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私はエリザベート・コンラッド、17歳。

コンラッド辺境伯爵の娘である。

そしてこの国、カデラート王国のある意味国王陛下よりも権力を持っているローズワンズ公爵の孫娘である。


そんな私は今宵、学園の卒業のためのパーティーに参加していた。

パーティー会場には、盛装した生徒達が開会を今かと待ち侘びていた。

このパーティーの開会を告げるのは、この学園の生徒会長を勤め上げた我が国の王太子、アルディオだ。

彼の入場が告げられ、さざめいていた会場は静まった。

亜麻色の髪に青い瞳はその美貌を引き立てる。

令嬢なら誰しもが憧れ恋する存在。

そんな王太子は、最近になり一人の令嬢と事更に親しくしていた。

サザーン男爵家の令嬢、フィリア。

男爵家の養女となった彼女は、天真爛漫なその振る舞いと可愛らしい容姿で王太子をはじめとした多くの男性を魅了した。

このパーティーの王太子のファーストダンスはアルディオのことを熱く見つめる彼女であろう。

そう、言われている。


「今日はこの学園の晴れの日だ。私を始めとする最終学年の卒業を祝ってもらえること、有り難く思う。ここを卒業すれば、それぞれの道へと歩むことになる。この学園で過ごした日々はかけがえのないものになるだろう。今宵は最後の無礼講の時だ。身分関係なく楽しもう」

アルディオが開会を告げ、拍手が起こる。

壇上から降りた王太子は、ゆっくりとホールに歩いてくる。

王太子の彼がファーストダンスを踊り、パーティーが始まるのだ。

その場にいる人間が王太子の歩む先を見つめる。

婚約者のいない王太子がダンスのパートナーに選ぶ相手、それこそが彼の選んだ女性となる。

「アルディオ様…」

私の横でうっとりと王太子の名前を紡ぐのは、件のフィリアだ。

自分がダンスのパートナーに選ばれると信じて疑っていない。

彼女は物語のヒロイン。

平民あがりの少女が王子に見初められて結婚する。

今巷で流行りは、王子が自分の婚約者を捨て身分不相応な少女と真実の愛を貫く物語。

隣国、ハバス帝国では皇太子が庶子の子爵令嬢と恋仲になり、婚約破棄をしてその令嬢を妃に据えた。

身分違いの結婚だ。

その話は一般にも広く知られており、歌劇にもなっている。

フィリアも自分がそんな物語のヒロインになれるのだろうと期待の眼差しで王太子を見つめていた。


「ぜひ、私とダンスを踊っていただけませんか?」

私の目の前で立ち止まった王太子が、手を差し出す。

「私ですか?」

「もちろん貴女です、エリザベート・コンラッド。私の愛しいひと」

にっこりと微笑む王太子だが、わかってるだろう?という言葉が背後に見える。

王太子は私に拒否はさせるつもりはないらしい。

目線で戦っている私達の横で、フィリアが悲鳴を上げる。

「嘘よ!なんでアタシじゃないのよ!?」

なかなか手を取らない私に王太子はじれたらしい。

強引に私の手を取り、自分の方に私の体を引き寄せてた。

「なぜ、なんで?アルディオ様、私のことが好きだって!?」

「私が?キミが好きだと言ったことはないと思うが…」

王太子は右手は私の手を左手は私の腰をガッチリとホールドして、フィリアの方へと向いた。

「だ、だって…。昔に、城の外で会った女のコが好きだって

…。それって、アタシのことでしょ?」

大きな目を瞬かせ、フィリアが王太子に詰め寄る。

「いつ、私は君が城の外で会ったのだい?」

平民であったフィリアを王子が認識する機会はなく、アルディオに心当たりはない。

「昔、アルディオ様が城下にいらして、そこで買い物した時におしゃべりしました!」

フィリアご自慢のエピソードだ。

幾度となくフィリアがアルディオへと話していたはずなのだが、彼はそのエピソードを覚えていないらしい。


やり取りを聞いていた周りの令嬢がクスクスと笑い出す。

「なによっ、違うとでも言うの!?」

フィリアが小声で会話する令嬢を睨む。

睨まれた令嬢は首をかしげ、アルディオへと視線を送る。

アルディオはその視線を受けて頷く。

「僭越ながら申し上げます。殿下が幼い日々にお会いしたご令嬢とは、コンラッド伯爵令嬢のことですわよ」

「私もそう聞いておりますわ。何でも夏の度にローズワンズ公爵家の御領地に参られてそこでお会いした事があるとか…」

二人の発言に、周りの令嬢や令息達がうんうんと頷いている。

「ご存知なかったのですの?」

心底驚いた、と言わんばかりの令嬢の態度に、フィリアは地団駄を踏む。

「だからナニよ!アタシがアルディオ様の想い人なんですからっ」

フンッと鼻息荒く令嬢達を睨みつける。

「アルディオ様は愛しいアタシと学校に通えるのがとても楽しいとおっしゃったわっ」

そうでしょ!?っとフィリアがアルディオへと振り返る。

「そうだな。確かに愛しい人と共に学校に通えることが楽しいとは言ったことがある」

アルディオの言葉に、それ見なさい!とフィリアが胸を張る。

「それにまだ婚約者ではないから二人きりになることもできないから、早くアタシと婚約したいとおっしゃったし!」

ビシッと令嬢へと言い切るフィリア。

実はアルディオは愛しい人がフィリアだとは一度も言っていない。

ただ「愛しい人と二人きりになりたい」「愛しい人と早く婚約したいと、惚気のような愚痴をさんざんつぶやいていただけだ。

それをフィリアは自分に愛を囁いているのだと勝手に勘違いした。


「お可哀そうに、勘違いなさったのね。殿下はまだ婚約していないから、お相手の方の名を口に乗せることが許されていないだけですのに」

「なっ……!!?」

頬を手に添え、首をかしげる令嬢。

ところでこの令嬢は、カーリス公爵令嬢ウィリスであり、この場にいる令嬢の中では一番地位が高い。

ついでに言えば、ウィリスの母親は王妹で、アルディオとは従兄妹となる貴き血筋の方だ。

本来なら平民あがりの男爵令嬢が簡単に口をきけるようなことはできない。


「そもそも殿下に何故婚約者がおられないかご存知?」

「それは、アルディオ様が好きな方と結婚したいからでしょ!だからアタシと婚約するためにアルディオ様が頑張ってるって…」

「そうですわ。殿下はさる事情より婚約を結ぶことがてまきておられないだけ。婚約のために殿下は意に染まぬことをしておいででしたわ」

大変でしたわねぇ、とウィリス。


「だから、アルディオ様がアタシと婚約して、アタシが王妃になるんだからっ。そうでしょ、アルディオ様!!」

私達の方へとフィリアが駆寄ろうとする。

アルディオが腰から手を離し、私の身を自身の後ろへと下がらせた。

「サザーン男爵令嬢フィリア」

「はい、アルディオ様」

名前を呼ばれ、フィリアは立ち止まりニコリと微笑む。

今からプロポーズでもされるのかと待ち構えるような、夢見る表情をフィリアが浮かべている。

「王太子である私に近づき、王妃になろうとする野望を隠そうともしない。君の父親、サザーン男爵の指示であっても、この国を陥れようとした行いに加担した罪は重い」

「なにを…?アルディオさまぁ?」

わけがわからないと、上目遣いにフィリアがアルディオを見つめる。

「サザーン男爵を始め、我が国をハバス帝国へと売り渡そうとした重罪人は全員捕まった。そして君も、父親同様国家転覆罪の容疑がかかっている」

「はっ……?」

ポカーンと口を開けて固まっているフィリアは、もしかしたら父親が何をやっていたか、何も知らないのかもしれない。

「この者を連れて行け!」

アルディオの号令で、会場に入ってきた騎士がフィリアを捕らえる。

「なぜです!?どうしてぇ、アルディオさまぁぁ」

フィリアが泣きながら叫ぶ。

会場から無理矢理連れ出されいくが、アルディオはフィリアの方を見ることはなかった。


「せっかくのパーティーを騒がせたな。だが、安心して欲しい。我が国の安寧を脅かしていた者共はすベて捕らえた。私は約束を果たしたことを、今ここにいる君達に証人になってもらう」

アルディオが私に向かって跪く。

「我が愛しのエリザベート。ようやく君に変わらぬ愛を捧げることができる。どうか、私と結婚してくれないか?」

アルディオが左手を私に向ける。

彼の手を取れば求婚が成立するのだ。

「エリザベート…」

私はアルディオの顔を見る。

幼い時に出会い、短い期間であるが共に過ごす中で彼の想いを与えられてきた。

だから、私もいい加減腹を括る時なのだろう。

「お受けいたしますわ、アルディオ様」

私はアルディオの左手にそっと、自分の手を添えた。

ワッと声が上がり、拍手が起きる。

学園で共に過ごした生徒達は、ずっとこの二人の恋の駆け引きを見守ってきた。

卒業式でプロポーズに立ち会えるなんて、と感涙している者までいる。


私は立ち上がったアルディオと共に中央へと躍り出る。

そして、音楽と共にダンスを踊る。

こうして卒業式のパーティーが始まった。


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