後
ダンスが終わると私達は会場を後にした。
まだまだ今回の騒動の後始末があるのだ。
私達は貴賓室へとやってくる。
「やあ、エリザ」
「フリード兄様!?」
貴賓室で出迎えたのは、フリード・ローズワンズだ。
ローズワンズ公爵の孫、そのうち公爵家を継ぐだろう男だ。
私の従兄弟で、現在は王太子の側近をしている。
「その様子だと、プロポーズはきちんとできたようだな、アルディオ」
フリードが友人としてアルディオを見る。
「で、殿下、離して下さいっ」
フリードの視線が私の腰に回っているアルディオの手にいっていることに気付き、慌てて私はアルディオから離れた。
「エリザベート…もういいだろう?」
アルディオが残念そうにこちらを見る。
「俺はきちんと約束を守った。これで気にせずに君との婚約式をすることができる」
どうして王太子が今まで婚約していなかったのか。
それは、エリザベートとの婚約が困難であったからだ。
第一の理由は、ローズワンズ公爵の孫娘だからだ。
王家に嫁いだローズワンズ公爵の姉はアルディオの祖母にあたる。
アルディオとエリザベートでは血が近いという理由で、婚約者候補に上がることはなかった。
第二の理由は、ローズワンズ公爵家への権力集中だ。
公爵自身が政治的バランスが悪いということで、孫娘と王太子の結婚を渋っていた。
この二つは、国内の貴族が納得すれば問題がない。
一番問題なのは、三つ目の理由だ。
辺境伯爵であるコンラッド家は、ハバス帝国と国境に領地を持っている。
ハバス帝国の内政が不安定で、野心を持った帝国貴族がカデラート王国に戦いを挑んできていた。
年々規模が大きくなる争いのせいで、国境警備隊を指揮するコンラッド伯爵とコンラッド家の私兵を指揮するエリザベートの兄ミハエルが領地から離れられない事態が続いていた。
王家との婚姻の儀式は、当主と成人した次期当主二人が立ち会うことと定められている。
アルディオがエリザベートとの婚姻するためには、ハバス帝国との戦いを終結させ、尚且つ二人が領地から離れられる程度に情勢が安定していなければならない。
「エリザ、この婚約が成れば、お祖父様が公爵位を父様に譲ることとなっている」
「え!?お祖父様がっ!!?」
この国の絶対的権力者、ローワンズ公爵は死ぬまで公爵位を息子に譲らないともっぱらの噂だった。
エリザベート自身も、そうだろうと思っていた。
「帝国派が落ち着けば、お祖父様が睨みを効かせている必要はないからね。いい加減、城勤めなどやめたいとぼやいてらしたし」
初耳である。
「エリザが王太子妃になるのに反対する貴族の言い訳がこれでなくなったわけだ」
「うっ…」
「ということで、エリザ。これにサインを」
フリードが無造作に契約書らしい紙をテーブルに置く。
「おい、もう少しなんかないのか!」
大事な書類をぞんざいに扱うフリードに、アルディオが声をあげる。
よく見れば、私が婚約者に選ばれた旨が書いてある書類だ。
すでに王とアルディオ、ローワンズ公爵のサインが入っている。
「すでに議会が承認してある」
よく見れば、貴族院の議長のサインまで入っているではないか。
まさか議会の承認まで得ていたなんて信じられない。
「あとはエリザがサインをすれば、手続きが進む」
「フリード兄さま…」
「そんな情けない顔をしない、可愛いエリザ」
フリードがポンと私の肩を叩く。
「エリザベート、私ではダメか?」
「殿下…」
テーブルに置いてある私の手に、アルディオのものが被さる。
「不安か…?」
「ちょっとだけ…」
「大丈夫。どんな時でもエリザベートは俺が守る」
「それはイヤですわ」
「えっ!?」
私の返答に、アルディオが驚いて手を離す。
「私は守られるのはイヤです。私はあなたと共に戦います」
「ふふ…それでこそ俺のエリザベートだ」
そして、ハバス帝国との戦いを無事に勝利しおさめた父と兄がようやく王都にやってこれることになった。
卒業式から3ヶ月も経ってしまった。
王城に隣接する教会で、国王、アルディオ、父、兄、私で宣誓を行う。
「ここにそれぞれサインを…」
祭司長が告げる。
私達の後ろには国内の主要貴族が参列して、婚約式を見守っている。
私とアルディオにとって、長い日々だった。
私はこれでようやく、アルディオの隣に胸を張って立てるようになる。
辺境伯の娘として、領地で馬をかり、剣を持ち、国を守る方法もある。
だけど私は、私のことを愛してくれるアルディオの隣で、剣とは違う方法で国を守ろうと思う。
「アルディオ…あなたと共に、この国を守る者になりたいと思います」
「そうだね。今日が俺達の第一歩だ」
拍手に応えながら、アルディオにエスコートされて教会を歩く。
「どんな時でもエリザベート、君と共に……」
アルディオが私の手を取り、甲にキスを落とした。
一応完結ですが、番外編ができたら投稿します。
評価してもらえると嬉しいです。




