凍術《一閃》は高火力攻撃の代償に武器が壊れるスキルだ。なのでつららで殴ったとたんに壊れて死んでしまうスキルである。
「ぬー…んー…いや、やらないよ。流石にやらないけどね」
いくらのぼくでも人生でたった一度しか出会ったことのない唯一の精霊?を、試験の赤点回避のためにカチ割ろうとは思わない。
ただこう動かないのではどうしようもないのだ。
「なんかないかなぁ…そういや他の氷から温度の影響はうけてたような気がするけど、うーん…」
シーダさんが魔術で作った氷の上に載せたことがある。その時は白く表面に霜がついていた。
ただそれは自分で付けられたわけじゃない。温度を自分で変化できるなら意思疎通の表明にはなるのだが。
「つらら、温度変化。冷たくなってみて」
変わらない。
「できないかぁ…」
融け始めてきたので一度戻して再召喚する。
「よし、温かくなってみて。融けきる前にもどすから、ゆっくりとね」
それも変わらなかった。
「ダメかぁ…」
変化はない。
本当につららは動かず、変わらず、意思の疎通ができない存在のようだ。
「ステータスも変わらないからね…」
前にノートに書いておいたつららのステータスのページを開いた。
『
個体 つらら女
種族 妖
筋力 0
耐久 1
器用 1
感覚 1
知力 0
魔力 0
魅力 5
速度 0
氷耐性50
・冷凍術《一閃》
』
「…………あれ」
個体 つらら女
種族 妖
筋力 0
耐久 1
器用 1
感覚 1
知力 0
魔力 1
魅力 5
速度 0
氷耐性50
・冷凍術《一閃》
「……魔力、1?」
魔力1だ。魔力が1あるということである。
魔力が0だといっさいの魔術が使えない。が、魔力1ならまったく使えないと言うわけではないはずである。
「ま、魔力があるよ!つらら、魔力が生えてる!」
どこで?
いつ?
なぜ?
何をしたから?
まったく思い浮かばない。温度変化?冷たくなろうとしたり温かくなろうとしたからか?
いや、スタータスを見たのは温度変化を試す前だった。
なら他の要因で魔力を得られたことになる。
「あ…シーダさんの氷魔術…」
魔術で作った氷の上に載せたとき、その氷の温度を得ていた。魔術の氷から何かを得た。
つららは、あのときに”魔力”の存在を知ったのだ。
魔術の氷の上に載せておけば魔力が増えていく。
なんてことはないだろうな。ステータスは基本的に獲得するもので他から勝手に得られるものではない。
この魔力の1もつららが理解したから獲得しただけで何もしないで与えられたのではないだろう。
つららはつららでゆっくりと成長しているのだ。
「はー…つららが育つなんて。すごいよ。偉いよつらら」
全くかわることのない使い魔だと思っていたけれど、きちんと成長していたのである。
0と1。たった数値1の違いだが、そこには大きな差があったのだ。
さて、つららが獲得した「魔力1」だが、これをどう伸ばしたものだろうか。
ぼくは再召喚したつららに声をかける。
「つらら。君は魔術が使える。今はまだ魔術として発現してないけど、魔力があるってことは魔術を扱う下地はできたってことだ。だから君に魔術の練習をしてほしい」
返事はない。
ほんとうに聴こえているのか不明だけれど、それでもやるしかない。
「つららはたぶん”水”属性が得意なはずだよ。だから覚えられる初級魔術は二つ。《治力》と《水弾》だね。治力は自分の内側で体を徐々に回復する魔術。水弾は外側に水で作った矢を3本飛ばす魔術だね。ぼくとしては水弾の方が試験を合格できるんだけど…どっちでもいいから使えるようになってほしいな」
それからぼくは知っている限りの二つの魔術の感覚を教えていく。
使えるようになるかは相性と感覚を掴めるかだ。
戦闘スキルとは違い、魔術スキルにはモーション練習なんてないから、ひたすら感覚を覚えるしかない。
内発の《治力》なら手をつないで感覚を教えることもできるのだが、ぼくは《治力》が使えないのでこの方法が使えない。
つららが説明だけで使えるようになることを祈ろう。




